いまや、経営の意思決定支援に財務部門が強く関与する時代が訪れている。

情報システム部門が、ITを活用しながら、ビジネスプロセスやビジスネプロセスの変革に取り組み、経営の意思決定支援に関与するのは、多くの企業が取り組んでいること。しかし、これからはCFO(最高財務責任者)が、経営支援に関与する企業が成長の条件になってくるというのだ。

この分析を明らかにしたのは、日本IBM。全世界のIBMが実施したグローバルCFOスタディー2010の調査結果をもとに導き出したものだ。

同調査は、全世界81カ国、約1,900名のCFOおよび経理財務部門の上級管理職を対象に調査したもので、今年で4回目。これまでの調査と比較すると、財務経理部門が本業だけに留まらず、ビジネスへの洞察に力を注ぎ、経営の意思決定を支援する企業が成長を遂げていることを裏付ける内容となっている。

日本IBMでは、経理財務部門が本来の業務を効率化するとともに、経営者および他部門に対して、意思決定を支援するビジネスへの洞察力を兼ね備えたCFOや経理財務部門を「バリュー・インテグレーター」と定義し、バリュー・インテグレーターが企業の成長を支えることを示した。

同社では今回の調査において、「バリュー・インテグレーター」のほかに「効率的な報告者」「従来型経営参謀」「スコアキーパー」という4つのカテゴリに分類した。

日本IBMが分類した企業の4つのタイプ

もっとも業務効率が悪く、ビジネス洞察力が低いカテゴリーを「スコアキーパー」とし、データ記録や計数管理などの基本的業務に留まっている経理財務部門のことを指す。

スコアキーパーから業務効率を追求した経理財務部門を指すカテゴリが「効率的な報告者」である。本業である経理財務業務にフォーカスし、経営者に情報を提供したり、財務諸表などから業績を分析するという役割を担う。

一方で、業務効率を追求せずに、経理財務部門の本来業務だけを行いながら、ビジネス洞察力を追求するのが「従来型経営参謀」。分析にフォーカスすることで、業績が悪化していたり、収益性が悪い組織を見直す、部分最適化の実行などを行う。ここではデータが分散化するという課題が出やすいと指摘する。

そして、業務効率化とビジネス洞察力を兼ね備えた経理財務部門が「バリュー・インテグレーター」となる。企業全体を見渡した上で業績の最適化を行い、予測的知見を持ち、企業リスク管理まで行う。そして、経営の意思決定支援までを行う組織だ。

日本IBM グローバル・ビジネス・サービス事業 戦略コンサルティンググループ 経理財務変革コンサルティングの松尾美枝氏は、「今回の調査では、バリュー・インテグレーターのカテゴリにある企業は、他のカテゴリーの企業に比べて、収益成長率、投下資本利益率(ROIC)、EBITDAといった指標において高い実績をあげており、企業の好業績を支援していることがわかった」と語る。

たとえば、2004 - 2008年までの5年間の平均収益成長率は、バリュー・インテクレーターでは14.0%に達しているのに対して、その他の企業では9.4%。ROICにおいても、バリュー・インテクレーターは12.1%であるのに対して、その他の企業は9.3%。さらに、EBITDAでは、バリュー・インテクレーターでは11.3%に対して、その他の企業では0.5%と、その差は明らかだ。これは日本の企業でも同様の傾向がみられているという。

バリュー・インテグレーターに分類された企業の成長率は国内外ともに高い

経営に直接関与できるほどCFOの権限が強かったり、財務経理部門と経営企画部門が近づくことで、迅速な経営判断と、財務データをもとにした予見が可能になり、これが企業の成長を下支えするという構図だ。

だが、日本企業では、バリュー・インテグレーターの比率が少ないとの調査結果も出ている。

全世界ではバリュー・インテグレーターの構成比が23%であるのに対して、日本では8%。その代わりにスコアキーパーは、全世界では33%と3分の1であるのに対して、日本の企業で52%と過半数に達しているのだ。

実はこの背景には、日本の企業の多くが、財務経理部門とは別に経営企画部門を設置しており、役割分担していることが見逃せない。「だが、部門が分かれていたとしても、今後は、CFO、財務経理部門にもビジネス洞察力が求められるようになる」と、日本IBMでは予測しており、日本のCFOおよび財務経理部門への変革を促す。

残念ながら日本企業にはバリュー・インテグレーターが少ないらしい…

ところで、バリュー・インテグレーターを実現するにはどんな要素が必要なのか。

業務効率促進要因としては、グループ標準に関する経営理念の策定、共通・共用データ定義およびガバナンス、勘定科目の共通化、標準化・共通化された経理財務プロセスの確立などが必要だとする。そして、ピジネス洞察力という観点では、分析能力、人材とともに、共通化されたITツールの導入が不可欠とする。

とくに人材という観点では、経理財務部門は人事面での流動性が低く、日本の企業では95%が経理財務部門における人材育成が重要であると認識していながらも、効率的に対応できている企業はわずか39%に留まるという結果が出ている。財務経理部門の人材の流動化は、今後、避けては通れない道なのかもしれない。

いずれにしろ、経理財務部門に求められていたスキルは、これまでの「正しい記帳をすること」から、ビジネスサイドに近寄り、リーダーシップを発揮することが求められている。それが企業の成長を支えるバリュー・インテグレーターの条件となる。いまや、そのための人材を育成することが早急の課題となっているとはいえまいか。