乱暴にいい切ってしまうと、UAV(Unmanned Aerial Vehicle)には自作PCと似たところがある。何が似ているのかというと、設計に際してモジュール化の概念を取り入れて、ペイロードの換装や変更を容易にしている事例が多いところが似ている。
ここでいうペイロードとは主として、情報収集に使用するセンサー機材である。武装UAVなら誘導爆弾やミサイルを搭載するので、これらもペイロードに含まれるが、そういった兵装の誘導にはセンサー機材が必要だから、やはりセンサー機材は不可欠の存在である。
ペイロードとペイロード・ベイ
UAVを設計する際には一般的に、ペイロード・ベイと呼ばれる区画を機体の下面に設ける。そこにさまざまなセンサー機材を搭載して、UAVの主要な用途であるISR(Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)関連の任務に従事させる。搭載するセンサー機材には以下のようなものがある。
- TVカメラ
- 赤外線センサー
- レーザー測遠機
- レーザー目標指示器
- 合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)
- 電子情報収集機材
- 通信中継機材
このうち最初の4種類は、ひとまとめにして旋回・俯仰が可能なセンサー・ターレットにすることが多い。これは以前にも書いた通りだ。ただし、小型・安価な機体ではTVカメラだけだったり、レーザー関連の機材がなかったりすることもある。いずれのセンサー機材でも、さまざまなメーカーがさまざまな製品を出している。
そして、カスタマーがどの機材を使いたがるかは場合による。光学センサー機材が欲しいこともあれば、天候に関係なく使えるSARが欲しいこともある。また、もともと付き合いがある国の製品、すでに別の機体で運用実績がある製品を利用したいと考えるのは自然なことだ。さらに、武器輸出規制の関係で入手可能なセンサー機材に限りがあり、別の代替品に変更しなければならない、なんていうことも起きる。
するとUAVを売る側からすれば、カスタマーの要望に応じてさまざまななセンサー機材を搭載できるようにしておく方が、商売をしやすい。それに、UAVの能力向上では飛行性能の向上よりもセンサー能力の向上が優先されることが多いから、新型センサーに容易に変更できる設計にしておく方がよい。
そこで、機体とセンサーを一体のものとして開発するのではなく、ペイロード・ベイという独立した区画を設けてモジュラー化することで、センサー機材の変更や更新を容易にするという考え方が出てくる。ただし、物理的なフォームファクタ、電源供給能力や冷却能力、データ伝送用のインタフェース、といったところをどう統一していくかという課題はある。
センサー機材が異なる例
たとえばノースロップ・グラマン社製のRQ-4グローバルホークには、ブロック10・ブロック20・ブロック30・ブロック40というバリエーションがある。
ブロック10ではISS(Integrated Sensor Suite)というセンサー群を搭載していたが、ブロック20とブロック30ではISSの探知可能距離を延伸するとともに解像度を向上させたEISS(Enhanced Integrated Sensor Suite)に切り替えた。そしてブロック40ではMP-RTIP(Multi Platform-Radar Technology Insertion Program)というSARを搭載する。また、ブロック30にはSIGINT(Signal Intelligence)用にASIP(Airborne Signals Intelligence Payload)を搭載する計画もある。
さらに、そのRQ-4から米海軍向けに派生させたMQ-4Cトライトンという機体がある。こちらはBAMS(Broad Area Maritime Surveillance)という計画名称の通り、広域海洋監視を担当する機体なので、これまたセンサー機材の内容には違いが出てくる。
RQ-4グローバルホークの機首クローズアップ。下面に円筒形の張り出しがあるが、ここに電子光学センサーを収容して左右に首を振り、後部・主翼付け根の下面にレーダーを収容する(出典 : USAF) |
そのグローバルホークから派生した広域海洋監視型のMQ-4Cトライトン。胴体下面の外見やセンサーの構成が異なる様子が分かる(出典 : US Navy) |
しかし、どの機体をとってもドンガラの部分の外見は似ている。ドンガラはできるだけ共通性を持たせて、仕事をするペイロードの部分を用途に応じて変更できるようにすることで、製作費用も維持管理費用もアップグレード改修費用も抑制できる(と期待したい)。乱暴にいってしまえば、自作PCで一部のパーツを交換して能力向上を図るのと似ている。
似たような話は、MQ-1プレデターの一族にも存在する。まずナット(Gnat)という機体があり、それを発展させる形でMQ-1プレデターができた。さらにエンジンをレシプロからターボプロップに変更してパワーアップするとともに、主翼を延長、速力も航続性能も搭載能力も大幅に向上させたMQ-9リーパーができた。
もともとMQ-1やMQ-9は米空軍で主に運用している機体だが、米陸軍向けにMQ-1Cグレイ・イーグルという派生型を生み出しており、用途に合わせてセンサー機材を変更している。こちらは光学センサー機材に加えてAN/ZPY-1スターライトという対地監視レーダーを搭載するのが特徴で、その辺がいかにも陸軍向けである。
さらに最近、ジェット・エンジンに変更してさらなる高性能化を図った、プレデターC(アヴェンジャー)まで登場した。
こういった具合に、当初から発展性を持たせたアーキテクチャとモジュラー設計を実現するという考え方は、IT業界からすると親和性の高いものであるかも知れない。そもそも近年、軍用IT製品の世界では「オープン・アーキテクチャ」が合言葉になっているのである。
執筆者紹介
井上孝司
IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。