チーム・コミュニケーションを円滑にするビジネスのサポートツール「Slack(スラック)」。コロナ禍におけるリモートワーク文化が進んだことも相まり、近年は多くの企業が導入を始めている。では、Slackはどのように企業のコミュニケーションを円滑にしているのだろうか。今回は2016年より全社的にSlackを導入したナビタイムジャパン(以下、ナビタイム)の事例を紹介する。→過去の回はこちらを参照。
社内コミュニケーションをSlackに一本化しメール受信率23%削減
ナビタイムがSlackを導入したのは2016年7月。当時は他のチャットサービスを使っていたが、テキスト中心のコミュニケーションしか行えないことが課題だった。
ナビタイムでは、テクニカルな業務が多いからこそ「開発ツールをはじめとした他のアプリケーションとの連携機能が欲しい」と社内からの要望があったと、ナビタイムジャパン 経営推進部 情報システム/開発サポートチームリーダーの天野剛志氏は振り返る。
「開発ツールでジョブを回したりするときに、そのアクションをチャットツール上で通知させるような連関性を持たせたかったんです。当初は全社導入の前に、希望者だけでのパイロット導入を検討していたのですが、希望者を募集したところ、想定を超え社内の7~8割ほどの社員がパイロットに応募してきました。そこでパイロット導入を待たず全社導入を開始しました」(天野氏)
当時、Slackの日本語版が提供されていなかったため、2016年時点では英語版を導入し、2019年5月には有料のプロプランへと変更。現在はビジネスプラスを全社で契約し、1つのワークスペースに2500ほどのチャンネルが存在している。
基本的にはチャンネルの命名規則や機密情報のアップロード以外に、厳格なルールを設けていない。社外組織とチャンネルごと繋がれるSlackコネクトで、社外の取引先をゲストとして招待することも多い。社員はGoogle Workspaceのカレンダー連携でタスク管理を行うほか、Jira SoftwareやConfluenceなどの開発系ツールを積極的に連携しているという。
活発にSlackを活用している印象を受けたのは、2020年に社内コミュニケーションをSlackに一本化したことだ。コロナの影響で全社的に在宅勤務に切り替り、チームごとの朝会やToDoの整理もSlack上に置き換わった。また、在宅で仕事を開始・終了するときにはSlack上のワークフローを起動させる、といった新たな取り組みも導入された。
社内コミュニケーションツールを統合した結果、Slack内でオープンに情報が流れる環境を実現しつつ、一方ではメールの受信数を23%削減したという。コミュニケーションプラットフォームをSlackに統合した理由について、天野氏は「情報の不整合が生じていた」ことを挙げる。
「何か連絡を取るときに、Slackで送る人とメールで送る人など、連絡手段が社員によってバラバラだったんですね。また、コロナ禍で全員が出社できない中、顔が見えなくても各社員の状況をスムーズに把握できるような仕組みが必要でした。そこで2020年7月ごろから移行準備をスタートし、10月に完全移行を行いました」(天野氏)
社内ルールやガイドライン、コロナ禍での運用
当初は「Slackを浸透させることにハードルがあった」と天野氏。草の根的に利用を呼びかけていくと、次第に独自でBotを組み込んだチャンネルを作成するなど、利用方法にも幅が広がっていった。コロナ禍に突入してからは、なんと「匿名でアイデアを募集するパブリックチャンネル」なども誕生したという。
「自分の名前を隠しながら公のチャンネルでアイデアを投げかけて、全社員が自由に返信やリアクションができる仕組みを作った有志のチームがいました。例えば『こういったサービスがあると良いなと思うがいかがでしょうか』や『このアイデアに対する意見を聞かせください』など、投稿を匿名でできるようになります。これまで、パブリックの場だとハードルが高くて発信できなかったアイデアを積極的に社内に共有でき、さまざまな意見をもとに、より良いサービスを生み出すためのコミュニケーションの場になっているようです」(天野氏)
2021年10月からアイデア募集チャンネルを運用し、4カ月ほどで数十件のアイデアが出ており、その中には実際に検討しているサービスや開発中の機能もあるという。天野氏は「匿名化することでより気軽にコミュニケーションをとれるチャンネルとなり、活発な会話が生まれ、新たなサービス開発に繋がっていると思います」と話す。
では、なぜ応用的な活用方法が現場から次々と生まれていくのだろうか。天野氏は次のように分析する。
「われわれ管理者がチャンネル作成において厳格なルールを設けていないからこそ、基本的に何か新しいことを試しやすい環境はできていると思います。ただ、開発者が多い企業だからこそ新たな技術に対するリアクションが高い、という前提もありそうです。チャンネルに参加するメンバー同士が音声ミーティングを行える機能の『Slackハドルミーティング』がリリースされた日は全社で在宅勤務だったのですが、一気に利用が広まった印象を受けました。今では上司とのミーティングにGoogle Meetを使い、突発的なやりとりやテキストベースだと説明が難しい対話などはハドルミーティングを活用する、といった使いわけも生まれているようです」(天野氏)
バックオフィス業務を自動化し、社内業務の効率化を進めたい
積極的なSlackの活用が加速した結果、ナビタイムでは2019年7月よりSlack向け乗換検索アプリ「NAVITIME for Slack」の提供をスタートした。
Slack上で乗換検索ができるほか、乗換経路をチャンネルやチームメンバーに共有すること、また駅の混雑状況を検知しBot通知することも可能だ。日本法人が独自に提供するサービスでありつつも、2020年2月から世界58エリアの乗換検索に対応しているという。
一時期はグローバルアプリのランキングの中でも高い利用率を占めた「NAVITIME for Slack」。これからコロナ禍が落ち着き、ビジネスパーソンの都市間での移動が活発になれば、利用の機会は著しく増えていくことだろう。
では、ナビタイム社内では今後、Slackをどのように応用していくのだろうか。これからの運用方法について、天野氏は「社外とのコミュニケーションをSlack上でさらに拡充していきたい」と展望を語る。
「現在はSlackコネクトを通じ、約40組織と繋がっています。社内コミュニケーションをSlackに一本化できましたが、社外はまだまだ拡充できると思っています。現在、メールベースでコミュニケーションを行なっている取引先とも、積極的にSlackへと切り替えていければと考えています」(天野氏)
同時に「Slack起点で行える業務を増やしていきたい」と天野氏。現在、業務を自動化するシステムのWorkatoをSlack上に導入し、主に経理や総務、労務などバックオフィス系の業務をSlackで代替できるような仕組みづくりを検討している。
「従来は経理に請求書を提出するとき、メールやSlackのDMを送っていました。しかし、本年度からWorkatoを活用することで、いつでも書類を申請できるようになり、ある程度のところまでは自動で処理を進められるようになりました。今後は経理だけではなく、社内のバックオフィス業務をSlack上で自動的に行えるようにして、バックオフィス業務全般の自動化をサポートしていきたいと思っています。ちなみに、私はSlackの動画や音声のレコーディング、共有機能であるクリップでWorkatoの操作画面をレコーディングし、全社展開用マニュアルの作成に活用しています。動画で見せたほうがテキストの説明よりも早いので、すごく重宝しています」(天野氏)