前回まで、ペーパレス化の現状について様々な切り口で紹介してきました。今回から2回にわけて、日本の各業界・業種においてペーパレス化が実際にどのようなメリットをもたらすかについてお話します。
製造業 - データ改ざんの防止にはペーパレス化が必須
長年、日本の経済を支え、現在でもGDP・就労人口ともに2割を占める製造業ですが、品質検査・安全試験データの改ざんが社会的な問題になっています。報道で取り上げられるいずれの企業も、データの削除や改ざんが意図的に行える環境であったばかりに、データ・インテグリティ(データの完全性)を確保することができず、社会的信用を失う結果となりました。
データ・インテグリティを確保するためには、関係者のコンプライアンス意識を向上させる以外にも、データをそもそも改変できないようにし、万一改変されれば通知される仕組みが必要です。しかし、このような仕組みを紙ベースのワークフローにおいて構築することは不可能であり、ペーパレス化が不可欠です。紙でのやり取りを電子データ化し、ブロックチェーンやハッシュ関数などの改ざん防止技術を活用することで、改ざん防止や改ざん検知が可能になります。
もともと日本の製造業は、早期から業務の機械化・自動化に取り組み、効率化を進めてきました。しかし、諸外国と比べるとデータの利活用で遅れをとり、多くの企業が「デジタル化未着手、または検討中」の状態か、もしくは「紙ベースからデジタルデータに置き換える段階」にあると言われています。ペーパレスを進めることが、社会的信用とデータ活用による競争力を生む企業体質の変革に繋がります。
エネルギー業 - 市場の変化に対応する迅速なワークフローを実現
重要インフラを担う、エネルギー業界を取り巻く環境は大きく変化しています。電力の小売全面自由化や少子高齢化による売上減少が懸念され、市場内の競争は厳しくなる一方で、顧客ニーズは多様化しており、業務効率化と品質向上の両立が重要な課題となっています。
このように、業界の激しい変化に対応するには、紙によるプロセスの遅さは競争上の弱点になります。電子化によって、迅速に情報を取得・解析・意思決定し、タイムロスなく関係者と同意形成を行い、ビジネスのスピードを高めることが可能になります。
また、保全業務・点検整備・検査試験のような透明性が求められる業務記録には、製造業同様、データ・インテグリティを確保したデジタル管理が適しています。
医療・介護業 - 医療・介護の効率化と付加価値あるサービスの提供
近年、医療・介護業界では、患者の一人ひとりに寄り添うサービスの提供が求められています。しかし医療・介護業界の現況は、少子高齢化により需要が年々増加する一方、人材不足が深刻化している状態で、業務の効率化の推進は欠かせません。
限られた人員で、増加していく患者へ最適な医療・介護を提供するために、ペーパレス化は必須となります。刻一刻と変化する患者の病状に対し、チームで即時に対応するためには、リアルタイム性・共有性・検索性が求められ、紙での情報管理では実現が難しく、電子化が重要な役割を担います。
また、効率化や運営強化だけでなく、電子化をすることにより、現在の医療サービスに新たに付加価値を与えられます。すでに海外では取り組みが進んでいますが、医師や薬剤師、看護師の電子署名を電子カルテや電子処方箋に適用することで、より信頼性・利便性の高いサービスの提供が実現できます。
人材業 - 契約書を電子化することで、確実な業務効率化とコスト削減を実現
サービス業の中でも人材業界では、労働者派遣や業務委託やNDAなど、人材と企業間での同意などに日常的かつ大量に契約書を取り扱います。それらの契約書類は、署名・捺印のために文書を紙に印刷する必要があったため、業務の効率化を進めるにあたりボトルネックとなってきました。これらのペーパレス化により、契約書にまつわる業務や紙に付随するコストを削減でき生産性を向上することが可能となります。同様のケースは大企業における採用業務にも当てはまります。
現在、欧米では電子署名が一般的になり、多くのシーンで署名・捺印が電子的に行われています。日本にも電子署名ソリューションは広がってきているため、業務プロセスを見直し、電子署名を取り入れることで、短期間で効果的にペーパレス化による業務効率化とコスト削減が期待できます。
行政 - 国民データの安全な管理と、サービスの利便性向上
国民の生活を支える行政サービスにおいても、国民の時間や労力の軽減・事務処理効率化のためにペーパレス化が求められています。現在、国民が行政機関で行うさまざまな申告や申請は、多くが紙に頼っています。
行政機関が扱う文書は、国民の生活および権利にかかわるものであり、データの取得・保管・削除という文書のライフサイクル全体を通じてコンプライアンス要件を満たす情報管理と、高いセキュリティが求められます。
紙文書ではライフサイクル上での綿密な状態把握や管理は難しく、また火事などの災害時には焼失・紛失するリスクもあります。国民に関する情報が失われることはあってはならないことです。一方、電子データであれば、暗号化や二要素認証、電子証明書、データセンターの分散など、さまざまなセキュリティ対策を講じることができ、かつ高い管理性も併せ持つことができます。
昨年12月22日のIT総合戦略本部・官民データ活用推進戦略会議の合同会議にて、安倍晋三首相は「ビッグデータの活用」や「戸籍や登記に関する証明書など電子申請にかかる紙の添付を一括して撤廃する」といった電子化、および紙書類の撤廃に関する発言をしています。第三回で触れたエストニアのように、あらゆるサービスが電子化されることはまだ先かもしれませんが、日本においても行政におけるペーパレス化は今後も確実に推進され、各行政サービスの利便性も向上していくことが期待されます。
ドキュサイン・ジャパン ソリューション・エンジニア 宮川民江
ドキュサイン(DocuSign)は、電子署名とペーパレスソリューションのプラットフォームです。ドキュサインを使うことで、時間や場所、デバイスに関係なく、クラウドで文書を送信、署名、追跡、保存を可能とし、セキュアな環境の下、業務のペーパレス化を実現します。ドキュサイン・ジャパンは、米DocuSignの日本法人です。