こんにちは!税理士の高橋秀明です。今回のテーマは、決算数字の見方・実務編です。前回までに、P/L(Profit and Loss Statementの略称:損益計算書)の構成を概観して見ましたが、今回は、P/Lの実務編として当事務所のクライアントの決算書から経営成績の良かった会社の実際の数字を見てみましょう。

決算書の構成

決算報告書

右の図は、システム開発を事業として行う会社の実際の決算書です。実際の決算書の構成は、1.表紙、2.貸借対照表、3.損益計算書(販売費及び一般管理費を別枠で表示する形もあります)、4.製造原価報告書、5.株主資本等変動計算書、6.注記表の6点セット(製造業のみ4.の製造原価報告書を添付します)になっています。

簡単に説明すると、1.表紙にはタイトル『決算報告書』とあり、事業期間と何期目かを表示します。当事務所は社名のみ表示しますが、会社の住所・電話番号を表示するところもあるようです。

続いて、2.決算時点における企業の財政状態を示すバランスシート(貸借対照表)を表示します。

貸借対照表

そして、3.事業期間における企業の経営成績を示すP/L損益計算書へと続きます。企業の実態を把握する上では、通常2.と3.があれば十分です。

損益計算書-1

損益計算書-2

工企業である製造業であれば、商企業の場合の『当期商品仕入高』に相当するものが『当期製品製造原価』として記載されます。そして、その計算過程を示すために4.製造原価報告書を作成するのです。これは、当期における製造原価の計算に関する明細表であるとともに、その総括表でもあるのです。製造原価報告書は、当期総製造費用を原価要素別に材料費・労務費・経費に分けて表示し、それに期首および期末の仕掛品たな卸高を加減して、当期製品製造原価を計算します。製造原価報告書は、C/R(Cost Report)とも呼びます。

製造原価報告書

株主資本等変動計算書は、前期から当期までの資本と利益剰余金の増減を示し次期へ繰り越す残高を表示します。

株主資本等変動計算書

そして最終ページの注記表には、どのような会計処理を決算で行ったかなどを表示します。

注記表

会社の決算書は以上のような形式となっていますので、今後の参考にして下さい。

また、付け加えるならば、平成12年3月期決算から新しい財務諸表としてC/F(Cash Flow)キャッシュフロー計算書の提出義務が上場企業に限られ必要となりました。キャッシュフローとは、資金の流れのことで、企業の資金調達がどのようになっているのかを知る目的のための計算書となります。

試算表

次にこの企業の試算表を参照しながら、比率をみてみましょう。試算表とは、T/Bトライアルバランス(Trial Balance)と呼ばれるものです。

経済活動・経営活動の結果、生じる事象である取引は

取引→仕訳帳→総勘定元帳→試算表→財務諸表

の順で記録・計算し、帳簿に記入します。試算表は、貸借(左側と右側)平均の原理を利用して、勘定記録が正しいかを確かめるために作成します。

総勘定元帳に転記した金額はつねに貸借平均しており、すべての勘定を集計した場合、左側の金額と右側の金額の合計は一致します。一致しなければ間違いがあるということになります。試算表はこの間違いを発見し、訂正をすることにより、総勘定元帳の記録を正確にしようとするものです。

試算表は決算の時に必ず作成しますが、必要に応じて毎日、毎週末、毎月末に作成することも実務ではあります。具体的には、以下の間違いをチェックします。

(1)試算表は貸借平均。左側と右側の合計金額が一致するか
(2)各元帳の勘定科目がもれなく、試算表に転記されているか

しかし、

(1)取引仕訳そのものがもれてしまった時
(2)勘定科目を間違えて転記してしまった時
(3)一組の取引仕訳を反対に転記してしまった時

は、試算表で間違いを発見できません。ただし、実務では手書きはほとんどなくパソコンが主流になったため、事務手続きの効率化が図られ、間違いの検証も容易になってきています。

企業経営の実務の現場においては、月次で経理担当が試算表を作成し経営状況を確認しているのが一般的です。

それでは、上記の会社の試算表の数字を見てみたいと思います。今回はP/L損益計算書と決算書とを対比しながらご覧下さい。

残高試算表・損益計算書-1

残高試算表・損益計算書-2

残高試算表・製造原価報告書

P/L試算表およびC/R製造原価報告書を見ると、右端に「対売上比」の数字が表示されています。私が試算表を見るときは、この比率を見ながら検証し、正確と判断した時に決算書の作成にはいります。

前回までお話ししたように、まず、第一段階利益である「売上総利益」に着目し、その売上比率を見ます。この会社は製造業といいましたが、中小企業庁が提供している『中小企業の財務指標』を参照すると下記の表があります。

業種 売上高総利益率(%) 売上高営業利益(%) 売上高経常利益率(%)
建設業 22.4 1.2 0.9
製造業 31.9 2.1 1.7
情報通信業 57.4 2.0 1.6
運輸業 37.6 1.0 1.1
卸売業 21.7 1.0 0.8
小売業 31.9 0.2 0.3
不動産業 66.0 7.6 4.1
飲食業 64.3 0.3 0.2
サービス業 60.8 1.4 1.3

見てください。製造業の売上総利益率は平均31.9%とあります。この会社の粗利益率(売上総利益率)は24.57%となっていますから、この会社は全国平均よりも売上に対する直接的な製造原価が高く、粗利益率(売上総利益率)は低くなっているのが分かります。

しかし、この会社の前年比較をみてみると、実は、売上高は前年よりも26,991千円増収し9.08%伸びており、企業努力の成果として前年の粗利益率(売上総利益率)も、21.77%から24.57%と増益も果たしましたので、効率経営を成し遂げたと言えるのです。

前期比較残高試算表 損益計算書-1

前期比較残高試算表 損益計算書-2

また、前年比9.08%増加にて金額で26,991千円の増収から、さらに粗利益率(売上総利益率)も2.8%増加しているため、その増益金額は14,934千円となり、最終段階利益である「当期利益」にも反映された結果となっています。

全国平均を指標としてみるのも一考ですが、あくまでも参考程度です。企業内において前年対比、三期比較等を検証していくことで全体の分析を加えて決算総括することで、次期以降の経営に資することが重要であると考えます。

みなさん、決算数字の見方・実務編を概観してきましたが、いかがだったでしょうか? 今回の連載中、質問事項等があれば、メールして下さい。簡単な案件なら無料でお答えします。