生肉は自己責任で

近所の焼き鳥屋で、ささみ肉を湯霜状態にしてわさび醤油と絡めた「とりわさ」を注文すると、店主は苦笑いしながらこう答えます。

「今は……ちょっと」

猛暑日に耐え抜いた身体がさっぱりとした生肉を欲したのですが、昨今の「食」を取り巻く状況から提供を控えているということです。日本国内では「生食用」として出荷されているのは馬肉だけで、鶏肉に至っては生食用の衛生基準そのものがないと、東京都の福祉保健局のホームページに書いてありました。そして生肉を食べると「食中毒になる可能性がある」と脅します。

しかし、食中毒のリスクは「生肉」だけが抱えているわけではありません。魚介類は当然として、ヨーロッパで猛威を振るった「O-104」は野菜が感染源ではないかと見られています。ウイルスはどこにでも存在しているのです。それを完全に排除するなら、完全滅菌した食器を使い、充分に加熱したものを食べるしかありません。手指からの感染も怖れるなら滅菌手袋の装着も必要でしょう。「とりわさ」どころか刺身やサラダも言語道断。

私はイヤです。だから翌日、自分で「とりわさ」を作って食しました。美味でした。

ウイルス感染の風評被害

PCがウイルスにひとたび感染すると、極秘情報を流出させたり、ハードディスクのデータをすべて消去したり、PCが起動できなくなったりと大変なことになります。個人情報を扱う仕事で情報流出が起これば死活問題ですし、重要データが消えたことにより納期を守れなければ信用問題にも発展します。また、ウイルスに感染したことが世間に知られれば風評被害を巻き起こしかねません。

しかし、必要以上に怖れることはありません。手洗いや調理器具の洗浄消毒を徹底すれば高確率で食中毒を避けることができるように、PCのウイルスも、以下のような原則を守っていれば感染することはまれです。

  1. 怪しいサイトへ近づかない
  2. 身に覚えのないメールは開かない
  3. セキュリティソフトを最新版に更新する

実際には、1と2を完全に実施するだけで、かなりの確率でウイルスを避けることができます。3のセキュリティソフトは「消毒」のようなもので、より「安心」を得るためのコストと考えるとよいでしょう。

毎夕繰り広げられるPCの「解体ショー」

電気設備のメンテナンスを手がけるU社では、毎朝、毎夕「解体ショー」が行われます。PCの電源を落とした後、あらゆる「線」を外すのです。電源ケーブルから始まり、キーボードをつなぐUSBケーブル、インターネットのための通信ケーブル、マウス、そしてPC本体とディスプレイを繋ぐケーブルまで取り外します。これを事務所内にあるすべてのPCで行い、ケーブルをすべて繋ぐのが朝一番の仕事です。

これはPCへのウイルス感染を怖れての社長の指示です。電源を落としてもケーブルに接続していると感染することがあると社長は言います。外部からのハッキングのことを指しているのでしょうが、ならば「通信ケーブル」だけで充分です。通信ケーブルを外しておけば外部から接触できず、PCのウイルスは絶対に空気感染しません。節電になるので「電源ケーブル」を抜くのもよいでしょう。待機電力を節約できますし、電気の通っていないPCが持つ機能は漬け物石ぐらいです。

無駄なことに情熱を注ぐ

PCに詳しい社員が同様の進言をして、「消毒」としてセキュリティソフトの導入を提案しました。すると、こう詰問されます。

「120%ウイルスに感染しないと保証できるのか?」

セキュリティソフトを購入すればウイルス感染は「ゼロ」になるかと言っているわけです。どんなに注意を払っていても感染リスクが「ゼロ」にならないことは、PCに詳しい人間なら誰もが知っていること。どれだけ高価なセキュリティソフトを導入したとしても、未発見のウイルスは検知できません。そして社員は口を閉ざし、今日もケーブルの着脱を繰り返す「ウイルス0.2」です。ちなみにモニターケーブルから感染したウイルスはありません。

U社の解体ショーは「正しい恐がり方」について教えてくれます。朝夕のケーブル着脱がそれぞれ5分として、1ヵ月20日勤務で合計3時間20分。時給1,000円で計算して3,300円、1年間で3万9,600円です。セキュリティソフトを導入したほうがはるかに安価で建設的です。またすでに述べたように、電源ケーブルを抜けばウイルスに感染することはなく、過剰な対策であることは明らかです。

厚生労働省は「生食肉の表面加熱の義務化」を検討しており、このまま進めば10月から施行されてしまいます。すると今後は、野菜や魚介類に端を発する食中毒事件が起こるたびに規制は強化され、サラダや刺身も食べられなくなる時代がやってくるかもしれません。

エンタープライズ1.0への箴言


「基本の徹底が最大のウイルス対策」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi