2023年1月25日、プリンストン大学は、Origami(折り紙)技術と計算イメージング技術を取り入れた新型アレイアンテナを設計したと発表した。では、この折り紙技術を取り入れた新型アレイアンテナとは、どのようなものだろうか。そして、この新発想によりアンテナのどのような点を改善できるのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

  • プリンストン大学が開発したアレイアンテナのイメージ図

    プリンストン大学が開発したアレイアンテナのイメージ図(出典:プリンストン大学)

アンテナの変形に活かされた「折り紙技術」とは?

では早速、折り紙技術を取り入れた新型アレイアンテナがどのようなものなのか見ていこう。以下の図をご覧いただきたい。金色かつ円形の平面アンテナがお分かりいただけるだろう。これらはメタサーフェスアンテナと呼ばれ、自然界には存在しない反射特性を持つ表面となっており、そこに入射した電磁波の反射位相を制御できる特徴を有しているのだ。この平面アンテナを多数配置し、そして形状を変形させられるようにすることで、視野角を広げることができるという。

  • 新型アレイアンテナとその概要図

    新型アレイアンテナとその概要図(出典:Advanced Science)

そして、アレイアンテナが数多く平面状に並ぶ中、その形状を局面へと変形させることができるという。その際には以下の図のように、正確に設計された折り方で構造を変化させるという。まるで折り紙のように、表面を折りたたんだり展開したりすることで、曲線やサドル型、球体といったさまざまな形状を作り出すのだ。彼らはこれを「トランスフォーマ」と呼んでいる。そして変形したのちに、その表面上へと平面アレイアンテナを接続するという。

  • 平面を局面に変形させるために、折り紙のような技術が活用されている。これにより。さまざまな曲線構造でもアンテナの実装が可能になるのだ

    平面を局面に変形させるために、折り紙のような技術が活用されている。これにより。さまざまな曲線構造でもアンテナの実装が可能になるのだ(出典:Advanced Science)

ではなぜプリンストン大学は、このような新型アレイアンテナを設計したのだろうか。現在主流となっている5G通信システムや次世代ロボティクス、宇宙、自動運転、非破壊検査などにおいては、ミリ波帯の電波が利用されている。現状その利活用シーンでは、平面タイプのアンテナや、そのアンテナを集合させたアレイが使用されているケースが多い。それは、平面タイプのアンテナの方が、設計や製造が単純かつ容易であるという理由に起因する。

しかし、イメージングやセンシングに利用する際には、平面アレイアンテナでは、放出後の散乱波を捉える際に視野が制限され、解像度向上の面でも不利に働くというデメリットがある。一方で今回開発したアンテナは、平面アレイアンテナに比べて、ビームスキャン機能や視野を大幅に向上でき、またアンテナ自体を物理的に目立たないようにすることができるなど、新たな機能を提供することができるという。

また、複雑な3次元画像のキャプチャや、アレイアンテナを変形させることによる電磁波の精密操作も可能になるとのこと。さらには、高度なアルゴリズムと組み合わせることで、広範囲より広範囲の情報を取得して効果的に処理できるというのだ。

なおこの研究成果は、「Advanced Science」に掲載されている。

いかがだっただろうか。プリンストン大のKaushik Sengupta博士は、今回開発されたアンテナがセンシング技術の性能を大きく向上させると見込んでいるという。また、コスト面などでも将来的にメリットを提供できると考えており、広い分野への適用を目指すとしている。

だが一方で、今回開発したアレイアンテナにより取得できる情報量が増える分、それらの情報を処理するチップ技術や、高速・正確・安全なシステムへの向上も重要になるだろう。