全国で239店舗(2024年3月1日現在)のホームセンターを展開するカインズは、2018年に「IT小売業宣言」を行い、IT投資を積極的に行ってきた。2019年には、「IT小売業」を具体化するため、デジタル戦略本部(現、情報システム事業部)を立ち上げ、IT化を推進してきた。そこで、同社に「IT小売業」に向けた具体的な取り組みを聞いた。

【連載】「気になるアノ会社のIT部門は何をしている?」のこれまでの回はこちらを参照。

なぜ「IT小売業」を目指すのか

店舗エンジニアリング本部 次世代店舗推進統括部長 水野圭基氏は、「店舗経験が長いのですが、当時の現場業務はシステム化が進んでおらず、値札を作ったり、手書きのメモで引き継ぎしたり、お客様にご注文いただいたものをFAXで送ったりと、アナログの状況が当たり前でした」と、当時を振り返る。

そして、水野氏は、同社がITに注力するようになった背景について、次のように説明した。

「当時、他の小売企業も少しずつIT化に取り組み始めており、便利になることでお客様も経験値が上がり、使いこなせるようになっていました。こうした現状を踏まえ、小売業とITを掛け合わせると、お客様は便利にお買い物ができるようになり、働いている私たちも業務を簡素化でき、その分お客様に対応する時間をより多く捻出できるのではないかと考えました。そこで、ITにしっかり集中して検討し、導入するチームを作ろうというのがきっかけです」

(注)カインズでは従業員をメンバーと呼んでいる。

  • カインズ 店舗エンジニアリング本部 次世代店舗推進統括部長 水野圭基氏

    カインズ 店舗エンジニアリング本部 次世代店舗推進統括部長 水野圭基氏

当初4人ほどでスタートした情報システム事業部は、インドのオフショア開発部隊、ビジネスパートナーなどを合わせ、現在では300人ほどの体制になっている。

システムはオフショアを活用して内製で開発

多くの企業は、システム開発を外部のベンダーに依頼するケースが多いが、同社は約300名体制を取り、内製開発に力を入れている。その理由として、情報システム事業部長 長尾秀格氏は、顧客および店舗メンバーの双方の視点で効果が出せる業務に集中してシステムをつくる点と、開発スピードを向上する点の2つを挙げた。

「デジタル戦略本部ができる前は、企画や要件をまとめることなどが情報システム部門の仕事で、開発は外部のベンダーにお願いしていました。しかし、何度もやり取りする必要があったり、作りたい機能ができずに手戻りが発生したりして、時間がかかってしまうことも多い状況でした」(長尾氏)

  • カインズ 情報システム事業部長 長尾秀格氏

    カインズ 情報システム事業部長 長尾秀格氏

アプリの提供で顧客にとってのマイナスをなくしたい

同社がIT活用において最も注力しているのは、顧客体験の向上だ。

「まずは、お客様にとってマイナスになる部分をゼロにすることから始めました。店舗が広すぎてほしい商品がどこにあるのか分からない、店舗メンバーがなかなか見つからない、レジが混んでいる。こうした点は、お客様にとって良い状況ではないので、これらを改善し、手軽に買い物できるようにしていくことを目指しました」(水野氏)

顧客のマイナス部分をゼロにするために取り組んだのが、アプリの開発だ。同社は、「Find in CAINZ」というアプリを2019年から店舗メンバー向けに利用を開始、2020年から顧客向けアプリにも搭載した。このアプリでは、商品名やキーワード、JANコードを入力すれば、商品を置いてある場所や在庫数を確認できる。

  • 商品棚の場所を表示する機能は、顧客向けアプリにも搭載されている。(出典:カインズ)

    当初メンバー向けに開発された商品棚の場所を表示する機能は、現在は、顧客向けアプリにも搭載されている。(出典:カインズ)

さらに、このアプリには「Pocket Regi(ポケットレジ)」という機能もあり、顧客が自分で商品のバーコードを読み込むと商品のある、その場所で購入ができ、支払いまで行える(店舗を出る前に店舗メンバーによるチェックは必要)。

  • 「Pocket Regi」のしくみ(出典:カインズ)

    「Pocket Regi」のしくみ(出典:カインズ)

また、同社の社内用メンバーアプリには、商品の発注・返品、商品場所の検索、ポップ印刷など、店舗業務を支援する機能が搭載されている。例えば、商品場所の検索は、顧客向けアプリの機能よりも詳細な情報が表示でき、何番の棚の下から何段目、左から何番目といった情報を表示する。この機能は、新入社員や新しく入ったアルバイトのように経験が浅い人にとっても商品補充を行う際に有効だという。

  • メンバーアプリ(出典:カインズ)