大手企業向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートを手掛けるWorks Human Intelligence(WHI)。同社は今年、情報システム部門としてData & IT Divisionを立ち上げた。また、自社で生成AIサービス「Weise Hub(ワイズハブ)」を開発して、利用を進めている。
Data & IT Divisionはどのような役割を果たし、「Weise Hub」はどのように使われ、どのような効果を上げているのか。Data & IT Div. Corporate IT Dept. Department Manager 佐々木雄生氏、 Product Div. Advanced Technology Dept 寺尾拓氏に話を伺った。
ITを活用して「“はたらく"を楽しく」にする
Data & IT Divisionは、佐々木氏が所属するCorporate IT Department、Data Strategy Department、Corporate Security Departmentと3つの部門から構成されている。総勢約40名で、同社のITを支えている。
Corporate IT Departmentは全社員が利用するITの調達や運用を担っている。同社はITソリューションを提供しているため、開発者が多く、全般的にITリテラシーは高いそうだ。
以前から、情報システム部門としての役割を担う組織はあったが、新たにData & IT Divisionが設けられた背景について、佐々木氏は次のように説明する。
「よりガバナンスやセキュリティが確保された形で、会社として使うITインフラを提供することを実現するため、新たな部門が立ち上がりました。当社は、会社で使うものは使い手の社員が最も合理的だと思えるものと考えています。ITについてもそうしたものを提供します」
また、同社はミッションとして「複雑化、多様化する社会課題を人の知恵を結集し解決することで『はたらく』を楽しくする」を掲げている。佐々木氏は「まずは、当社でITを活用して『はたらく』を楽しくにしたいと思っています」と語っていた。
全社で使える生成AIサービスを開発
そして、「Weise Hub」の開発を担当しているのが寺尾氏だ。同氏は生成AI関連の研究開発に従事しており、自社製品やフロント部門も含めて各部門の働き方に生成AIをどう組み込むかといったことに取り組んでいる。
2022年末にChatGPTが登場して以来、個人的にウォッチしていたところ、企業利用を想定したAIサービス「Azure OpenAI Service」が利用できるようになったことで、同社でも導入できるよう調整を進めたそうだ。
「当初は開発の部署だけで使えればいいかと思っていましたが、開発の部門全体で使いたい、全社で展開するといった具合に、どんどんプロジェクトが拡大していきました」と話す寺尾氏。
Weise Hubの開発にあたっては、自然発生的に集まった約10名で進めたそうだ。そして、寺尾氏は2週間でAPIを開発。「生成AI前のAIは下準備が大変でしたが、ChatGPTのAPIはテキストを送ったら答えが返ってくるので、簡単に使えるようになりました」と同氏は話す。
サービスができたことを知った人からは「すごい」「触ってみたい」という好意的な反応があり、トライアルを開始。最初は40名で始めたトライアルだが、徐々に規模を拡大し、200名にまで増えたという。
トライアルを経て、業務で活用しても問題ないことがわかったことから、2023年10月にWeise Hubは全社で展開を開始した。
AI活用でプログラミングスキルの研修期間が短縮
Weise Hubはチャット機能、プロンプトを共有する機能、社内文書について回答する機能を備えている。「当社は人事領域のプロダクトを手掛けているため、生成AIが社内の人事領域に関する質問に答える機能を開発しました」と、寺尾氏は話す。
例えば、休暇に関する規定は会社によって異なることも多く、さらに内容も細かいので、すべてを把握している人は少ないだろう。これまでなら社内規定がどこにあるのかを探すところ始めなければならないところ、生成AIに質問すれば必要な回答を見つけ出してくれるというわけだ。社内の資料の検索は意外と時間がかかるもの。生成AIがそれを代わってくれるなら、業務の効率も上がる。
生成AIを活用してもらうため、新入社員研修からプログラムが組み込まれている。「生成AIがそばにいる環境で、どのように使うと役に立つかを学んでもらっています。引き出しとして生成AIに関するスキルを持っていないと、うまく活用できません。日ごろから使ってもらうことで、スキルを身に着けてもらいたいと考えています」(寺尾氏)
なお、学生時代から生成AIが身近な存在だった新入社員は、既存の社員とはAIに対するスタンスが違うそうだ。そのため、既存の社員に対してもワークショップを実施している。
導入の効果を伺ったところ、開発部門ではプログラミングスキルの研修期間が短くなったとのこと。生成AIを導入する前は5カ月かかっていたところ、今では2カ月で現場に出られるようになったそうだ。
「初心者はプログラミングの初歩的なところでつまずきます。そこで、困ったらすぐにAIに聞くようにすると、回答が100%正しいわけではありませんが、そこから学びを得て自分なりの仮説を持って進めることができます。もちろん、個人差はありますが」(寺尾氏)
先輩に聞くのは躊躇する質問もAIになら気軽にできるのではないだろうか。最近は、ChatGPTに悩みを相談する人が増えているという話も聞く。
現在、約2000名がWeise Hubのアカウントを持っており、月間9万回の生成AIアクセスがあり、日常的に使ってもらっている状況だ。寺尾氏は、「生成AIをどうやって業務に生かすかは初期より取り組んできたので、今後はそのために既存業務をどのように変えるかについて、組織的に取り組んでいきます」と語る。
次の課題は、AIの活用でビジネスにどうインパクトを出すか
最後に、佐々木氏に今後の展望について伺った。同氏はAIについて、「チャットができたら便利な時代は終わりました。今は、ビジネスにインパクトを与えることが求められています。現在、経営層と足並みをそろえて、AIが与えるべき効果をデザインしています」と話す。
「AIが使えるだけではなく、事業競争力にどうつなげるかが必要です。そのためには、AIにどんなデータを読ませてどんな結果を出すかを理解することが求められています」
ただし、「文章が上手な人だけがAIをうまく使える状態はいけません」と佐々木氏はいう。誰もがAIを使える状況にすることが重要というわけだ。そのため、組織学習にAIをどう取り入れ、全社横断AI組織活用プロジェクトをスタートした。
全社員がAIを活用することで「働き方が中長期で変わっていくはず」と佐々木氏。その結果、どんなインパクトをもたらすのか、「COMPANYユーザー様にも参考にしていただけるよう、自社をAI社内活用の先進事例にしていきたい」と、佐々木氏は語っていた。


