こんにちは! 税理士の高橋秀明です。今回(最終回)のテーマは、決算数字の見方・P/L総括編です。いままで、P/L(Profit and Loss Statementの略称)損益計算書の構成をご覧頂き、そして当事務所のクライアントの実際の決算数字を見てきました。今回は、実務の現場では、どのように経営指標を見ているかをご紹介しましょう。

「P/L損益計算書は、一定の会計期間に属する諸収益(期間収益)と諸費用(期間費用)との差額としての収益余剰を当期純利益として確定する仕組みをもっている」(武田隆二著『最新財務諸表論』より引用)と、以前もお話ししました。これは、通常の決算を迎えた時の決算対象となる会計期間の総売上高と、それに係る総仕入・総費用を減算して当期の利益を算出した集計表のことで、P/L(損益計算書)と呼んでいるものとなります。

通常の企業においては、この手続きを1年に1回決算時に行うのではなく、日々会計処理を行い、1カ月経過後に月次決算としてP/L損益計算書を作成し経営判断に資するのです。そして、毎月作成したP/L損益計算書を積み上げたところで1年間の総締めとして決算書の作成となります。

ここで、企業経営における企業経営サイクルを説明します。

皆さんの中でもご存知の方も多いと思います。 いろいろな考え方があるようですが、私が用いる用語は次の通りです。

PLAN(計画)、DO(実行)、CHECK(検証・反省)、ACTION(次への行動)                  

企業経営は、長期・中期・短期事業計画を策定し、事に当たります。短期は通常1年間を指します。中期は、向こう3年間くらいでしょうか。長期は、5年や10年を指すようです。

中小企業においては、将来的な構想はあるものの短期計画で経営の舵取りをすることが一般的と思います。中小企業の社長と筆頭株主は、同一人物が大半ですので、社長の方針は、そのまま株主の意向を反映しているものとされて、社長の方針どおりに進んでいきます。社長の責任と使命は大変に重いものとなっています。

計画の策定については、長期、中期、短期とあっても、その目標地点への到達行為については、同様です。ここでは短期、すなわち1年計画を前提に話を進めていきます。

中小企業における3月期決算の場合、3月から4月ぐらいには、次年度の経営方針や事業計画の策定はされています。3月期決算後2カ月以内(会社法上3カ月以内)に決算を終えて、決算書を株主総会で報告・承認されて税務申告書を課税庁へ提出します。

この決算書の報告・承認が株主総会でされた時点において次年度の事業計画を報告するのが一般的でしょう。

以上の手続きを踏んで短期事業計画の策定がされたとしましょう。企業は、それに基づき日々経営を進めることになります。

1 PLAN(プラン):計画 企業が目標を設定して1年間の計画を立てます
2 DO(ドゥー):実行 企業が立てた計画を実際に実施することで、結果を図ります
3 CHECK(チェック):検証・反省 企業が実施した計画の結果を受けて評価します。その評価が計画通りであったかを比較検証します
4 ACTION(アクション):次への行動 検証結果を受けて計画どおり進捗していれば、続行です

しかし、なんらかの反省点等があれば計画の改善を図ることで、計画の軌道修正をすることになります。以上のような企業経営サイクルを企業が循環させることでより良い経営へと導かれていくものと思います。短期事業計画を1年間と設定した場合、その日程にあわせた形でのプランが必要となります。

通常の企業は3カ月ごとに計画の進捗と結果・評価を受けながら、進んでいきます。この経営サイクルは、企業全体からブレイクダウンして個々人にも当てはまります。個々人は、自身の経営サイクルを立案実行して日々努力をしていく。そのことは、自身の成長とともに企業への貢献にもつながっていくものです。

それでは当事務所の実際の顧問先の数字の変化を見みてみましょう。

第1四半期

まずは、最初の3カ月です。前期と比較してどうでしょう。 売上高は、前年同月比で4,278千円減少しています。しかし、売上原価が7,419千円減少しているため、第一段階利益の粗利益(売上総利益)は3,140千円前年同月比増益となっています。

前期比較要約残高試算表・損益計算書(自平成19年4月1日 至平成19年6月30日)

しかし、販売管理費が8,270千円も前年同月比で増加したため、第二段階利益の営業利益(損失)は7,485千円となり、第五段階利益である最終の当期利益も8,051千円の損失となっています。

前年同月比で最終利益(損失)は、5,125千円も増加していることになっています。

企業の計画は、前年より20%上乗せで経営の舵取りをスタートさせました。ここでは、決算後の売上が思うように伸びず、結果、前年比割れを起こしました。しかし、売上原価については、抑制効果があったと検証できます。   販売管理費については、前編のデータをご覧頂くと分かりますが、この時期第1四半期は、管理部門の人材採用に伴う人件費と10周年記念旅行費用を支出しています。その結果、費用が過大になっています。このマイナス要因は、当初の事業計画にて折込済みですので、問題ないマイナスとなっています。

第2四半期・半期

半期での比較はどうでしょう。

売上高は、前年同月比で15,000千円減少しています。売上原価は2,797千円減少しており、第一段階利益の粗利益(売上総利益)は12,203千円前年同月比減益となっています。売上高の減少は事業計画比においては、大きなマイナスとなり、軌道修正では間に合わず計画そのものの全面的見直しに迫られています。

販売管理費も増加し、第五段階利益である最終の当期利益も16,791千円の損失となってしまっています。不測の事態は資金繰りを圧迫し厳しい経営判断をせざるをえない状況となっています。

前期比較要約残高試算表・損益計算書(自平成19年4月1日 至平成19年9月30日)

この企業は、下期にむけ社長が陣頭指揮をとることになりました。

第3四半期

9カ月をご覧下さい。社長の陣頭指揮により売上に回復の兆しが現れました。しかし、売上高は前年同月比で5,868千円増収したものの、売上原価高となり、粗利益(売上総利益)は前年同月比で6,985千円も減益したことになっています。

前期比較要約残高試算表・損益計算書(自平成19年4月1日 至平成19年12月31日)

さまざまな要因も重なり、第2四半期での最終利益(損失)△16,791千円は、△5,417千円まで抑制することができています。

年末から年始にかけての3月決算へむけてもう一踏ん張りの時期となり、最終の四半期を迎えました。

第4四半期・決算

決算へむけての最後の3カ月です。上半期、大幅に減少した業績でしたが、早期の事業計画の全面的見直しと社長自らの陣頭指揮により、業績の底上げに成功しました。この事例は、稀なケースですが、教材としては良いため掲載しました。

前期比較要約残高試算表・損益計算書(自平成19年4月1日 至平成20年3月31日)

事業計画では、売上高20%成長でしたが、前年比でなんとか、10%程度の成長を成し遂げることができました。第三段階利益である営業利益も前年比2倍以上をマークしたため、最終段階利益の当期利益は、10,387千円を計上することになりました。

計画の立案は大切です。しかし、それを実行するのは、企業であり。なかんずく企業の構成員である人です。PLAN、DO、CHECK、ACTIONという企業経営サイクルを経営トップから一社員まで、実践することで効率経営がなされていくものと信じます。

みなさん、決算数字の見方・P/L総括編を概観してきましたが、いかがだったでしょうか?

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