前回は、機関銃・機関砲・火砲の照準について説明した。次のお題は自由落下爆弾である。昔はこのタイプしかなかったから「爆弾 = 自由落下爆弾」だったが、今は誘導爆弾が一般的になったので、いちいち「自由落下爆弾」といって区別しなければならなくなった。ただし、いちいち自由落下爆弾と書くと長いので、本稿では「爆弾」と書く。

自由落下爆弾の照準

飛行中の航空機は、それ自身の進行方向と速度を持っている。そこから爆弾を投下すると、投下した母機の進行方向と速度がおおむね、爆弾に与えられる方向と初速ということになる。後は、引力によって落下していくだけである。

ところが、最初に方向と初速が与えられているので、爆弾は真っ直ぐ地面に向けて落下するわけではなく、前方斜め下に向けて落下する。ということは、自由落下爆弾を投下する場合には、前方斜め下に目標が来たところで投下しなければならない。目標が自機の真下まで来てから投下したのでは、はるか前方に落下してしまって大外れとなる。

そして、自機の対地高度によって、どれぐらい前方に飛ぶかが違ってくる。さらにややこしいことに、落下する爆弾の飛翔経路は一直線ではなく、徐々に下向きになる経路をとる。

そして、空力的な影響もある。爆弾が空中を飛翔する際、それ自身の空気抵抗があるからだ。また、低空で爆弾を投下する時は、わざと減速装置を取り付けてスピードを落とすこともある。投下元の航空機が、自分が投下した爆弾の爆風で被害を受けることがないように、逃げ出す時間を稼ぐためだ。

ということは、自由落下爆弾を投下する時の照準とは、自機の速度と対地高度、それと投下する爆弾の飛翔経路(空気抵抗や減速装置による影響も、もちろん含む)に関するデータに基づいて、目標がどの位置に来たところで投下すればよいかを算出する作業ということになる。

対地高度が同じでも、自機の速度が速ければ、より手前で投下しなければならない。速度が同じでも、対地高度が高くなると、より手前で投下しなければならない。もちろん、減速装置をつけた爆弾を投下する時は、そのデータも加味しなければならない。

そして、落下する爆弾の軌道は一直線にはならないから、その分だけ計算は複雑になる。

爆撃コンピュータは、こういった諸要因を考慮に入れた上で、投下のタイミングを割り出して指示しなければならない。

実は誘導爆弾の場合も、精確に狙いをつける手間は減るものの、推進力がないから「目標に到達するためにはどの範囲内で投下すればよいか」という計算が要る。結局、爆撃コンピュータの仕事はあるのだ。

  • 兵装投下試験を実施しているF-35B。切り離された爆弾は、真下ではなく前下方に向けて落下する Photo:DoD

投下の方法いろいろ

実は、さらに話をややこしくするファクターがある。爆弾の投下は、水平直線飛行で行うとは限らないのである。

昔からある方法では、目標に向けて降下して、突っ込みながら爆弾を投下する「急降下爆撃」。この場合、投下された爆弾の飛翔経路は水平直線飛行で投下するときと比べると、より直線に近くなる。爆弾に与える進行方向の初期値が、最初から下を向いているからだ。

実は、爆撃コンピュータなんてものがなかった第2次世界大戦中には、急降下爆撃のほうが命中精度が高いと言われていた。目標に向けて突っ込みながら投下する分だけ、爆弾の飛翔経路が直線的になり、狙いをつけやすくなるからだ。ただし、急降下爆撃ができる機体は小型のものに限られる。大型の爆撃機で急降下爆撃をやったら、投下後の引き起こしが困難になってしまう。

反対に、上昇しながら爆弾を切り離して、いったん上方に放り上げる「トス爆撃」もある。こんなことをするのは、目標の上空まで行かずに済ませるためだ。こうすることで、防空システムの危険にさらされる危険を避けられるメリットがある。トス爆撃では急降下爆撃と逆に、爆弾の飛翔経路は弾道飛行に近くなる。

こうした投下方法の違いも、爆撃コンピュータにちゃんと教えておかないと命中は覚束ない。投下した爆弾の飛翔形態が違うから、投下のタイミングを割り出すための計算ロジックも変わる。

そして、いずれの方法をとるにしても、針路・速力・姿勢に関するデータが爆撃コンピュータに入っていないと、正しい計算ができない。だから、例えば姿勢計やエア・データ・コンピュータと、爆撃コンピュータを連接しておかなければならない。すると今度は、物理的・電気的・ソフトウェア的なインターフェイスをそろえるという課題が生じる。

CCIPとCCRP

実際に爆撃コンピュータを使って航空機から爆弾を投下する場合、2種類の方法がある。

1つは、「今の速度・姿勢・飛翔方向で爆弾を投下した時に、どこに当たるか」を計算してパイロットに教える方法。これが連続算出命中点(CCIP: Constantly Computed Impact Point)だ。

この場合、計器盤の上に取り付けてあるHUD(Head Up Display)には、爆撃コンピュータが算出した予想着弾位置を示すマークが現れる。パイロットは、そのマークが目標に重なるように機体を操る。

目標を視認して、そこに上空から突っ込んでいく場合は、CCIPを使用すると思われる。その場合、切り離した爆弾は落下するだけである。

もう1つは、事前に目標の位置を爆撃コンピュータに入力しておいて、自機の針路・速度・高度といったデータに基づいて「いつ投下すれば当たるか」を計算する方法。これが連続算出投下点(CCRP : Constantly Computed Release Point)だ。

この場合、HUDには「どこに当たるか」ではなく「どちらに向けて飛ぶべきか」の指示が現れる。パイロットがそれに合わせて機体を操ると、適切な投下タイミングに来たところで爆撃コンピュータが爆弾を自動的に切り離す。

前述したトス爆撃では、CCRPを使用することになると思われる。つまり、機首を目標に向けて上昇すると、爆撃コンピュータが「ここで投下すれば命中する」と割り出したタイミングに達したところで自動的に爆弾を切り離す指令を出すわけだ。

CCIPにしろCCRPにしろ、飛行中、つまり常に移動している航空機と目標の位置関係を連続的に算定し続けなければならない。だから、コンピュータの処理能力が足りないと、困ったことになるかもしれない。

実のところ、爆撃コンピュータが精確に投下のタイミングや予想命中点を割り出してくれても、それだけでは命中は覚束ない。パイロットが機の針路を安定させないといけないからだ。針路がフラフラしているようでは、狙いは外れてしまう。それはパイロットの問題で、爆撃コンピュータが頑張ってもどうにもならない。