第334回でレイセオンの艦載レーダーを取り上げたが、今回は同じレイセオンでも戦闘機用のレーダーを取り上げる。元をたどるとヒューズの製品だが、ヒューズの防衛電子機器部門がレイセオンの傘下に入ったため、今はレイセオンの製品になっている。
大きく分けると2系列
そのレイセオンの戦闘機用レーダーのうち、現行の米軍機で制式採用されたものを大きく分けると2系列ある。1つはF-15イーグル用で、AN/APG-63に端を発する流れ。もう1つはF/A-18ホーネット用で、AN/APG-65に端を発する流れ。
ただしこの2系列、それぞれ別個に発展してきたわけではなく、相互交流が発生しているのが興味深い。そして、発展の過程でアクティブ・フェーズド・アレイ、つまりAESA(Active Electronically Scanned Array)レーダーに進化している点で軌を一にしている。
まず、F-15A/B/C/Dが搭載した初期モデルが、AN/APG-63。搭載機が制空戦闘機なので、対空専用である。
そのF-15をベースにして対地攻撃能力を追加したデュアルロール戦闘機(DRF)がF-15Eストライクイーグルだが、そうなると当然、レーダーも対地攻撃に対応したモードが必要になる。そこで登場したのがAN/APG-70。地上目標の捕捉に加えて、地上のレーダー映像を得られる、合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)のモードを備えた。
なお、F-15C/Dの一部もAN/APG-70を搭載したが、こちらは出番のない対地モードを省略したようだ。
その後、1970年代の技術で作られたAN/APG-63の信頼性不足を改善するため、信頼性・保守性の改善を図るとともに将来に向けた発展の土台を持たせたモデルができた。これがAN/APG-63(V)1で、主な変更点は、送信機、受信機、低圧電源、シグナル・データ・コンバータとなっている。信頼性についてはベースモデルの10倍に向上したとされる。
米空軍のF-15C/D(2011年の時点で180機)に加えて、航空自衛隊のF-15J近代化改修機も、AN/APG-63(V)1を導入した。
一方、F/A-18A/B/C/DホーネットはAN/APG-65を搭載した。F/A-18の機首はF-15より細いので、アンテナも電子機器もコンパクトにまとめる必要がある。また、すぐ後ろに機関砲が陣取っているので、振動対策も必要になったと思われる。
F/A-18E/Fスーパーホーネット・ブロックIが搭載したのが、AN/APG-65にAN/APG-70の技術を取り入れて改良したAN/APG-73。プロセッサの処理能力向上、電源のソリッドステート化、受信機/励振器の新型化、といったあたりが主な変更点。初期型ホーネットの中にも、AN/APG-73を搭載した機体がある。
ここまでが機械走査式アンテナを持つモデルである。
AESA化と相互交流
レイセオンの戦闘機用レーダーで最初にAESA化したのは、F-15C/D用のAN/APG-63(V)2。これはアラスカ配備の18機にのみ搭載した、いわば暫定モデルで、四角いアンテナ・アレイを備えている。アンテナと、それを制御する部分を新しくしたが、その他はAN/APG-63(V)1と変わっていない。
次に、F/A-18E/Fスーパーホーネット・ブロックII用のAESAレーダーが登場した。それがAN/APG-79。捜索・射撃管制レーダーとしての機能だけでなく、電子攻撃(EA : Electronic Attack)の機能を備えているともいわれる。
一方、F-15用における本命のAESA化モデルはAN/APG-63(V)3で、米空軍ではF-15C/Dを対象とするレーダー改良計画(RIP : Radar Improvement Program)を立ち上げて導入した。
AESA化したアンテナを制御するソフトウェアはAN/APG-63(V)2から継承したが、そこにAN/APG-79の技術を活用した新設計の円形アンテナ・アレイを組み合わせた。AN/APG-63(V)1との相違点には、そのアンテナのハードウェアに加えて、電源と環境制御システムがある。しかし、それ以外はAN/APG-63(V)1と共通だから、新しくなるコンポーネントだけ替えれば(V)1が(V)3に化ける。
F-15C/Dは制空戦闘機だから対地モードがなくても困らないが、F-15Eは話が違う。そこで、F-15Eについてもレーダー近代化改修計画(RMP : Radar Modernization Program)が立ち上がり、そこで登場したのがAN/APG-82(V)1。
計画段階では、AN/APG-63(V)4といっていたが、後で別形式を起こした。もっとも、最初にAN/APG-63を名乗ったこと自体、共通性の高さをうかがわせるものがある。
AESA化したアンテナを初めとするフロントエンド部はAN/APG-63(V)3から、プロセッサ(GPP3 : Common Configuration General Purpose Processor)を初めとするバックエンド部はAN/APG-79から持ってきた、いわば「集大成としてのいいとこ取り」をしたレーダーである。米空軍のF-15EがAN/APG-82(V)1への換装を実施しているほか、イスラエル空軍のF-15IラームもAN/APG-82(V)1に換装する。
相互交流することのメリット
こうしてみると、2系列のレーダーが相互に交流する形で発展してきている様子がわかる。搭載する機体が違うので、ハードウェアは別個にならざるを得ない部分が多い。だが、相互に流用できる部分を流用すれば、開発リスクの低減、ひいてはコストの低減や開発スケジュールの短縮につながる。
ちなみに、AN/APG-79は航空自衛隊のF-4EJ後継機選定に際して、F/A-18E/Fとセットで提案されていたが、ガードの堅さが印象に残っている。せっかく記者説明会を開いても、ちょっと立ち入った内容に及ぶと「それはお答えできません」となってしまう上に、アンテナ・アレイの外観がわかる写真はまったく出回っていない。
保全にうるさいF-35ですら、AN/APG-81レーダーのアンテナ・アレイを撮影した写真が出回っているというのに、この違い。よほど何かとんでもない飛び道具を隠し持っているのか、それとも米海軍の情報管理が厳しいだけなのか。そこのところは謎。
なお、これらAESAレーダーの開発経験を生かして、レイセオンはF-16用のAN/APG-84 RACR(Raytheon Advanced Combat Radar。「れーさー」と読む)を開発した。しかし、F-16の換装用として採用が確定した事例はない。
レイセオンでは、RACRを米海兵隊の初期型F/A-18向けにも、AN/APG-65の換装用として売り込んでいた。しかし結局、この提案は引っ込めて、AN/APG-79のアンテナ部分を小型化したAN/APG-79(V)4を導入することになった。
その理由は、AN/APG-79を装備しているF/A-18E/FやEA-18Gとの共通性を確保するため。ただし、旧型ホーネットはスーパーホーネットよりノーズコーンが小さいため、アンテナを小型化する。そのため、別形式を起こした次第。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。