国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・コラボレーション」は2022年5月12日、天の川銀河の中心にある巨大ブラックホール「いて座A*(エースター)」の撮影に初めて成功したと発表した。

これまで、天の川銀河の中心に巨大ブラックホールが存在することは、間接的な証拠から示唆されていたが、視覚的かつ直接的な証拠が得られたのはこれが初めて。さらに、アインシュタインが一般相対性理論で予言したブラックホールの姿かたちとも一致しており、彼の理論の正しさがあらためて証明された。

観測にあたっては、国立天文台をはじめ、日本の機関や大学、研究者も大きな貢献を果たし、とくに若手研究者の英知と努力が光った。しかし、この大成果の影には、ブラックホールほども暗い現実も存在する。

  • 天の川銀河中心の巨大ブラックホールの画像

    天の川銀河中心の巨大ブラックホールの画像と、研究に携わった日本の研究者たち

銀河中心の巨大ブラックホール

銀河とは、多数の恒星やガス、宇宙塵(ダスト)、そして正体不明のダークマターなどで構成された巨大な天体のことである。私たちが住む地球、そして太陽系も、「天の川銀河(銀河系)」と呼ばれる銀河に属している。

この宇宙には、わかっているだけでも数千億個もの銀河が存在する。そして、そのほぼすべての中心部分には、巨大なブラックホールが存在すると考えられている。

ブラックホールとは、非常に大量の物質が極限まで狭い領域に押し込められた天体で、非常に重力が強く、あらゆるものを吸い込み、光さえも抜け出すことができない。光も一切出てこられない真っ暗な穴ということから、「ブラックホール」と呼ばれている。

ブラックホールには、太陽の数倍程度の質量のものから、今回の主題である、太陽の数百万倍から数十億倍もの質量をもつ巨大なものもある。前者は、太陽のおよそ20倍より重い恒星が寿命を迎えるとき、つまり核融合反応を終えて自重を支えきれなくなり、潰れて一点に収縮することでできると考えられており、天の川銀河の中にも数多く存在すると考えられている。

一方、多くの銀河の中心にある巨大ブラックホールがどうやってできたのかは、未だによくわかっていない。たとえば、宇宙の進化の中でブラックホールが周囲の物質を吸い込み続けて巨大になった、あるいは多くのブラックホールが合体を続けることで巨大になったといったいくつかの説があり、論争と研究が続いている。

  • 天の川銀河の想像図

    天の川銀河の想像図。中心には巨大ブラックホールがあるといわれてきており、今回それが証明された。なお、私たちの太陽系は画像の中央やや下、銀河系の辺境に位置する (C) NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (SSC/Caltech)

いて座A*

こうした巨大ブラックホールは、私たちがいる天の川銀河の中心にもあると考えられてきた。この巨大ブラックホールは「いて座A*」と呼ばれており、太陽系から見ると、いて座のある方向に約2万7000光年離れている。

いて座A*という名前は、地球から見ていて座の方角に見えるためそう名付けられたもので、いて座の星座を構成している星のひとつというわけではない。また、いて座A*やそれが属するいて座Aは、肉眼で見えるわけではなく、そこから放たれる電波でしか見ることができない。

これまでの観測と研究から、いて座A*には太陽の約400万倍もの、非常に重くコンパクトな天体の質量があること、つまりブラックホールが存在する可能性が強く示唆されていた。これは、いて座A*の周囲の恒星の運動から導き出されたもので、この研究成果が讃えられ、ラインハルト・ゲンツェル氏とアンドレア・ゲッズ氏に、2020年のノーベル物理学賞を受賞したことは記憶に新しい。

しかし、それはあくまで間接的な証拠に過ぎず、本当に天の川銀河の中心に巨大ブラックホールがあるのか、それがどんなものなのかはわかっていなかった。

そこで国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・コラボレーション」は、2017年に地球規模の電波望遠鏡ネットワークを使って、いて座A*の撮影に挑んだ。

このとき、別の「M87」という銀河の中心にあると考えられていた巨大ブラックホールの撮影も行われ、その画像は2019年に発表された。

一方、いて座A*の画像化は後述する理由によって非常に難しく、観測データを画像化する処理、解析を行い、較正や修正、そして研究者の間での議論を繰り返した。そして5年もの歳月をかけた末に、ついにその姿が明らかになったのである。

研究チームのひとり、東京大学大学院の小藤由太郎氏は「まず科学的意義として、第一に強調したいのが、私たちの住む天の川銀河の中心に巨大ブラックホールがあることを、視覚的かつ直接的な証拠によって証明したということです」と力を込めて語った。

また、EHT-Japan代表で、国立天文台水沢VLBI観測所長の本間希樹教授は「私たちの天の川銀河の中心にあるブラックホールを、無事に画像としてお届けすることができました。観測から実に5年という長きにわたって、皆さんががんばった結果です。本当にこの日を迎えられてよかったと思います」と、その喜びを語った。

この画像から、いったいどんなことがわかったのか、そしてどうやって撮影に成功したのだろうか。

  • EHTが捉えた天の川銀河中心の巨大ブラックホール

    EHTが捉えた天の川銀河中心の巨大ブラックホール (C) EHT Collaboration

(次回に続く)