今回は、DSEI Japanの会場で見聞きした話のうち、海上装備に関連する話題をいくつかまとめてみる。

  • 防衛装備庁がDSEI Japanで展示していたUSVの模型 撮影:井上孝司

USV実現のための2種類のアプローチ

米海軍が2023年9月に、大型USV(Large Unmanned Surface Vehicle)の「レンジャー」を横須賀に持ってきたことがある。持ってきたといっても自力航行で、貨物船に載せて運んできたわけではない。そもそも、外洋での遠距離航行を自律制御で実現することも試験のうち。

その「レンジャー」をはじめとする一群のLUSVの多くは、民間向けの補給支援船をベースとしている。そこに、衝突回避のための規則・COLREGS(International Regulations for Preventing Collisions at Sea)に対応できる自律制御システムを組み合わせている。

洋上作業支援船や補給支援船の類は船尾側に広いフラットな甲板を備えているので、センサー機材や兵装などを搭載するスペースを取りやすい。それが、この種のフネがUSVのベースになる理由であろう。

元が有人船だから、操船の中枢となるブリッジはそのまま残されており、必要に応じて有人運用もできる。外洋では自律航行できるとしても、極度に混み合った海域での航行、あるいは出入港の際には有人運用を行う場面があるかもしれない。

  • これは米海軍のLUSV「レンジャー」 撮影:井上孝司

STエンジニアリングの「Autonomast」

そこでシンガポールのSTエンジニアリングがDSEI Japanで模型を展示していたのが、「Autonomast」という製品。この名称は、自律制御を意味する ”autonomous” と、“mast” をくっつけたものと思われる。

USVにおける自律制御の要点は、船位、周囲の地形や水深、周囲の行合船の動向などといった状況を把握した上で、適切な針路を決定して、それに乗れるようにフネを操ること。

もちろん、船舶自動識別システム(AIS : Automatic Identification System)を搭載する。船位を出す手段は、GPS(Global Positioning System)、慣性航法システム(INS : Inertial Navigation System)を使用する。

周囲の状況を把握する手段として、「Autonomast」はカメラ(11台が確認できる)、電子光学/赤外線センサーのターレット、レーダーといった装備を、ひとつのマストに集約して載せる。

これを上部構造の上に据え付けるとともに、船内に制御システムを載せて機関や舵機と接続すれば、自律制御システムが操船できるようになる。接岸・離岸の際には、可搬式の遠隔制御装置(Portable Remote Control Unit)を接続して、人手による制御を行える。

  • STエンジニアリングが展示していた「Autonomast」の模型 撮影:井上孝司

防衛装備庁のUSV

一方、防衛装備庁(ATLA : Acquisition, Technology & Logistics Agency)もUSVの模型を展示していたが、こちらは新規にUSVを起こすという考えになっている。

その理由は、「最初からUSVとして設計すれば、艦橋など有人運航のために必要な区画が不要になり、その分だけコスト、スペース、重量を抑えたり、他の用途に回したりできる」からだ。

無人システムで重要なポイント

その代わり、自律制御システムや機関、搭載システムの信頼性を高める工夫が求められよう。米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)でも、高い信頼性を備えて長期行動を行えるUSVを実現するため、NOMARS(No Manning Required, Ship)という開発計画を走らせている。NOMARS計画については後日、また触れる予定がある。

もうひとつ、USVに限らず無人モノ全般にいえることだが、むやみに性能・機能を追求するのはいかがなものであろうか。その結果として、高価になって数が揃わなくなれば、思い切って危険な環境に投入するのを躊躇する事態になりかねない。喪失しても諦めがつくことは、無人モノにとって重要な性能である。

それに、兵装の再装填を洋上ではなく基地に戻って行うのであれば、交代を送らなければ配備に穴が開く。そういう意味でも、数を揃えることが重要になる。どんなに高性能でも、高価で数が揃わず、必要なときに必要なところに配備できないようでは意味がない。

水中音響通信は速度が出ない

USVやUAVは洋上にいるから無線通信を利用できるが、問題は水中を航行するUUV。水中では事実上、無線通信は使えない。そのため、UUVではデータを記録して持ち帰る、あるいは浮上してアンテナを突き出して無線通信を行う、といった運用が多い。

DSEI JapanではIHIや三菱重工がUUVの模型展示を実施していた。IHIで伺ったところ、水中で通信するために音響通信の機材が載っており、伝送能力は数十kbps程度、通信できる距離は200m程度とのこと。これを指令やデータのやり取りに使用するが、伝送能力の上限が低いので、データを圧縮するなどして対処する考えだという。

  • IHIは研究用AUVを会場に持ち込んだ 撮影:井上孝司

ちなみに、すでに多くのカスタマーを獲得しているハイドロイドのREMUS 100MとREMUS300Mは、ウッズホール海洋研究所が開発したWHOIマイクロモデム2.0を搭載する。これは可聴周波数より上の、20~30kHzの音波を使用する製品。周波数偏移変調と位相偏位変調を使い、80~5,400bpsの伝送能力を発揮できる。

新型FFMで上構の配置が変わった理由

一方、三菱重工は海上自衛隊向け新型FFMの模型を展示していた。オーストラリアに提案しているものも、同じ形態であるという。

現行のFFMと比べて大型化しているが、個人的に気になったのは、上構の形状とレーダーの配置が変わったこと。現行型は前後・左右に向けてアンテナ・フェイスを設置しているが、新型は斜め45度方向に向けている。その理由は、「レーダー誘導の艦対空ミサイルを搭載するため、レーダーの視界に死角を作らないようにする必要が生じたため」とのこと。

  • 三菱重工が展示していた新形FFMの模型。目につくのは、上構の形とアンテナ・フェイスの向きが変わったこと 撮影:井上孝司

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。