自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。国内外の競争激化や物価の上昇などが背景にある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B(企業間取引)企業も出始めている。この連載では、ITなどを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。

第19回は、美容整形などを手掛ける「ザ・プラス美容外科」を運営するJCM group(東京・渋谷)を取り上げる。同社は、創作プラットフォーム「note(ノート)」に美容外科に関する記事を掲載。それをX(旧Twitter)で拡散し、ブランディングに役立てている。牧敏博社長は「投稿記事を通じて当院のことを理解してもらい、知名度だけでなく、認知度を引き上げることが大事だ」と話す。聞き手はZenkenの本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。

  • 株式会社 JCM group 代表取締役 牧敏博氏

株式会社 JCM group 代表取締役 牧敏博氏
1973年大阪生まれ。1999年から過去40店舗以上の美容サロンや美容クリニックの経営者として実績を積むさなか、2018年に世界的な鼻整形の権威、韓国のジョン・ジェヨン医師との提携を実現。ジョン医師と共に株式会社JCM groupを設立し、2021年3月にザ・プラス美容外科の日本1号院を代官山(渋谷区 猿楽町)に開設。2023年5月には藤田医科大学病院形成外科と連携したザ・プラス美容外科 名古屋院を開設。
日本でも美容整形のニーズが高まる中、韓国に比べると経験数の少ない日本の形成外科医師たちに韓国の圧倒的経験数から確立された美容整形技術を学べる機会を提供し、日本の美容整形業界の発展と形成外科や世の中への貢献を意図して、事業拡大を目指す。

ポイント

①ブランディングは美容外科への信頼性を高める手段
②技術の裏付けなど根拠のある特徴を打ち出せば中小企業でもブランド力向上は可能
③代官山院オープン前にnoteの投稿記事をXで拡散。予約開始時に400件超の問い合わせ
④より多くの人に知ってもらうため、投稿記事の宣伝も開始

本村:ザ・プラス美容外科は鼻などの美容整形を手掛けています。概要と強みを教えてください。

牧:当社は東京・渋谷の代官山院と愛知・名古屋の名古屋院を運営しています。メンバーは非常勤を合わせて約50人。このうち20人が正社員です。美容外科の中でも技術が難しいとされる鼻の手術と顎などの輪郭の手術に強みがあります。代官山と名古屋のそれぞれに院長が常駐しており、在籍する全ての医師が形成外科の専門医です。

当院は鼻形成分野の第一人者として数々の症例を担当してきたスペシャリスト、ジョン・ジェヨン医師が韓国で運営するザ・プラス美容外科とライセンス契約を結んでいます。慶應義塾大学、藤田医科大学とも技術面で連携しています。これらを通じて美容外科の技術を向上させており、国内の医師の技術指導をしています。

本村:美容外科業界も競争が激しくなり、企業ブランディングの重要性が高まっています。企業イメージの向上やブランディングが果たす役割についてどう考えていますか。

牧: ザ・プラス美容外科では経験豊富な形成外科の専門医が担当するため、信頼性が高いのが特徴の1つです。ブランディングを通じて信頼ある美容外科のイメージが広がれば、お客様は安心して当院の手術を受けることができます。また、形成外科の医師からの信頼も高まり、優秀な先生が集まってくれます。

全国的に美容外科が増加したことから、経験の浅い医師が施術をする例も多くなり、トラブルの原因になっています。ブランディングが成功すれば、当院と同様に経験の豊富な医師が対応する良質なクリニックが増えるでしょう。結果として多くの患者が安心して美容外科を利用できるようになります。

  • 高い技術が強みだという

    高い技術が強みだという

本村:これまで多くの経営者に話を伺いましたが、「中小企業には企業ブランディングは難しい」との声が多くありました。中小企業のブランディングの難しさとは何でしょうか。

牧:中小企業の弱点は、資金力が不足していることです。このため、大企業のように多くの資金を投入し、一般の方々に広告やテレビCMを打つのは困難です。しかし、自社の強みをしっかりと打ち出してブランディングをすれば、中小企業でも大企業と戦うことができます。

本村:自社の強みを打ち出す中小企業は多くありますが、強みの根拠が不明瞭なケースもあります。しかし、御社は技術に裏付けられた根拠があります。それが御社のブランディングに説得力を持たせているように思います。御社がブランディングで成功した具体例を教えてください。

牧:当院の院長や医師の技術と知見をもとに、スタッフがnoteで記事を執筆・編集し、ブランディングに役立てています。記事の内容は形成外科・美容外科のあり方や想い、手術内容の分かりやすい解説などです。2021年の代官山院オープンの際は、予約開始の半年前から関連記事を掲載し、Xで拡散しました。これにより、予約開始時には400件超の問い合わせをいただきました。

投稿記事は、テレビCMなどの一般的な広告よりも詳しく当院のことを知ってもらえます。当院の知名度を単純に上げるのではなく、認知度を引き上げて多くの人たちに当院のことを理解してもらうことが大事だと考えています。

  • noteの記事をもとにブランディング

    noteの記事をもとにブランディング

このほか、韓国のザ・プラス美容外科を利用した患者の方々も、Xで好意的な口コミをつぶやいてくれ、代官山院のオープンを後押ししてくれました。ユーザーの口コミは当院のイメージ向上に大きな役割を果たしています。

本村:ユーザーが後押しをしている背景には、御社が積極的に情報発信していることもあるように思います。

牧:当院には高度な技術やサービスがあるので、積極的に情報を発信していけばユーザーの好意的な口コミにつながると考えています。このため、積極的な情報開示を意識してきました。

  • 代官山院

    代官山院

本村:ブランディングの失敗例はありますか。

牧:一度、当院についてSNS上で誤解を招くような情報が流れたことがありました。これを教訓に、より多くの方々に投稿記事を拡散し、当院のことを深く理解していただけるよう努力しています。これまでは広告を実施してきませんでしたが、今はお金をかけて投稿した記事を宣伝しています。記事を通じて多くの方々が当院を理解し、前向きな情報を発信してくれれば、万が一、誹謗中傷などネガティブな情報が流れても、それを信じる人は少なくなります。

本村:Zenkenと協力してザ・プラス美容外科のホームページを制作しました。

牧:私の前職のときからZenkenにはサイト制作などで協力してもらっていました。当時からZenkenはSEO(検索エンジン最適化)対策に強く、企業などの特徴や強みを打ち出すのに長けていました。東京の鼻整形で検索すると、当院のホームページが上位に表示されるため、閲覧者も増えていると感じています。

(編集協力 P&Rコンサルティング)

本村 丹努琉(もとむら・たつる)

Zenken株式会社 取締役 eマーケティング事業本部長

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部(現:グローバルニッチトップ事業部)」の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸としたWEBブランディングを提唱し、14年間で約8000社のインサイドセールスを構築した。