何気ない瞬間にちょっとした不都合を感じて、「こんなサービスがあれば良いのに!」と思う人は少なくないだろう。だが、それを形にする情熱を持った人は、どれくらいいるだろうか。さらに、それをユーザーから求められるサービスへと成長させられる人は、ごくわずかだ。
電子機器(新品・中古品)の買取価格を比較し、希望に合った買取条件で開発業者を探せるサービス「ヒカカク!」を運営するジラフの代表取締役 麻生輝明氏はそんな人物の一人である。某VCからの内定を辞退し、現在は一橋大学商学部を休学しながらサービス開発・改善に勤しむ。
ジラフ 代表取締役 麻生輝明氏 |
起業のきっかけは、内定が出たのち時間に余裕が生まれ、ふとサービス開発を思い立ったことに遡る。ものづくりに夢中になる中で、麻生氏が思い出したのは2006年前後のネットバブル期だった。
「当時、僕は中学生で、コミュニティサイトを運営していたんです。最初はHTMLがわからなくてもサイトを作れるツールを使っていましたが、独学で勉強して自分で一から作れるようにもなりました。自作サイトが成長していくタイミングでネットバブルが起こり、IT企業が続々と上場するニュースを目にして、起業やサービス開発に強い興味を持ったんです」(麻生氏)
その頃の思いが蘇り、2014年10月にヒカカク!をローンチ。今や買取商品数は7万点を超え、サイトに書かれた口コミ件数は5,000点を超える。さらに2015年7月には、全国1,000店舗のiPhone修理業者から、画面割れ修理やバッテリー交換、水没修理などのメニューごとに費用比較を行えるサービス「最安修理ドットコム」もリリースし、好評を博している。
電子機器(新品・中古品)の買取価格を比較し、希望に合った買取条件で買取業者を探せるサービス「ヒカカク!」公式Webサイトイメージ |
「ヒカカク!も最安修理ドットコムも、商品を買うときではなく、使っているときに起こる課題を見据えている点に特徴があります。購入時は収益を上げるポイントになるので、展開されるサービスもありますが、それ以外の瞬間は見過ごされがちです。そこをサービス化することが求められていると思います」と語る麻生氏に、ヒカカク!開発の経緯や起業への思いを聞いた。
買取業者探しにかけるコストを下げたかった
麻生氏 : ヒカカク!の起源は、2つの出来事にあります。1つは、大学3年の頃の体験で、使わず持て余していたタブレットを売りたいなと思ったんです。そこでまずオークションサイトを覗いてみたところ、面倒くさそうだと感じて断念しました(笑)。次に、買取業者に売ろうと思いましたが、安く買い叩かれるイメージがあって嫌だなと……。
できるだけ手間をかけたくないし、高く買い取られたいとぼんやりしていたら、気づいたときには1年以上経っていたんですよね。不要なものがあっても、処理するアクションが面倒で放置しがちになりませんか。
2つ目は、大学4年の頃のエピソードで、僕の友人に古着店や楽器店などで、よく不要品を売る人がいたんです。彼から「毎回何店舗かお店を回って、査定額を比較した上でなるべく高く売っている」と聞きました。でも、よく考えると1店舗ずつ回るのは大変ですよね。地方だとなおさら時間的コストがかかるでしょう。
この2つのエピソードがきっかけとなって、買取価格の比較から買取までWeb上で完結すれば、かなりの効率化を図れることに気づき、ヒカカク!というサービスを想起しました。
価格を知るという意味では、クルマのような高額商品を売る際に一括査定するサービスは昔からありました。でも、ああいったサービスは、査定申し込み後、結果が通知されるのを待たないと、いくらで売れるかわからないんですよね。
あらかじめ買取価格が比較できるサービスがあれば良いのにと思いましたが、日本にはなかった。だから僕たちは、Webサイト上で買取価格を公開し、ユーザーが自らの意思で売り先を積極的に選べるサービスを作ることにしたんです。
(2015年8月)現在は電子機器を中心に取り扱っていますが、実は当初、電子機器と楽器を取り扱うつもりでした。でも、楽器店に話をしにいくと、あまり良い反応を得られなかったんです。楽器業界は大手やチェーン店が大半で、トップ企業を取り込まない限り難しいなと。
一方で、電子機器は小規模な買取業者が多く、楽器よりも事業として進めやすかったので、動き始めてから約2週間で、電子機器1本に絞ろうと決めました。
今すぐの課金やマネタイズは、考えていない
――― ちなみに、サービスサイトを見ていると、高額な買取額が目立つのはなぜでしょうか?
小規模な買取業者を中心に掲載しているからです。そもそも買取業者によって買取価格が違うのは、コスト構造が異なるから。多くの大手買取業者は駅前の一等地に店舗を構え、多大な広告費を投下しているぶん、買取価格を下げないと採算がとれなくなります。一方、広告費にあまりお金をかけていないため、大手と比べて買取価格を高く設定できるのが、小規模な買取業者の特徴です。
ヒカカク!のようなプラットフォームビジネスの成否は、どれだけ多くのプレイヤーを集められるかにかかっていると思っています。短期的な利益を上げようとしても意味はありません。そのため、僕たちは(2015年8月)現在の状況を将来への投資として捉え、買取業者の掲載を基本的に無料としています(有料プランもある)。ユーザーの声に応えられるサイトを作るために、買取業者の掲載を無料にし、高額買取を行う小規模な買取業者をたくさん集めているんです。
時期は未定ですが、いずれは買取業者に課金するビジネスモデルを想定しています。ヒカカク!に出稿してもらえば、自社サイトを一生懸命作って集客する必要がなくなり、ヒカカク!内で買取業務を完結できる ―― そんな状態を目指しています。
――― ローンチから今に至るまで、サービスの認知拡大のためにどのような取り組みを行ってきたのでしょうか。
主にSEO施策とコンテンツの拡充です。SEO施策については、キュレーションメディア「MERY」のSEO担当の方からいただいたアドバイスを地道に実践してきました。サイト構造をテコ入れし、Googleから高い評価を得られやすくしたんです。
コンテンツの拡充については、サイト内に買取をテーマにしたコラムを月10~15本制作し、現在200本以上(2015年8月26日時点)掲載しています。査定額を上げる方法や売るときの注意点など実践的な内容が多いです。初期の頃は僕たちが書くこともありましたが、今は外部のライターさんにお願いし、編集・掲載は社内でやっています。
検索でヒットしたコラムから本体サイトへの流入も多いですね。メディアECなんて言葉もありますが、ヒカカク!でもその仕組みを取り入れています。コラム本数が増えて4カ月くらい経ったあたりから、SEO施策が効いてきたと感じています。
まとめると、ユーザーにとって使いやすいサイト構造を追求し、ユーザーにとって有意義なコンテンツを作り続けるといった、あたりまえですが正しいことをやり続けることが大事だと思いますね。
「サービス立ち上げ時から仲間探しをすべきだった」という後悔
――― ここからは起業にまつわるお話も伺います。起業前後を振り返ってみて、「やり直したい」と思うことはありますか?
創業当初にもっとたくさんの人に会って、一緒にやっていくメンバーを早く見つければ良かった、と思っています。手伝ってくれる学生はいましたが、彼らは4月から就職し、事業の根幹に長期的に関わる人間は僕一人という状態が3~4カ月続きました。要は、自分が内定を辞退して起業しようと覚悟を決めた一番苦しい時期に、事業を運営していく体制が築けていなかったんですよね。そのため素早く事業を進めることができなかった。心が折れそうになったこともありましたよ(笑)。
今は3月末頃から最近にかけて採用した、僕を含めて5人のメンバーで動いていますが、人を集めるのに相当苦労しました。僕はサービスができてからで良いやと採用を先送りしていましたが、それは間違いでした。
現状として、外部資本を投下しながら、ヒカカク!というサービスの可能性を検証する時期に入っていると考えています。この状況で、成長・拡大中のサービスを一緒にやろうと誘うよりも、立ち上げから一緒にやってもらえないかと誘うほうが、人材を採用しやすかったなと。やはりゼロからプロダクトを作り出すのとそうでないのとでは、入ってくる人のマインドも全然違うと思うので。
――― 最後に、起業して約1年経ちますが、創業期を経て感じたことを教えていただけますか?
起業に興味を持つ人は多いですが、最初の一歩を踏み出せるかどうかで、大きな差が出てくると思います。一歩踏み出したら、話がどんどん大きくなっていくので、嫌でも進まざるを得ない状況になります。初めて挑戦することですから、怖いと感じる気持ちはわかります。最初は何をすれば良いかもわかりませんし。それでも、やらないといけない理由や使命のようなものがあるなら、チャレンジしないのはもったいないです。
とくに、昔から作りたいサービスがあって、長期間考え続けてきたのであれば、挑戦すべきだと思います。十分に考え尽くしたものを形にすると、その過程で必ず得るものがあります。それに、実際にやってみないとわからないこと、見えてこないことはたくさんありますから。やってみて学ぶことに価値があるのではないか、と今は純粋に感じています。
2015年7月、同社の新サービスとして、全国1,000店舗のiPhone修理業者から、画面割れ修理やバッテリー交換、水没修理などのメニューごとに費用比較を行えるサイト「最安修理ドットコム」もリリース。このサービスはローンチ後、TechCrunchやギズモード・ジャパンなどさまざまな媒体で取り上げられた |