両備システムズでは「人軸経営」を打ち出している。これを下支えするのが、人財戦略だ。同社 経営推進本部 総務・人財統括部 人財戦略部 部長の三宅生子氏は「社員の能力と情熱を開花させ、組織力を最大化することが人財戦略の基本方針」と語る。連載7回では、両備システムズの人財戦略を追った。連載「『ともに挑む、ともに創る。』 - 歴史を未来につなぐ両備システムズの60年」の一覧はこちらを参照。

  • 「ともに挑む、ともに創る。」 - 歴史を未来につなぐ両備システムズの60年 第7回

    両備システムズ 経営推進本部 総務・人財統括部 人財戦略部 部長の三宅生子氏

同社は人材を「人財」と表記する。三宅氏は「人は宝であるという考え方が前提にある。社員の個性や能力を尊重し、それぞれの成長をサポートすることで、すべての社員が、力を最大限に発揮できる環境を整え、社員一人ひとりの満足度も高めていく。それにより、多様な人財が活躍でき、組織力を最大化するとともに、社員の人生が幸せになることを目指している」と話す。

人事部門の名称も「人財戦略部」としている。人事部門に「戦略」という言葉を用いている点も興味深い。三宅氏は次のように説明する。

「一般的に人事部門は、労務管理や給与計算などの事務作業を行う組織という印象があるが、両備システムズでは人事部門が経営と一体となり、戦略的に人財の獲得や育成する役割を担っている。人財戦略部では人事、人財開発、採用の3つの組織に加え、2025年1月からは人的資本経営推進グループを新設した。人財を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、企業価値向上につなげる人的資本経営に集中する専任組織だ。これまで以上にスピードアップを図りつつ、人財戦略を推進することになる」(三宅氏)

人財戦略部の名称は10年以上前から使われており、長年にわたり同社が人財の獲得や育成、成長を重視してきたことが分かる。人財戦略の中心となっているものが、冒頭でも触れた独自の人軸経営である。

両備システムズが掲げる「人軸経営」

両備システムズが推進する人軸経営とは、経営の中心に人を置き、一人ひとりの成長を促し、充実したキャリアを築くことができる環境の整備に注力することで、性別、年齢、バックグラウンドに関係なく、すべての社員が力を発揮し、それにより企業成長につなげることを目指している。

さらに、2016年に策定した行動指針「RSG-Way(Ryobi Systems Group Way)」に基づいた全員戦力化と、組織力の最大化にも挑んでいる。両備システムズが求める人財像として「両備グループの一員としての誇り、思いやりを持ち、広い視野、高い視点で、変革に挑戦している人財」を掲げている。

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    「RSG-Way(Ryobi Systems Group Way)」の概要

これは、働きがいのある環境において社員が個々の成長とキャリアを実現し、自己実現により顧客・社会に貢献することで、組織力の向上や会社の成長につなげ、さらに働きがいのある環境を実現することになる。このループにより、会社に対する想いを育み、社員自らの想いと重ね合わせて、ともに成長する姿を描いている。

三宅氏は「RSG-Wayでは、目指す人財像だけでなく、目指す会社像、目指すチーム像も設定している。特に目指すチーム像は、両備システムズらしさを象徴するもの」と述べ、チーム全員が互いに理解、尊重、助け合い、成長しながら、新たな価値を創造し続けるチームづくりに取り組んでいることを示した。

また、同氏は「強い個が集まり、それによって構成されるチーム全体が思いやりを持ちながら成長を遂げていくことが、両備システムズらしさの実現につながる」と、繰り返して強調する。

人財戦略におけるいくつかの具体的な施策を見てみよう。両備システムズでは全社経営戦略の実現に必要となる人財モデルを作成し、社員のポートフォリオとのギャップを特定することで、外部からの獲得や能力開発、異動を検討すべき社員を抽出して適材適所への配置転換を進めている。

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    両備システムズでは人事部門が経営と一体となり、戦略的に人財の獲得や育成を進めている

また、管理すべき人的資本情報や両備システムズらしさを強化するための指標を設定し、KPIの達成を目指すことに加え、人的資本情報を公開して、現在の状況と人財戦略が目指す方向性を社員と共有することにも取り組む。

さらに、キャリアビジョンの作成や人事評価制度の社内認知向上、部下を育てることを意識した管理職業務のリデザイン、管理職に必要なスキル習得のための研修などにも着手している。

キャリア自律と女性活躍を支える施策

他方、人財戦略部が課題としているのが、キャリア自律と女性の活躍である。

三宅氏は「社員のキャリア自律が進んでいない。そのための環境整備ができていなかったという反省もある。これまで、本部やカンパニーをまたいだ異動率は過去3年間で年間平均2%にとどまっている。自己申告制度を通じたキャリアに対する意思表明機会の創出と、公募の活性化などでキャリアの選択機会を増やし、自らのキャリアを主体的に設計し、切り拓いていく環境を作る。管理職が社員のキャリアを支援する文化も作り上げたい」と意気込みを語っている。

こうした施策により、30代半ばまでに複数の業務経験、勤務地の変更、本部やカンパニーを超えた経験を積み重ねることで、キャリア自律とともに将来の管理職候補生として求められるスキルの蓄積。管理者としての視野を広げることにもつながるという。

一方で、女性の活躍の場を拡大するには長期的視点で取り組むことになる。現在、両備システムズにおける社員の男女比は7対3で多くの技術系ICT企業と同様に、女性比率が低いのが現時点での大きな課題であると同時に、管理職への女性登用も課題となる。現時点で女性役員は1人だけだ。

三宅氏は「労働人口が減少するなか、優秀な人材を獲得するという点でも女性が活躍する場をもっと増やす必要がある。また、女性の意見や判断、意思決定を取り入れた経営がますます必要になるのは明らか。いまは女性の比率が低いことに加え、女性社員が将来のキャリアを描けていないという実態がある。女性が働きやすい環境とともに、目指すべきロールモデルの創出も必要になる」との認識だ。

キャリア自律と女性活躍は、両備システムズの人財戦略における最重要課題として取り組んでいるところだ。このように、同社が目指している人財戦略は、経営戦略と連動するとともに、それに準じた人財ポートフォリオの実現に向け、教育制度をはじめとした各種施策を展開し、社員全員を戦力化することを目指している。

三宅氏は「人財戦略を推進することで両備システムズに入れば、自分の夢を叶えられる会社であると、社員に思ってもらえるようにしたい。会社が挑戦できる環境を整え、社員は自分と会社の未来を考えながら、主体的に動ける文化を醸成したい。自身の能力を最大限に発揮し、お客様・社会・会社に価値を提供することで、自己実現と人生の充足を両立させてほしい。そのために、両備システムズでは人軸経営による人財戦略を推進していくことになる」と位置付ける。

創業60周年を迎える両備システムズは、いまでもスタートアップ企業のような成長を遂げている企業だ。時代の変化と企業の成長にあわせて、人財戦略も進化していくことになる。

若手社員が語る両備システムズの魅力と未来

今回の取材では、2人の若手社員の声を聞くことができた。入社したきっかけや、仕事のやりがい、期待する20年後の両備システムズの姿について聞いた。

両備システムズ 公共ソリューションカンパニー 福祉・教育インテグレーション事業部 こども・教育DX推進部教育ソリューショングループの冨士原涼帆さんは、2020年に入社。入社前に同社へのインターンシップを通じて、社員の人柄の温かさに触れることができ、その環境が自身にもしっくりきたことや、人と関わりを持つ仕事をしたいといった要望を聞き入れてくれたことも入社につながっているとのことだ。

冨士原さんは「もともとITに関心を持っていたことに加え、学生時代の接客のアルバイト経験がもとで、人との接点に興味を持っていたことが両備システムズに入社した理由の1つです。やりたいと思うことを支援し、叶えてくれる会社であることを感じています。これが仕事のやりがいにつながっています。入社2年目でPL(プロジェクトリーダー)を担当し、システムの導入後も操作方法に関する研修会などを私が直接担当しました。長期間にわたり、お客様と接点を持ちながら、システムをスムーズに運用できたことは、とてもうれしく自信にもつながっています」と笑顔を見せる。

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    両備システムズ 公共ソリューションカンパニー 福祉・教育インテグレーション事業部 こども・教育DX推進部教育ソリューショングループの冨士原涼帆さん

そんな冨士原さんにも失敗談がある。とあるプロジェクトの要件定義が甘く、結果として手戻りが多くなり、顧客に負担をかけてしまったという。

冨士原さんは「要件定義の段階で気になっていたことはあったのですが、乗り越えられるだろうと思ってしまったことが反省点です。『まぁいいか』はよくないですね(笑)。このときに、サポートをしてもらいながら、チーム全体で解決したことが、両備システムズならではの力であることを感じました」と振り返る。

続けて「私は20年後にはロールモデルの1人になりたいと思っています。両備システムズに入社したときに、目標になる女性の先輩社員が同じグループにおらず、とても不安に感じたことがありました。両備システムズのなかで、こんなことをやってきたということを次世代の社員に伝え、将来に希望や目標にしてもらえる社員を目指したいと思っています。人を巻き込むことや、引っ張っていくことが得意ではないので、ここは意識して学んでいかなくてはいけないですね」と冨士原さんは将来の展望を語っている。

そして、冨士原さんは「両備システムズは岡山県内での知名度はありますが、県外に出ると知名度が低いことが課題です。全国の方々に知っていただき『あの両備システムズで働いているんだ』と言われる会社にしたいですね。私自身も、次世代の社員も、両備システムズで働いていることが自信になる会社にしたいと思います」と力を込めていた。

一方、両備システムズ ヘルスケアソリューションカンパニー 医療ビジネス事業部 フィールドサポート部の藤原光基さんは、学生時代からIT企業に就職したいと考え、2019年に入社。

藤原さんは「IT企業というとシステマチックなイメージがあったのですが、両備システムズの会社説明を聞き、活発な企業風土であることに加えて『人とのつながりを重視する企業だな』という印象でした。そこから、興味を持ちました。コロナ禍前年の入社ではあったのですが、そのなかでもシステムの開発、導入、保守とさまざまな仕事を経験させてもらっています。お客様との対話を通じて、要望を聞き、それを実現する仕事ができていることに、やりがいを感じています」と話す。

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    両備システムズ ヘルスケアソリューションカンパニー 医療ビジネス事業部 フィールドサポート部の藤原光基さん

また、藤原さんは「入社2年目には、システム導入プロジェクト全体の実行を担うPLを担当し、フロントに立つ仕事を任せてもらえることが多く、困ったときには相談できる先輩もいます。チームで育ててくれるという環境があることは心強いですね。そこに両備システムズらしさがあります」と語る。

ただ、失敗談もある。大規模システムのプロジェクトに取り組んでいたときに、システムは稼働したものの、顧客とのコミュニケーションがしっかりと取れなかったことが原因で約半年間の混乱が続き、現場に付きっきりでサポートしたことがあったという。

しかし、藤原さんは「こうした失敗も、チーム全体で解決していく姿勢があります。いま、チームにサポートしてもらっているように、20年後には私が同じことができるようになりたいですね。プレイングマネージャーの立場になっているかもしれませんが、現場に出てモノを作り上げて提供し、ノウハウを次の世代に引き継ぎ、常に前に進んでいることを実感してもらえるような役割を担いたいと思っています」と前を向いている。

今後、プログラミングはAIが行うことで組織の姿も変わることにはなるが、顧客から話を聞き、何を創るのかを決めて、一緒に挑戦するというやり方は変わらないとも語っている。

藤原さんは「両備システムズには『ともに挑む、ともに創る。』というブランドコンセプトがありますが、この姿勢はこれからも大切なことだと思っています。信頼される会社になり、何かあったら真っ先に『両備システムズに相談してみよう』と頼りになる存在となり、常に『何かいい提案や解決策があったら持ってきてくれないか』と言われるようになりたいですね。仕事のやり方を固定せずに、他のプロジェクトにも関わって、視野や経験を広げたいと思っています」と述べていた。