100年に一度と呼ばれる不況の中、日本では「派遣切り」、つまり非正規雇用者の解雇や契約の非更新が社会問題化しているが、今回の金融危機の発端となった米国では、正社員どころか、幹部クラスでもがんがんクビを切られている。もともと、正社員の身分が日本ほど保証されていない国ではあるが、この不況がさらに容赦ない仕打ちとなって彼らに襲いかかっているのは間違いない。

ある程度の年齢やキャリアを積んだ人は、なかなか潰しが利かない - これは国を問わず同じ法則のようである。管理職クラスといっても、その肩書きが通じるのは会社に所属していればこそ。40、50を過ぎた過去のエグゼクティブたちを、そのプライドを維持できるほどのサラリーで再雇用してくれる会社なんて、そうたくさんあるわけがない。では彼らはどこへ流れていくのかというと、電話オペレータ、掃除夫、カフェの店員…そういった低賃金の時給職に応募する元エグゼクティブが急激に増えているそうなのだ。

It has been the hardest thing in my life. It has been harder than my divorce from my husband. It has really been even worse than the death of my mother.

-- Ame Arlt

(この状態は)今までの人生でいちばんキツい。夫との離婚よりキツい。母の死よりも本当にずっとつらい

オリジナルはこちら → Forced From Executive Pay to Hourly Wage

Arltさんは53歳の女性。いくつかの会社で幹部クラスまで上りつめ、いっときは年収16万5,000ドルを稼いでいた。20年以上も"エグゼクティブ"として働いてきた彼女だが、昨年6月に勤めていた会社をクビ、副業で行っていたビジネスも廃業に追い込まれた。

現在彼女は時給10 - 15ドルで、とあるオンライン保険勧誘のカスタマーサービス部門で働いている。もっとも、この職に就くまでいろいろ葛藤があったようだ。100社を超える会社に履歴書を送り、エグゼクティブとして採用してくれるところを探したが、面接までたどり着けたのはわずかに2社。それも残念ながら採用されることはなかった。あきらめきれないものの、生きていくために今の仕事を選ばざるを得なかったArltさん、その悔しさ、つらさが上の発言となったわけだ。過去の栄光が輝かしいものであればあるほど、それが現在に落とす影は、暗く濃い。

もっとも、彼女のように仕事を得られる人はまだラッキーで、こういった低賃金労働の職ですら得られない人も多いようだ。今回の不況は本当に根が深い。

ずっと続いている苦しみを表す現在完了形

今回のフレーズは、すべて現在完了形で表現されている。つらくてキツい状況が、職を失った去年からずっと続いているのだ。今までの人生であったつらいこと - 夫との離婚、母親の死、その他もろもろに比べても、今のこの状態のほうがずっと苦しくて、しかもその苦しみの期間が続いている。単純な現在形よりも、彼女の苦悩の深さが強く伝わってくる。

使いこなしたい表現 - even worse

「さらに悪いことに」「前よりもっとひどい」など、会話でも文章でもしょっちゅう出てくる表現。このフレーズではthanを使って「母親の死」という、普通の人にとってはかなり心理的に堪えること、それよりもさらにつらい、と状況のひどさを強調している。中学英語で出てくるものだが、なかなか使いこなすのはむずかしい。become even worse / make it even worseなど、「状況が悪くなる」ということを示すとき、意識して積極的に使ってみたい。