英字新聞なんて、全部読むようなものじゃない

英語学習法の中でも英字新聞を使うという手法は昔からけっこうポピュラーだが、正直、効果のほどはギモンである。もちろん英字新聞で英語力が伸びた! という人もいるだろうけど、よく聞く話が「最初は意気込んで『Japan Times』を毎日読もうとしていたけど、そのうち続かなくなった」という類のもの。下手に定期購読なんかした日には、読まなくなった紙の束がどんどん積み上げられることになり、それを見るたびにできない自分を辛く感じ、そしてしだいに最初の情熱はどこへやら……耳が痛い方、いませんか?

あたりまえではあるが、社会人は忙しい。その忙しい合間を縫ってでも英語をモノにしたいと思うなら、読めない英字新聞を無理して読み続けようなんて思わないほうがいい。仕事に関係あること、興味のあることを中心に英語で情報収集するように努めたほうが建設的だ。もちろん、定期的なアウトプットも必要である。とはいっても、日々、仕事に追いまくられているビジネスパーソンが、国内で生の英語に触れる機会なんてそうそうやってこない。英語で情報収集といっても、それすらやる時間もない人も多いだろう。

というわけで、どれだけ助けになるかはわからないけど、本連載では米国の一流紙『The New York Times』の"QUOTATION OF THE DAY" - 今日のひとこと - を使って、ビジネスや日常会話で使われる表現、ボキャブラリー、文法などを少しずつ取り上げていこうと思う。ついでにその記事のバックグラウンドにも簡単に触れていく。冒頭で英字新聞を使う学習法にギモン、とか言っておきながら英字新聞を題材にするのは矛盾しているかもしれないが、やはりすぐれた文章力のネイティブが書く記事は、単語も表現も洗練されていて、ビジネス英語の教材に非常に適している。全記事読むのは無理だけど、1フレーズだけならなんとか記憶に残せるのでは…と願いつつ、始めてみることにする。

Part of his job is to stay in touch with the American people, and the White House can be a very suffocating place if you don't get out and talk to people.

--David Axcelrod

彼の仕事には米国民と常に接しているというものもある。それに外に出て人と話をすることがなければ、ホワイトハウスは息が詰まって仕方ない場所になってしまう

オリジナルはこちら → This President's Escape Is Sweet Home Chicago

Axcelrod氏はオバマ大統領のシニアアドバイザー(senior adviser)のひとり、この発言は同氏がとあるテレビ番組に出演したときのものである。したがって、主語となっている"Part of his job"の"彼"とは大統領を指す。

オバマ大統領の地元はご存知シカゴだ。この街をこよなく愛す彼は、大統領就任後も「1カ月半か2カ月に一度の割合でシカゴに帰りたい」としている。その第1回目となる里帰りがつい先日、バレンタインの週末に実施された。友人宅に行ったり、バスケットを楽しんだり、レストランで食事したり…と、一般人の休日とさして変わらない内容だったようである。違うのはエアフォースワン(Air Force One)で空港に乗り付けたことと、つねにSPが周りにいることなのだが。

たとえ米国大統領という激務にあっても、休暇先まで仕事が追いかけてくることがあっても、見渡す限りSPだらけでも、できるだけ心くつろげる"sweet home"に帰りたい - 前大統領もよくテキサスの牧場でロングバケーションを満喫していたが、オバマにとってはそれがシカゴなのだろう。「休暇で地元の友人と楽しく過ごすのも仕事のうち。いくら大統領でもホワイトハウスから一歩も出られないなんて、息が詰まっちゃうよ」という感じでしょうか。

できるだけ使ってみたい表現 - stay in touch with

「…と連絡を取り続ける」「…とつねに接触している」など、誰かとつねにコンタクトが取り合える状態にあることを示す。海外のSNSのトップページではよく「Stay in Touch with All Your Friends!」などと呼びかけられている。

意味ぐらいは覚えておきたい単語 - suffocating

他動詞suffocateが形容詞になったもので、「息が詰まるような、窒息しそうな」という意味。「こんな単語、聞いたことがない!」という方も多いかもしれないが、NYTではこのレベルの単語はがんがん登場する。教養ある人物が口にする単語として、使いこなせなくても読んでわかる程度にしておきたい。可能なら耳から入ってきても意味が取れるよう、発音も一緒に。さらに可能なら、英英辞典を使って定義の確認を。

絶対使いこなしたい英文法 - if(直説法)

口語でも文章でも、もちろんビジネスの現場でも、英語では本当に「if」が多用される。文法が苦手な人も多いだろうが、ifを避けていては英語力の向上はまずあり得ない。逆に、とにかく使える英語力を!と思うなら、ifを意識してトレーニングしてみるといい。

今回のフレーズで使われているのは、文法用語で言えば「直説法」というものだが、ここで問題。これがもし、「…and the White House could be a very suffocating place if you didn't get out and talk to people」という「仮定法過去」で表現されていたら……さて、どういう意味に変わると思いますか?