日本代表という病

2002年の日韓大会において、日本の初戦を埼玉スタジアムで観戦する幸運に恵まれました。その試合中、対戦相手の「ベルギー国」を憎む気持ちを抱く自分に気がつきます。ワールドカップを「代理戦争」と呼ぶのは過言ではないことを体感したものです。

今夜、今年最後となる、サッカー日本代表の国際親善試合が行われます。「ブラジル大会」で「惨敗」したのは今年の6月のことですが、私は大会前に予選敗退すると見ていました。有料の壮行会で黄色い声援を受けた選手は花束片手に「ニヤニヤ」し、マスコミは本田圭佑選手の「批判は試合が終わってから」発言を、批判もせずに楽勝ムードを煽っていたからです。そしてなにより「ザックジャパン」でも「日本代表病」が克服されていませんでした。得点力不足でも、実力不足ではなく「日本人らしさ」です。その「日本代表病」は、会社組織を蝕むこともあります。

ちなみに、先の「代理戦争」の終戦後、ベルギーサポーターへの敵意は敬意へと変わっていました。ほぼ日本人で埋め尽くされた異国のスタジアムで、自らの代表を応援しつづける「勇気」へのリスペクトです。

すぐに看過される人々

Jリーグがスタートし、ドーハの悲劇を経由してフランスでのワールドカップに出場し、4年後の日韓大会では決勝トーナメントに駒を進め、ドイツ大会三戦全敗後、当時の中心選手 中田英寿氏が「自分探し」に旅立つなど、サッカーが注目集めるごとに、経営論や自己啓発書が登場し、今年の大会前は長谷部誠選手の「折れない心」がなにかと話題になりました。

広告代理店のI社長も看過された一人。ある日の会議、幹部社員にレポートが配られます。I社長による「サッカー型経営論」と題されています。

I社長は創業メンバーの一人で、創業期の苦労から始まるレポートは、随所に「自慢話」が散りばめられているのはご愛敬。巧みに出世争いをしていたライバルに触れないところに、小さな器の人間性が溢れ、I社長とこのライバルは、人の手柄を横取りすることで有名だったという香ばしい話しは、古参社員の証言です。

サッカー型経営論とは

経営論に踏み込みます。

個人の奮闘が業績を左右するのが「ゴルフ型」、創業期の会社が小さい時代はこれでも良いが、規模が大きくなると個人依存というマイナスが強くなる。次に明確に役割分担された「野球型」。効率化が図られ、企業が成長することもできるメリットの反面、縦割りというセグメント化を生み出すデメリットがある。そして我が社が、これから目指すのは「サッカー型経営」である。ゴールキーパーが敵陣に乗り込み、攻撃参加することもあるような、ポジションに囚われない自由な組織を目指す。

というもの。どこかで聞いたことがあるような気もしますが、人の手柄を横取りする名人にとっては、経営論のコピペなどお手のものなのでしょう。しかし、すでに「日本代表的サッカー型経営」になっていることに、I社長は気がついていません。「日本代表病」の症例のひとつ「司令塔中毒」という依存症に罹っているのです。

メールも含めた伝達事項は、すべて社長に届くようになっています。それは、部長や課長であっても、社長の「裁可」を待たなければなにひとつ決められない「社風」だからです。外形的には「社長の独裁」ですが、中間管理職を含めた社員としても、「決定責任」から逃れられる社風に甘えています。つまりI社長という「司令塔」へ依存しており、これでは、ポジションが「自由化」されても意味のない「サッカー型0.2」です。責任を負わない自由など、画に描いた餅よりも役立たずです。

病の構造

そして我らが日本代表。かつては「ナカタ」、いまは「ホンダ」に一旦ボールを預ける「社風」のため、攻撃のテンポが遅れます。ちなみに大昔は「カズ」でした。「起点」を公約にしている日本代表を、世界の強豪国が見逃してくれるわけがありません。しかし、それよりも深刻な「日本代表病」が「奥ゆかしさ」です。

ゴール前にボールを持ち込んでも、「どうぞ」とばかりに横へ後へとパスを回し始めます。敵陣でいかんなく発揮される「奥ゆかしさ」は、日本代表特有の奇病で、代が替わっても繰り返し発病しています。この奇病の克服こそが、アギーレ監督に課せられた使命かも知れません。

さらに不安要素はあります。「惨敗」して帰国した選手を拍手で迎えたサポーターの存在です。フランス大会で全敗し、日本代表選手が帰国した空港で、城彰二選手にはペットボトルの水が掛けられました。強かった期待の裏返しです。行為は誉められたものではなくても、このとき日本代表は必ず強くなると確信したものです。勝利には歓喜で応え、敗北は怒声で迎えるのがサッカーにおける世界標準だからです。トップレベルのチームが「勝利に貪欲」になる理由のひとつです。

エンタープライズ1.0への箴言


「独裁と恭順は共依存」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」