2022年11月18日、ヤマサ、信州大学、松本工業高校は共同で「いたずらネズミとお手伝いドローンプロジェクト」の始動を発表した。「いたずらネズミとお手伝いドローンプロジェクト」というユニークなネーミングだが、具体的にはどのようなプロジェクトなのだろうか。また、どのような経緯でプロジェクトが発足したのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

  • ヤマサ・信州大学 工学部設計工学研究室・松本工業高校による新プロジェクト「いたずらねずみとお手伝いドローン」

    ヤマサ・信州大学工学部設計工学研究室・松本工業高校による新プロジェクト「いたずらねずみとお手伝いドローン」(出典:ヤマサ)

ネズミ退治ドローンの開発が始動した経緯とは?

「いたずらネズミとお手伝いドローンプロジェクト」という可愛らしい名称を聞いて、どのようなイメージを持つだろうか。

もちろん名称の通り、ドローンを活用したネズミによる被害の対策を実施するプロジェクト。しかし、単なるネズミ被害対策ではない。ヤマサ、信州大学、松本工業高校の三者が、AI・3Dマップ・ドローンなどの最先端テクノロジーを駆使して行う産学連携プロジェクトなのだ。

では、そのきっかけはなんだったのだろうか。

ヤマサは、150年以上の歴史を持つ老舗企業で、長野県や近郊の生産者から米を調達し、米菓子・酒類などの原料となる業務用の米、小売業向けの精米など、顧客の用途に合わせたサービス提供を行っている。

  • プロジェクト記者発表会で概要を語るヤマサ総務部長の依田剛氏

    プロジェクト記者発表会で概要を語るヤマサ総務部長の依田剛氏(出典:ヤマサ)

  • ヤマサ代表取締役社長の北爪寛孝氏

    ヤマサ代表取締役社長の北爪寛孝氏(出典:ヤマサ)

お米のプロであるヤマサには、農家などから特有の悩みであるネズミ対策について相談されることが多いという。同社によると、その対策法として「ネズミの天敵」を利用した手法に効果がありそうだとされていたが、実際の天敵を使うことは現実的ではなく、試行できていなかったという。

そこでヤマサは、近年のDX化などの流れを汲み、この領域に最先端のテクノロジーを活用して新しいことができないか、という発想を起点にプロジェクトを始動させたという。

その後ヤマサ社内で検討や調査を進めると、世の中にネズミを検知するシステムはあるものの「設置したカメラで近くにいるネズミを捉えているだけ」の施策が多く、ソリューションとして考えた場合には、検知するだけでなくその後の対応まで考えたものにすべきだと考えるようになったというのだ。

そこでヤマサは、以前から交流のある信州大学の中村研究室へ相談。信州大学はヤマサの話を受け、次のように考えたという。

「中村研究室で所有する3D再構成技術にはまだ少々課題があり、その上ドローンの自律飛行には多くの課題があるため、実現へのハードルが高い。そのため、最初は2次元の移動で済むラジコンカーで実施してはどうか」と。

そして中村教授は、AIで検知したネズミをラジコンカーの自動走行で追い払うことができないかという相談を、松本工業高校へ持ちかけた。すると松本工業高校からは、米ぬかの付着によりスリップなどの可能性があるラジコンカーよりも、ドローンのほうが簡単ではないかという意見があったという。このような経緯から、企業・大学・高校が参加する産学連携プロジェクトに発展していったという。

  • 信州大学工学部設計工学研究室の中村正行教授

    信州大学工学部設計工学研究室の中村正行教授(出典:ヤマサ)

  • プロジェクトに参加している松本工業高校電子工学部のメンバー

    プロジェクトに参加している松本工業高校電子工学部のメンバー(出典:ヤマサ)

プロジェクトが目指すネズミ対策システムとは?

では、彼らは具体的にどのようなシステムを目指しているのだろうか。

まず、倉庫内に設置したカメラで撮影した画像データをAIで解析。解析したネズミの位置情報に対し、最適なルートでアプローチするべくドローンに指示する。ドローンは自動飛行によってネズミに急速接近し、被害を予防すべく威嚇を行うシステムだ。彼らは、2023年5月を目標にこのシステムの完成を目指すという。また、将来的にはさまざまな鳥獣被害に活用できる可能性を秘めているとも考えているという。

  • プロジェクト記者発表会で行われたデモンストレーションの様子

    プロジェクト記者発表会で行われたデモンストレーションの様子(出典:ヤマサ)

いかがだっただろうか。ネズミによる鳥獣被害は、イノシシやシカなどに比べると少ないが、人が食するお米については、ペストコントロールの観点で対策がとても重要だ。そして他にも、住居や建物などの設備や機材に対するネズミ被害も懸念されている。

今回のプロジェクトは、鳥獣被害対策のDX化とも言える興味深いものだ。そしてこれから、現在の構想よりもさらにパワーアップしていくことだろう。将来的には、屋外・屋内の両方で自動飛行ドローンが鳥獣被害対策の典型例になっているかもしれない。