飛行機は全席指定だが、鉄道では「指定席」と「自由席」がある。そこで今回は、その「指定席」の座席割り振りについて考察してみよう。簡単なようで、意外と考えなければならない項目が多い。

同じ指定席でも同じではない

指定席券は、乗車日の1カ月前から(一部のネット予約では1カ月と1週間前に事前申し込みが可能だが)発売する。単純に考えれば、「申し込みがあった順に、端から売っていけばよい」ということになるのだが、実のところ、そんなに単純な話でもない。

まず、人数がバラバラである。1人のこともあれば、数名~十数名ということも、ときにはハコをひとつないしは複数占拠するほどの団体さんが出現することもある。それなりの規模がある学校の修学旅行なら、3桁の人数になることもある。それを過不足なく、かつできるだけ不満の無いように埋めて行くには、単に「端から順番に」というだけでは済まない。

例えば、1人なら空いているところに入れていけば済むが、それでも新幹線普通車のB席(3人掛けの真ん中)はできるだけ避けたい。2人なら並んで座りたいだろう。4人なら、横一列ではなくて向かい合わせにしたいだろうから、縦に連続する列で席を取らなければならない。新幹線の普通車だと3人掛けの座席があるから、6人グループも同じである。

では、奇数人数だったらどうするか? グループ客が向かい合わせにしてワイワイやっているところに、1人だけ無関係の人が混ざったら、1人の側もグループの側も、あまり面白くあるまい。逆に、どうしても空きがない場合は仕方ないが、席数に余裕があるのにグループ客を離れ離れにしたり、複数のハコに分割したりすれば、これはこれで面白くあるまい。

となると、グループの人数に合わせて、それぞれ最適な「ブロック」を探して、まとめて確保するロジックが必要になるはずだ。例えば「4人グループなら2人掛けで連続する2列を」という具合に。

また、同じ設備を持つ指定席車でも、編成の端の方にあるハコは駅の改札口や階段が遠いことが少なくないので敬遠されやすい。特に、新幹線みたいな長大編成だと深刻な問題になる(東海道新幹線の16両編成で、どうしてグリーン車が編成の中央部付近にあるかを考えてみよう)。だから、改札口や階段から遠くなりやすい編成端部のハコよりも、中間部のハコから優先的に売る方が良いのかもしれない。

そして、オール2階建て新幹線のMaxでは、防音壁しか見えない階下席よりも、見晴らしの良い階上席の方が人気が出やすい。一説によると、長距離利用の乗客を優先的に階上席に回すというのだが、真偽の程は不明。

オール2階建て新幹線Maxの階下席は、駅のホームに着くとこんな調子である。駅間では防音壁しか見えないし、人気が下がるのは致し方ない。夜ならこれでも大して問題はないのだが

そのMaxは階上席と階下席で3人掛けの席と2人掛けの席の配置が逆になっているのだが、これは左右の重量バランスを考えたため。飛行機ほど深刻ではないにしても、鉄道でもやはり左右の重量バランスが極端に偏るのは避けたい。

細かいところだと、秋田新幹線「こまち」のE3系は車両によって座席の前後間隔が違う。もともと指定席車だった車両は980mmだが、もともと自由席車だった車両は940mmなので、同じ料金でも後者の方がちょっと損だ。このほか、車椅子を利用している人の場合、対応設備を持つハコや席は限られる。といった具合に、ハコによって設備の良し悪しや違いが存在することもある。

こんな調子で、指定席の割り振りについては考えなければならないことが意外と多い。それをルール化してアルゴリズムとして作り込むには、過去の販売・運転経験に基づくデータの蓄積がモノをいうだろう。

ルールの例と席番リクエスト

現在も同じルールを使っているかどうかは分からないが、国鉄時代に、「車端の1番から売らずに途中の列(確か3番だったような……)から売り始めて、車端まで行ったところで1番に戻る」なんていう話がいわれていた。確か、「割り当てられた指定席の席番を見ると、どれぐらい売れているかが分かる」という話に絡んで出てきた解説だったと記憶している。

実は、車端の席は中央部の席よりも揺れやすい傾向があるとされているので、端の席を後回しにするのは理に適っているのだが、本当にそういう理由で上記のルールを決めたのかどうかは知らない。それに最近では、「電源コンセントがあるから」「出入りが楽」といって車端の席を希望する人もいるだろう。必ずしも「車両の中央部・窓側がベスト」とは限らないわけだ。

また、修学旅行みたいな団体さんは端の方のハコに回すことが多かったようで、例えば東海道新幹線なら15~16号車あたりが定番であったらしい。団体さんは割引料金で乗っているわけだし、他の乗客とのコンフリクトを避ける意味でも端の方に配置する方が理に適っている、といえるかもしれない。

といった具合にさまざまなルールが考えられるのだが、実際の販売現場では利用者による席番リクエストが可能なので、ますますややこしいことになる。指定席券売機やネット予約で席番リクエストが可能なケースがあるのは御存知の通りだが、実は「みどりの窓口」でも端末の画面を見ながら、あるいは席番を直接挙げてリクエストすることができる。もちろん、希望の席が空いていれば、の話だが。そういえば、筆者は旅行商品窓口のカウンターでも、「Maxたにがわのフラット席を」なんてリクエストを出したことがある。

ともあれ、その席番リクエストや、人数に合わせた最適な割り振りなどといった要因を積み重ねつつ指定席が売れていくと、最後はポツンポツンと1人分ないしは2人分ぐらいの空席が散在する状況になる。そういう状況下で、新たに受け付けた指定席券の申し込みをどう配分していくか、グループ客を複数のハコに分けざるを得なくなったらどうするか、残席を上回る数の申し込みがきたらどうするか、など、考えなければならない話はいろいろある。

そこでサービス精神を発揮すると、「当該列車では指定席をとれないが、前後の時間帯を走る別の列車なら」と代替候補を提示する機能を設けたらどうか、なんていう話も出てくる。サービス精神という話になると、閑散期に端から順番に埋めると「人の多い区画」と「誰もいない区画」ができてしまうので、適当に「散らす」配慮が必要になるかもしれない。

また、鉄道は飛行機と違って「途中停車駅」があるから、途中で乗降が発生して空席状況が変化することも考慮しなければならない。その関係で、「東京-博多」を通しで買うことができなくても、「東京-新大阪」と「新大阪-博多」に分けたら買えた、なんていうことも起こり得る。

もちろん、キャンセルが発生すればその席は「空き」に戻さなければならないし、キャンセル待ちの人に配分する必要もある。

かくして、指定席販売のための座席情報管理・配分のアルゴリズムは、複雑化の一途を辿っているわけだ。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。