日本のIT人材の平均年収はいくらなのか。新型コロナから景気が回復に向かう中、IT人材の平均年収はどのように変化したのか。本稿では、2021年9月~2022年8月の1年間に、パーソルキャリアが運営する転職サービス「doda」に登録した約56万人の中からIT関連業種・IT職種のビジネスパーソンのデータをピックアップし、日本のIT人材の平均年収の実態に迫ります。
【業種別】「IT/通信」の平均年収は436万円で、昨年から3万円アップ
まずは、「IT/通信」業界の平均年収の推移を見てみましょう。新型コロナ感染拡大以降、減少傾向にあった「IT/通信」の平均年収はついに増加に転じ、436万円(昨対比+3万円)となりました。また、「IT/通信」の平均年収は、全体の403万円と比べると33万円高い結果となりました。
「IT/通信」をさらに細かく業種分けしてみると、どの業種においても減少しておらず、増加傾向にあることが分かります。
次に、他業種と「IT/通信」の平均年収を比較してみましょう。「IT/通信」は、相対的に平均年収が高い傾向にある「金融」「メーカー」「総合商社」に続き、4番目に高い水準となっています。
「IT/通信」の平均年収が増加に転じ始めている、業種別で見た際に比較的高い水準に位置している背景には、景気の回復と、IT需要のさらなる拡大が関係しているといえるでしょう。
【IT職種別(1)】最も平均年収が高かったのは「プロジェクトマネジャー」で686万円
続いて、「職種」にフォーカスして平均年収を見てみましょう。「技術系(IT/通信)」職(以下IT職種)の平均年収も、新型コロナの感染拡大を機に減少傾向にありましたが、2022年は前年から+4万円の442万円となりました。全体と比べても39万円高くなっています。
続いて、IT職種別の平均年収を見ていきましょう。最も高かったのは、「プロジェクトマネジャー」で686万円(昨対比+15万円)でした。コロナ禍で、モノ・コト・サービスのデジタル化がますます進み、開発を担うプロジェクトチームの責任者として、全体の進行に加え、予算や品質、要員管理などを行う「プロジェクトマネジャー」のニーズは高まり続けており、前回に引き続き1位にランクインしました。
2番目に高かったのは、「プリセールス」で594万円(昨対比-36万円)でした。「プリセールス」は、顧客企業のニーズを踏まえた上で、提案からプロジェクト管理までを担うことからコンサルタントに近く、対象とする製品やソリューションの規模や需要が大きければ大きいほど、年収も高くなる傾向にあります。
「プリセールス」について注目すべきは、昨年からの平均年収の減少幅がIT職種の中で最も大きく、36万円も減っているということです。「プリセールス」のコロナ禍前(2019年)の平均年収は625万円、コロナ禍後(2020年)は658万円でした。コロナ禍でぐっと伸び、その後減少傾向をたどっていることから推測するに、リモートワークなどが急速に普及したことによる、企業のシステム刷新のニーズが一通り落ち着いた可能性を示唆していると考えられます。
次いで高かったのは、「ITコンサルタント」で590万円(昨対比+5万円)。新型コロナ感染拡大の影響を受けリモートワークが普及し、従来のビジネスモデルの変革が求められるようになるなど、企業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の重要性が増しています。その結果、「ITコンサルタント」の需要も高まっており、それが年収に反映されたものと考えられます。
近年、AI(人工知能)の発展とともに注目され、ニーズが高まっている「データサイエンティスト」は513万円(昨対比+1万円)で6位でした。日本には、豊富な経験やスキルを有する「データサイエンティスト」は希少な存在です。そのため企業は、エンジニアをエントリーレベルの「データサイエンティスト」として採用し、育成しています。これが、需要はありながらも、年収の上り幅が少ない1つの要因であると考えられます。補足情報として、「データサイエンティスト」としての経験がある人材の年収は、700万円、800万円を優に超えます。
一方で、17位の「テクニカルサポート」(397万円、昨対比-14万円)と20位の「ヘルプデスク」(342万円、昨対比-3万円)の平均年収が減少傾向にあるのは、AIの進化が関係している可能性があります。ここ数年で、AIを活用した自動会話プログラム「チャットボット」が、問い合わせ対応に活用されるケースが多く見受けられるようになりました。つまり、人が介入する必要性が以前より減ってきています。
ちなみに、当社が運営する「doda」でも、3年ほど前までは「チャットボット」に関連する求人が数多く掲載されていましたが、以前ほどは見かけなくなりました。これは、「チャットボット」の開発が一段落したことを示唆しているとも考えられます。
【IT職種別(2)】前年から最も上がったのは、“未来への投資”を担う「研究開発」で+18万円
ここからは、前年からの平均年収の増加幅が大きいIT職種について詳しく見ていきましょう。 最も増えたのは、ネットワークやデジタルツールの分野で、今は世の中に存在しない新しい価値を作り出す「研究開発」(549万円)で+18万円でした。企業の研究開発投資は、景気が悪い状況下では削減される傾向にあります。そんな「研究開発」の年収が増加しているということは、景気が回復基調にあり、コロナ収束後を見据えて新しいサービスの研究開発に取り組んでいる、すなわち、企業は“未来への投資”に乗り出し始めたということが考えられます。
2番目に増えたのは、「プロジェクトマネジャー」(686万円)と「サーバーエンジニア」(453万円)で+15万円でした。「プロジェクトマネジャー」は前述したように、IT需要の高まりを受け、人材ニーズも高まっていることが、上昇の要因として挙げられます。「サーバーエンジニア」は、リモートワーク拡大への対応や災害時のリスク管理として、これまで以上にクラウド化が求められるようになり、ニーズが高まっていると想定されます。
次いで増加したのは「スマホアプリ/ネイティブアプリ系エンジニア」(426万円)で+13万円でした。スマートフォンの普及に伴い、サービスのアプリ化が進んでいます。例えばゲームや漫画、スーパーマーケットにフードデリバリーなどが挙げられます。さらに、企業においては自社ホームページ上のコンテンツをSNSと連携させ情報拡散させる動きなども活発化しており、アプリ系エンジニアの需要も伸びていると考えられます。
ほか、前年から10万円以上上がっている職種として、「セキュリティエンジニア(脆弱性診断/ネットワークセキュリティ)」(昨対比+12万円、453万円)と「IT戦略/システム企画」(昨対比+11万円、587万円)があります。
「セキュリティエンジニア(脆弱性診断/ネットワークセキュリティ)」は、サイバー攻撃の数が急増していることに加え、年々その手口もウイルスも多様化してきており、求められるスキルが高まっているかつ事業を推進する上で重要なポジションであることが、年収増加につながったといえるでしょう。
「IT戦略/システム企画」は、今やITは企業経営に大きな影響を及ぼすものであり、ITの高い専門性と事業理解を有する優秀なITコンサルタントを自社システム企画へ採用する動きが広がっています。それが「IT戦略/システム企画」の年収を押し上げていると考えられます。
ここまで、IT職種の平均年収について詳しく解説してきました。次回は、筆者もよく問われる、「年収を上げるには?」「市場価値を上げるには?」という疑問にお答えしたいと思います。