消したい記憶も綴る「ライフログ」

過去の失敗を永遠に引きずらなければならないとしたら、人生は恥ずかしすぎます。幼稚園のお昼寝の時間のおねしょに、小学校で担任の先生を「お母さん」と呼んでしまったこと、初めて書いたラブレターでデートに誘う1行を「今度の体みの日」と綴ったことなど、たくさんのことを忘れなければ生きていけません。

もっとも、自分が思うほど、他人は自分に興味がないものです。耳まで赤くなるほど恥ずかしい経験も他人にとってはどうでもよく、記憶している人などほとんどいません。だから、人は生きていけるのです。

「ライフログ」という言葉をご存じでしょうか。ブログなどを利用して、日々の生活を記録することです。企業にとっては「行動解析」に利用でき、個人としては「備忘録」として活用できます。日常生活のすべてをデジタルデータにすることにおける大きなメリットは「検索性」と「保存性」です。紙に残した記録から過去のある日の行動を探すのは困難ですが、デジタルデータなら一瞬です。また、デジタルデータは日焼けによる色褪せがなく、記録した刹那を永遠に保存できます。

つまり、「ライフログ」は恥ずかしい記憶をも永遠にとどめ「未来」を損なうことがあるということです。

喫煙に飲酒、実名プロフで語られる中高生の実態

「プロフ」や「リアル」とは、中高生による簡易的な「ブログ」です。デジタルネイティブ世代は、ネット空間を特別に思わず、当たり前に存在する世界ととらえており、ゆえに警戒心が希薄です。女子高生が実名で日々の行動を「公開」していることは珍しくありません。そこでは喫煙、飲酒、夜遊びが赤裸々に語られます。

「悪びれ」ているのではありません。インターネットプロトコルなど知らない彼女たちは、「プロフ」は身内しか見ないものと思い込んでおり、昭和世代が授業中に友達同士で手渡しして廻した「手紙」と感覚は同じなのです。

当時の与党の推薦を受け統一地方選挙に立候補したA氏は30代の若さをアピールしました。都市部の地方議会議員では「若い」というだけで当確が出ると冗談が飛び交うほどに有利です。いわゆる無党派層が「期待感」だけで票を投じ、政治に詳しくない若者が「年齢が近い」という理由だけで親近感を覚えるからです。余談ですが、子供向けのアニメ作品に出演する声優が、年齢を非公開とするのも同じ理由だといいます。

無党派層と若年層を票田とするならホームページは必須アイテムです。公職選挙法を厳密に解釈すれば、選挙期間中はホームページも閉鎖しなければならないのですが、実際には更新が禁止されるだけです。

選挙立候補時はプロフに気を付けよ!?

A氏はPCと携帯の両方に向けてホームページを開き、さらにブログ、ミクシィなど、様々なチャネルを展開します。また、SNSでは「地方自治を考える」と名付けたコミュニティを主催しています。選挙期間中に立候補者本人が更新すれば摘発される可能性が高いのですが、支持者やマイミクなら投票日まで発言ができます。これを規制するには「表現の自由」という壁が立ちはだかるからです。

しかし選挙結果は惨敗でした。与党の追い風も届かなかった大きな理由が「ライフログ」です。立候補を睨んでからのA氏のブログは、選挙へ向けた日々の活動や、政治への熱い思い、毎朝の駅頭での挨拶などが綴られています。ミクシィのコミュニティでは政策が語られ、ホームページには理想が掲げられています。

問題は「プロフ」でした。A氏はいわゆる「やんちゃ」な青年で、過去の「非行行為」をプロフに綴っていたのです。そこには女性関係から男性関係まで綴られています。「過去」や「性癖」はプライバシーにすぎないと割り切るのは難しいもので、無党派層が離れていきます。そして、立候補して名前が公開されA氏の「過去」を知っている人間が、「2ちゃんねる」などに書き込みを始めます。

忘れる能力が試される

スネに傷を持つことは自覚しているA氏は「名前」を変えて立候補していました。芸名や作家名で出馬できるように選挙は「通名」でもOKです。しかし、「顔」を見れば、どこの誰だかわかります。また、プロフに綴られた「ライフログ」も「文字」だけなら誹謗中傷と言い逃れすることもできましたが、着衣を身につけてない「あられもない写真」までネット上にアップしていた「ライフログ0.2」です。

写真は「コピペ」でネット上に散乱し、デジタルネイティブの若年層を中心にチェーンメールのように有権者の携帯電話を飛び交ったのです。過去が未来を閉ざした「ライフログ0.2」は、デジタルネイティブには他人事ではないでしょう。

デジタルネイティブの世代の多くが人生をネット上に記録し、公開しています。学生など特にです。「●●を永遠に愛している」「今日わぁ一杯らぶしたね」などなど。大人になれば、永遠の彼方まで続く恋愛など「錯覚」であることを知っていますし、「ライフログ」とは将来迎える夫婦生活においての「地雷」です。

最後に余談を。デジタルネイティブかどうかの判別法です。冒頭の「体み」に笑うか否かです。ネイティブはケータイやパソコンで「変換」するのでこうした誤字の経験がありません。

エンタープライズ1.0への箴言


「デジタルネイティブな時代、公開した情報は半永久的に記録されると心得よ」

宮脇 睦 (みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi