前回は、強力なプラットフォームチームを構築するためにリーダーが考慮すべき3つの重要なポイントを紹介しました。第2回となる本稿では、効果的なコミュニケションフレームワークの構築を通じて、プラットフォームエンジニアリングの導入を促進し、継続的な投資と改善を実現するためのヒントを紹介します。

リリース時にインパクトのあるコミュニケーションを準備する

次のような状況について考えてみましょう。プラットフォームエンジニアリングチームが、デプロイ時間の短縮や設定ミスの解消を目的とした社内ソリューションの開発に数カ月を費やしたとします。ところが、そのソリューションのリリースから3カ月経っても、現場での導入率は低いままです。

このような問題に直面している組織には、良いニュースと悪いニュースがあります。良いニュースは、これは技術的な欠陥が原因ではないということです。悪いニュースは、効果的でない社内コミュニケーション戦略が原因である可能性が高いということです。コミュニケーションが明確でなければ、利用を検討している人にプラットフォームの価値や利用方法を理解してもらえません。

効果的なコミュニケーション戦略の立案により、プラットフォームの機能とビジネスインパクトの間にある溝を埋められます。

プラットフォームチームが技術的な完成度のみに焦点を当て、コミュニケーション戦略をおろそかにすると、プラットフォームの機能とビジネスインパクトとの間に、目に見えない壁が生じてしまいます。ユーザーは理解できないものを導入しようとはしません。また経営陣は測定できないものに投資することはありません。

プラットフォームの成功を左右する最も重要な瞬間とは、最初のリリース時です。どのような手段でプラットフォームを導入するにしても、最初のコミュニケーションがその後の導入とエンゲージメントの土台を築きます。具体的な施策を3つ紹介します。

プラットフォームの使用で解決できる問題を明確にする

新たなツールを導入すると手間が生じるのではないかというエンジニアの恐れを払拭するために、プラットフォームによって業務がいかに簡素化されるかを明確に伝える必要があります。認知負荷を軽減し、頭の切り替えを最小限に抑え、ドキュメントへのアクセス性を向上させ、開発サイクルを短縮できることを強調しましょう。

これらのメリットを伝える際は、抽象的な概念としてではなく、日々のワークフローの具体的な改善点として提示します。例えば、自動化された環境設定によって、各デベロッパーの作業時間を週に5~7時間削減できることを示すなど、メリットを定量化するのも効果的です。

抵抗要因を積極的に特定し対処する

エンジニアは、新しいプラットフォームの導入が、好みのツールや既存のワークフローに悪影響を及ぼさないかを懸念しがちです。これらの懸念に直接対処するために、インテグレーション機能について詳しく説明し、移行パスを明確にし、利用可能なサポートオプションについて伝える必要があります。その時点での制約事項についてロードマップと併せて率直に共有することで、信頼を得られるだけでなく、適切な期待値を維持しやすくなります。

プラットフォームの支持者に協力してもらいメッセージを広める

信頼の厚いエンジニアでプラットフォームの開発に貢献した人、あるいはプラットフォームを早期に導入した人の影響力を活用しましょう。こうした人たちが勧めてくれれば、どのような公式メッセージよりも大きな波及効果が期待できます。

ライトニングトーク(LT)、録画デモ、ペアプログラミングセッションなどを通じて、デベロッパー側の導入推進担当者がプラットフォームの機能を説明できる機会を積極的に設けましょう。同僚同士でやり取りすることで、まだ導入していないメンバーはアプリケーションを実際に目で確認し、気軽な雰囲気の中で率直な質問ができます。

プラットフォームのリリース後も、継続的にユーザーとコミュニケーションを取る必要があります。

継続的なコミュニケーションのためのチャネル

ここでは、すべてのプラットフォームエンジニアリングチームが戦略に含めるべき主要なコミュニケーションチャネルについて紹介しましょう。

1.ドキュメント
プラットフォームの導入にドキュメントを活用すれば、プロセスを変革できます。サポートのリソースやコストが削減され、デベロッパーのオンボーディングを加速させます。質の高いドキュメントには「プラットフォームによってどのような問題が解決されるか」「デベロッパーはどのようなメリットを期待できるのか」「どこで詳細情報を確認できるか」という3つの疑問点への答えが簡潔に記載されています。

ドキュメントは、システムの構成よりもユーザーの動線に沿ったものであるべきです。単にシステムの機能を文書化するのではなく、デベロッパーからの質問を想定した内容にする必要があります。また、わかりやすい入門ガイド、さまざまなシナリオに対応した包括的なナレッジベースの用意に加え、プラットフォームの変更に対応する定期的な更新も必要です。

2.チームブログ
プラットフォームエンジニアリングチームがプラットフォームのユーザーに対してアイデアや解決策を案内できるよう、社内ブログを作成しましょう。専用ブログは簡潔なコミュニケーションを補完する場となり、詳細なプラットフォーム関連のインサイトを案内できる重要なチャネルとして機能します。

ブログには、包括的な技術分析、価値のあるユーザーインサイト、説得力のある成功事例やユースケースなどを掲載しましょう。ブログコンテンツを通じてプラットフォームの使い方や重要な設計上の決定根拠をデベロッパーに説明できるため、より効果的に利用してもらったり、プラットフォームの支持者を育てたりすることもできます。

3.ヘルスダッシュボード
プラットフォームの利用中に問題が発生した場合、何も情報がない状態ほど不満が募ります。ヘルスダッシュボードを提供すれば、既知の問題とその解決状況をデベロッパーに即時に提示できます。

効果的なダッシュボードは、コミュニケーション戦略の要です。ダッシュボードを通じて問題を開示し、チームがどのように対処しているかを共有することで、信頼につながります。利用を検討中の場合、通常はプラットフォームを本格的に使い始める前にダッシュボードを確認し、運用の安定性を評価します。ここで重要なのは、ヘルスダッシュボードの提供を通して、透明性と責任に対するチームの姿勢を示せることです。これにより、ユーザーコミュニティとの長期的な信頼関係が育まれます。

なお、信頼性を確保するためには、ダッシュボードの内容をリアルタイムで更新し、正確に保つ必要があります。プラットフォームが障害により停止しているにもかかわらず、ダッシュボード上ですべて正常であると表示されていると、ユーザーの信頼を損ないます。また、報告された問題を掲載する際は、必ず最新の解決策情報も含める必要があります。

4.リアルタイムでのコミュニケーション
プラットフォームエンジニアリングチームはデベロッパーが普段からやり取りしている場所に常に存在する必要があります。一般的には、Slackのようなリアルタイムチャットツールがこれに該当します。利便性と応答性に優れているチャットを利用することで、デベロッパーとの関係を構築し、プラットフォームを中心としたコミュニティを形成できます。

デベロッパーと良好な関係を確実に築くために、チームが守るべき重要なルールを数点ご紹介します。

問い合わせに迅速に対応する

チャットのスピードは非常に速いです。エンゲージメントを維持するためには、営業時間内であれば30~60分以内にデベロッパーの質問に回答する必要があります。ユーザーであるデベロッパーが製品に関してリアルタイムでチャットを行っているのであれば、プラットフォームエンジニアリングチームのメンバーもその会話に加わるべきです。

デベロッパーに一貫した意見を伝える

社内のメッセージシステムは、顧客向けのサポートチャネルのように使用しましょう。専用の社内チャネルを用意し、エンジニアがオープンに議論し、意見の衝突を解決する場を設けます。これにより、デベロッパーの信頼を損ないかねない、エンジニア間の意見の衝突を公にせずに済みます。

解決策を文書化して公開する

問い合わせへの対応が終了したら、エンジニアはチャネルで解決策を共有する必要があります。得られた貴重な情報を知識として実際に共有することで、他のデベロッパーにも活用してもらえます。

デベロッパーの代わりにサポートチケットを作成する

簡単な質問への対応には、チャットが最適です。ただし、複雑なリクエストに関しては、課題管理ソフトウェアに記録する必要があります。ユーザーエクスペリエンスを向上させるためには、デベロッパーにチケットを作成するよう指示するのではなく、プラットフォームエンジニアリングチーム側で積極的にチケットを作成するようにしましょう。

コミュニケーションに対する包括的なアプローチを実践する

卓越したプラットフォームチームは優れた技術を開発するだけでなく、デベロッパーと深いレベルでのやり取りやコラボレーションを行っています。コミュニケーションを後回しにすべきではありません。コミュニケーションこそが、数カ月にも及ぶエンジニアリング作業を測定可能なビジネスインパクトへと結実させられるかを決定づける戦略的な能力なのです。

大抵の場合、企業環境においては、プラットフォームについてどのようにコミュニケーションを取るかが、プラットフォーム自体と同じくらい重要であることを覚えておきましょう。技術インフラへの投資と同じレベルで、コミュニケーションにも投資しましょう。

明確にコミュニケーションを取ることで、導入が促進され、その結果として成功事例が生み出されます。そして成功事例によって、継続的な投資と改善が推進されます。プラットフォームは単なるツールではなく、組織変革のきっかけとなる可能性を秘めています。