以前に、本連載の第45回で、指定席を販売する際の座席の割り振りロジックについて取り上げた。実は、指定席の販売管理については座席の割り振り以外にも考えなければならない話がいろいろある。そんな話の一例を実感した出来事があったので、今回はそれを。
大雪の影響でダイヤが混乱
2014年2月8日に、関東地域一帯を初めとする広範な地域で、(これらの地域としては)大量の降雪があった。雪国と違って、普段は降雪がない地域で雪が降ると、鉄道・道路・空港などに混乱を引き起こすのがお約束。今回も例外ではなかった。
実はこの日、筆者は止せばいいのに新幹線に乗って少し遠出をしていた。そして帰りに、分岐器不転換のトラブルに起因する抑止に巻き込まれて、乗るつもりだった列車を出せないというトラブルに見舞われた。
こういうことがあると、トラブルがあった駅の手前で次々に列車が滞留してしまう。そして、トラブルが解消した後でそれらが一斉に動き出すので、今度は列車が詰まってしまい、そのうち列車を「出すに出せない」事態になることもある。
それだけでなく、本来いるべき場所に車両がいなくなり、一方で大量の列車が滞留した首都圏近辺に多くの車両が集まってしまうので、翌日の運用にも影響が生じる。車両の居場所が偏ってしまうからだ。
そのため、翌日の2014年2月9日に青森方面に出かける予定を立てていたら、自分が乗るつもりの列車が運休になっていた。新幹線の駅まで行って初めて運休を知ったのだが、そこで旅行を中止するなんて選択肢はない。ただちに出札口に向かい、直近の列車に空席がないかどうかあたってもらった。
前置きがえらく長くなったが、ここからが本題である。
出発時刻を過ぎても指定券を買える
実はこの日、運休が出ただけでなく、運行している列車もダイヤが乱れていた。そして、窓口であたってもらったら「空席があります」と出た列車も例外ではなく、その時点ですでに所定の発車時刻は過ぎていた。ただし実際には20分以上の遅れになっていて、まだ自分がいる駅まで来ていない。
そして出札口の人は「この列車は、いま当駅に向かっているところです。もうすぐ入線してきますから、急いでホームに上がってください。もしも間に合わなかったら、またここに来てください」と。
つまり、本来ならもう出て行ってしまっていて乗れないはずの列車について、空席の検索も指定券の発行もできたということである。そこで「鉄道とIT」の話になるのだが、指定券の販売をいつまでやって良いか、というロジックの話につながるのではないかと考えた。
常にダイヤ通りに走っているのであれば、発車時刻を過ぎた列車に乗ることは物理的に不可能なのだから、切符を買う人がリクエストした乗車予定駅を当該列車が発車した時点で、もう販売を差し止めてしまって差し支えはない。例えば、「7時発の新幹線を東京から盛岡まで」というリクエストなら、7時を過ぎたら東京からの指定券は発券止めにするわけだ。
しかし実際にはダイヤが乱れることもあるから、単に「所定の発車時刻を過ぎたら発券止め」では具合が悪いことも出てくる。しかし、だからといって、当該列車が終着駅に着いてしまった後まで指定券を販売するのも妙な話。乗るべき列車はすでにないのだから。
結局のところ、その「いつまで指定券を売って良いか」という遅延許容の閾値を、いったいどの辺に設定するのが適切なのか、という話になる。短すぎると、ちょっとしたダイヤの乱れでも、もう売れる席があっても売れなくなってしまう。かといって、長すぎると前述したように妙なことが起きる。
単純な思いつきを書くならば、運行管理システムと指定席の販売システムを連接させて、当該列車がまだ走っているか、走っているならどの辺にいるか、という情報をリアルタイムで入手して、それに基づいて発券の可否を決めることもできる。しかし、それではシステムが複雑化するし、その割にメリットは少ないかもしれない。
というのは、当該列車が来ているかどうかの情報に基づいて、窓口の担当者が売るかどうかを決めれば済む話だからだ。その、元になる情報の提供がタイムリーかつ確実ならば、という条件付きだが。
それに、そう頻繁に発生するわけではないダイヤ乱れを前提にしてシステムを複雑化するのは、投資に対して得られるリターンが少なくなるので望ましくない。
となると、「当該列車が終着駅に着いていようがなんだろうが、とりあえず当日のうちは空席があれば売れるようにしておいて、実際に売るかどうかは運行状況と照らし合わせて判断する」というのが、もっとも現実的な落としどころなのかもしれない。
今回は、システム設計に際して悩みそうな話の一例ということで、こんな話を書いてみた。皆さんなら、どうお考えになるだろうか?
執筆者紹介
井上孝司
IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。