今年の10月から、国民一人ひとりに固有の番号を振り分ける「マイナンバー制度」がはじまります。しかし、クロス・マーケティングが6月に行った調査によれば、制度の内容を知らない人が約40%に上り、認知度は低い水準にとどまっています。マイナンバー制度は行政だけでなく、あらゆる企業の人事労務業務に大きく関わります。適切に運用していくために、制度のおさらいをしていきましょう。

マイナンバー制度とは

マイナンバー制度(社会保障・税番号制度)は、社会保障・税・災害対策の分野で効率的に情報を管理することを目的として導入される制度です。日本国民と日本に滞在する外国人に対して、12桁のマイナンバー(個人番号)が振り分けられます。番号は、住民票の住所宛てに送られる「通知カード」によって知らされます。

従業員の給与から源泉徴収して税金を納めたり、健康保険や厚生年金への加入手続きを行うことは人事の基本業務ですが、2016年1月からは、これらの手続きを行うためにマイナンバーが求められます。税務署や役所に提出していた書類に、従業員本人やその扶養家族のマイナンバーの記載が必要になるというわけです。
※厚生年金・健康保険の手続きに関するマイナンバー制度の導入は2017年1月以降から

マイナンバー制度をきちんと運用するためには、入社・退職の手続きや従業員・アルバイトへの給与支払いなど、広範な業務のプロセスを変えなければなりません。

まずは従業員のマイナンバー収集から

社内規定の策定などは別にして、人事担当者が最初に行うべきことは、従業員とその家族のマイナンバーを収集する作業です。今年の10月から、マイナンバーの通知カードが送付されます。当面は、従業員の番号のみが必要となりますが、時間が経つと、カードの紛失により番号確認が困難になる可能性がありますので、早めに扶養家族の分まで番号を集めておくとよいでしょう。

マイナンバーを取得する際は、「利用目的の明示」と、「本人確認」が必要になります。マイナンバーの利用範囲は「税と社会保障、および災害発生時に必要が生じた場合」に限定されており、それ以外の社員管理や顧客管理に使うことはできません。また、他人へのなりすましを防止するために、通知カードや住民票の写しなどによる"番号確認"と、運転免許証などによる"身元確認"を合わせて行いましょう。

マイナンバーは、パート・アルバイトや自社外の個人事業主への給与・報酬支払い、株主への配当にも必要ですので、対応をしっかり準備しておきましょう。

情報管理は厳密に

マイナンバーは非常にプライバシー性の高い個人情報です。そのため、法的に厳密な管理が求められており、漏洩があった場合は罰則が科せられます。なお、個人情報保護法の対象外となっている小規模事業者(商業・サービス業で従業員5人以下、製造業そのほかの業種で従業員20人以下の事業者)も、マイナンバーに関しては安全対策を講じる義務が課せられます。

政府のガイドラインでは、以下の6つの分野における安全対策を求めています。

(1)基本方針の策定
(2)取扱規定等の策定
(3)組織的安全管理措置:担当者・責任者を決める、取扱状況を見える化するなど
(4)人的安全管理措置:取扱担当者を監督し、適正な取り扱いができるように教育することなど
(5)物理的安全管理措置:サーバーや書庫への入退室を限定することなど
(6)技術的安全管理措置:マイナンバーの電子データへのアクセスを制限することなど

マイナンバー制度の情報管理については、取扱担当者だけでなく従業員全員に社内教育を行うことが望ましいでしょう。

このように、マイナンバー制度の導入は人事労務業務に大きく影響し、当初はかなりの負担増になると思われます。中・長期的に見れば、社会保障や税務などの各種事務処理の効率化・省力化につながると期待されていますので、これまでの業務フローを見直して、マイナンバー制度の導入に備えましょう。