前回に引き続き、LIFULL 執行役員/Chief Technology Officerの長沢翼氏にエンジニアの在り方や組織論についてお話を伺っていく。今回は、2017年にCTOに就任した長沢氏がまず取り組んだという、エンジニア組織の改革について聞いた。
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LIFULL 執行役員/Chief Technology Officerの長沢翼氏
旧組織体制から脱却し、仕組みを変化させる
――長沢さんがCTOに就任する前のLIFULLのエンジニアの組織について教えてください。
長沢氏:当時はほぼ事業部制に近いかたちの組織体系でした。賃貸や売買などのマーケット毎の各部門がプロダクト開発を行うエンジニアを有しており、事業寄りの立ち位置だったと言えます。この組織体系での課題は、技術面で全社にまたがるような大きな意思決定を推進していくのに限界があったことです。弊社の「LIFULL HOME'S」は20年以上続くサービスで、何度かのメジャーバージョンアップをしています。しかしその度に少しずつ(技術面での)“負債”が溜まっていました。これを解消するためには、事業部門ごとでは判断がしづらく、全社的に動く必要があったのです。
また、事業部門によって、サービス規模の違いから所属するエンジニアの人数もさまざまでした。例えば、エンジニアが1名しかいない組織では保守はできても、新しいことへのチャレンジは難しくなります。部門ごとの個別の対応では賄いきれない状態になりつつあったのです。さらに言うと、人数がいる組織だとしても、そのメンバーがまだ経験が浅い若手の場合、何か問題があっても、それを上司や上層部に伝えづらいといった課題もありました。
――そこで、エンジニアの組織体制を変革されたんですね。
長沢氏:はい、大きく分けると、2度にわたって2つの組織体制の変革をしました。最初の変革は横断組織の統合です。事業部門や管理部門に存在していた技術系部門、具体的にはインフラ基盤やセキュリティ、品質管理、情報システムなどに取り組むエンジニアを社長直下の「テクノロジー本部」に集約し、会社横断組織とし、LIFULL HOME’S 以外の事業部門や子会社もサポートするようにしました。 次の変革は、LIFULL HOME'S の各マーケットに分散していたエンジニアを「プロダクトエンジニアリング部」という1つの部に集約したことです。
――組織を変革したことで、変化は生まれましたか。
長沢氏:そうですね、良かった点としてはエンジニアから「事業にとって良い話」をきちんと提案できるようになったことがあります。具体的に、いくつかの部門でシステム刷新の話が進みました。
また、技術のチームとしての方向性を明確にできたという点も良かったと思っています。例えば、これまで弊社ではあまりリファクタリングの文化が根付いていませんでした。しかし、「エンジニア一人ひとりが業務時間の10%はリファクタリングやシステム改善をする」という技術面での目標を設定したことで、これまでの“技術的負債”をきちんと返していかなければいけないという発想が定着したと感じています。
その他にも、テクノロジー本部の共通基盤に、その他の事業部門のシステムを移行することができた点や、エンジニア全体の開発生産性を可視化できた点がメリットだったと思います。
変革で生まれたデメリット、その解消方法は?
――デメリットもありましたか。
長沢氏:事業部門からエンジニアが抜けたことで、従来よりも意識的に、事業部門のメンバーとコミュニケーションしていかないといけない状況になりました。現在、プロダクトエンジニアリング部のエンジニアは各事業部門のプロジェクトに参加しています。そのため、プロジェクトにおけるコミュニケーションラインと、組織におけるコミュニケーションラインの2つを持つことになり、コミュニケーションコストが増えました。また、組織としての目標と、事業の目標のどちらをとれば良いのか、バランスが難しくなったという点もあります。
――それらの課題はどう解消したのですか。
長沢氏:1つは、プロダクトマネジメント制度を導入したことです。どのプロジェクトにも、プロダクトマネジャー、テックリーダー、プロダクトデザイナーの3人を必ず立てることにしました。
もう1つは「RACIチャート」の導入です。このチャートでは、誰がどの範囲の決定者なのか、この範囲に問題が起きた場合誰に相談すれば良いのかを明確に示しました。これらの導入により、コミュニケーションをとる範囲をはっきりさせ、コミュニケーションロスを防いでいます。