佐々木 以前から話題だったiPadがようやく出ましたけれど、堀さんはこの製品を買われる予定ですか?
堀 もちろん買います! しかも、もしかしたら実家の分も含めて2台買うかもしれません。
佐々木 2台! まさか娘さんの写真を見せるため……とかではないですよね?
堀 もちろんそれが主な目的ですよ(笑)。でもiPadが出た時、すぐに思ったのは「これほどまでにユーザーインタフェースが直感的だったら、なじみのないうちの両親でも使うことができるはず」ということでした。一番驚きだったのはiWorksがiPadに移植されていることで、これはAppleがアプリケーション開発者に「普通のキーボードとマウスがなくても使えるアプリを作ってみろ」と挑戦しているのだろうなと思ったわけです。机の前でなくても使える新世代のアプリがやってくると思いますよ。佐々木さんだったら、これをどんな場所で使いたいと思いますか?
佐々木 私は馬鹿のひとつ覚えみたいなのですが、まず何よりもToodledoを使いたいと思いました。これがあれば、いつでもどこでも、本当の意味で時間を見積もって行動を記録するという、もう5年来やりたくてできなかったことがやれるだろうということで。
堀 僕はこれでやっと論文を読むための理想の場所ができたと感激しているところです。今でもPapers for iPhoneというアプリですべての論文をポケットに入れていますが、大きな画面で読めるのは嬉しい限りです。
佐々木 堀さんが実家の分も買われるとおっしゃったのとちょっと似ていて、私は可能であれば、妻の分も買いたいのです。今、妻の予定と私の予定が全然同期していないということに一番困っていて。なぜなら、妻は電話の前にある紙のカレンダーに予定を書くものですから。私はいちいちGoogleカレンダーからその紙のカレンダーに予定を書き写すという悲しい作業を強いられているんです。iPadはこの作業から私を解放してくれるはず。
堀 確かに、iPadだったら紙のカレンダーのように使えますね。この「紙のように」というのがiPadがiPhoneとは違う点だと思うんです。これからやってくるアプリは、デスクトップでも携帯電話でもない、アナログとデジタルの境界を縫い合わせるものになるはずです。マインドマップ、カレンダー、電子書籍はもちろん、iPadの上でボードゲームをしようという話題もあるくらい、これまでにないものが登場するはずです。そこで重要になるのがiPadを「いつ」「どこで」使うかという点ですね。
佐々木 ボードゲームというのは面白いですね。iPadはiPhoneより大きいので、そういう発想が出てくるのもわかります。私は妻がオンラインショッピングしている際にいつも面倒な思いをさせられるので、ここでもiPadによって革命的に便利になるのではないかと期待しています。ショッピングサイトも、iPadで複数の人が同時に買うものを検討している様子をインタフェースでサポートしてくれると嬉しいのですが……。
堀 これまでネットを使っている人は大抵PCに向かってこちらには背中を向けていましたから、iPadで少なくともネットを周囲から見られる環境ができるとそういうこともできそうですね。ここでも「いつ」「どこで」の問題に油をさしていると思うのです。
iPhoneがメールを読む時間を「電車の中の5分」にしてくれたように、iPadが活性化してくれる時間と場所はどこなんだろうかと想像力をたくましくしています。逆に言えば、どんなツールも「どんな時間を活性化するか」「ここでは不可能だった何を可能にしてくれるのか」という視点で考えれば、それがどのように生活を変えるのかをイメージしやすいですね。
例えば今「手帳が使いこなせていない」とお悩みの人は、「いつ」「どこで」それを活用しているのか、「いつ」「どこで」手帳と向き合っているのかというように、しつこいくらいに「いつ」「どこで」を問いかけるとツールの利用価値が見えてくると思います。
編集後記(佐々木正悟)
これまで、軽量・小型のツールと言えば「いつでも、どこでも」をキャッチコピーとしてきましたが、そろそろ時代は移りつつあるようです。今や、革新的なガジェットを「いつ」「どこで」使うかについて検討できる時代に入っているのかもしれません。もちろん、iPadはまだ市販されているわけではないので、どんなシーンで利用できるかについては、どこまでいっても想像の域を超えられません。あらためて製品が登場すれば、予想もしなかったようなユースケースを見聞きすることにもなるでしょう。
佐々木 正悟(ささき しょうご)
心理学ジャーナリスト
「ハック」ブームの仕掛け人の一人。専門は認知心理学。 1973年北海道旭川市生まれ。97年獨協大学卒業後、ドコモサービスで働く。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、04年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。 著書に、ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)のほかに『ブレインハックス』(毎日コミュニケーションズ) 『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』(ソーテック)などある。
堀 E. 正岳(ほり まさたけ)
ブロガー・気候学者
1973 年アメリカ・イリノイ州エヴァンストン生まれ。筑波大学地球科学研究科(単位取得退学)。理学博士。地球温暖化の影響評価と気候モデル解析を中心として研究活動を続けている。その一方でアメリカでライフハックが誕生したころからその流行を追い続け、最新のハックやツール、仕事術や自己啓発に至る幅広いテーマをブログ Lifehacking.jp で紹介している。 著書に、「情報ダイエット仕事術」(大和書房)、「英語ハックス」(日本実業出版社、佐々木正悟氏との共著)、Lifehacks PRESS vol2(技術評論社、共著)がある。 ブログ「Lifehacking.jp」を主催