自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。その背景には、国内外の競争激化や物価の上昇などがある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B(企業間取引)企業も出始めている。本連載では、ITなどを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。

第15回は、門扉や引き戸などの製造・販売を手掛けるエヌビーシー(静岡県富士宮市)を取り上げる。同社は採用展示会のブースを一色に統一するなど工夫をこらし、採用活動を成功させている。西川大介社長は「取り扱うのがニッチ分野である当社は、認知度を引き上げるのが難しい。その分、目立てるように工夫をする必要がある」と話す。聞き手は全研本社の本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。

  • エヌビーシー株式会社 代表取締役 西川大介氏

エヌビーシー株式会社 代表取締役 西川大介氏
1969年生まれ、静岡県富士宮市出身。1993年 西菱工業株式会社(現エヌビーシー)に常務取締役で入社。2015年に代表取締役就任。

ポイント

①製品の品質や顧客サービスを良くすることこそが企業ブランディングの基本
②ニッチ分野を取り扱う企業は認知度を引き上げるのが困難。目立てるよう工夫する必要
③採用展示会のブースの工夫や学生の就職相談への丁寧な対応で来社人数増
④ITマーケティングを通じて問い合わせ数増や成約率向上を実現

本村:御社は門扉や引き戸などの製造・販売を手掛けています。事業の強みや概要を教えてください。

西川:当社は1970年創業です。長年培ったモノづくりのノウハウを生かして、企画・設計・開発・製造の一貫生産をすることが特徴です。三次元CAD(コンピュータによる設計)や構造解析を早期に採用し可視化したことで、正確な設計や製造をすることもできます。

そのため、例えば門扉であれば、幅50メートル、高さ3メートルといった、一般メーカーでは製造できないような製品も作ることができます。官公庁や浄水場、警察署などとの取引が多く、売上高は4.4億円に成長しました。

本村:御社の場合、50年以上にわたって、技術力や開発力を生かし顧客ニーズに誠実に対応してきたことが強みになっています。これは、企業イメージ作りにも役立っているように思います。そんな御社にとって企業ブランディングとはどんな意義があるのでしょうか。

西川:当社が取り扱う門扉などの製品は、工務店などのプロがエンドユーザーに紹介してくれるのが一般的です。それだけに、単なるイメージ先行では売れません。このため、製品やサービスを本当に良いものにすることがブランディングの基本だと考えています。

一方、最近ではエンドユーザーである個人が「買いたい」と思うものを自ら見つけて注文することも増えてきました。こうした商品は、多くの人にとって一生に1~2度しか購入しない物で、決して安くはありません。品質を磨くのはもちろん、企業や製品、サービスのイメージ作りもより重要な課題となってきています。

足元では、ITを通じたマーケティングの手法やメディアを通じた情報提供を活用して、お客様に自社製品のことを理解してもらうことに挑戦しています。

本村:中小企業、B to B企業にとってブランディングが難しい点は何ですか。

西川:中小企業は広告費や人的資源が大企業に比べて限られることが弱みです。特に当社はニッチ分野で事業をしていますので、ブランディングの難しさを実感します。ニッチ分野は誰もが興味を持ってもらえるわけではないからです。

バブル景気の時と違い、現在は門扉にこだわりや思い入れを持つ企業が減り、予算も減っています。機能など合理的な面ばかりが注目されつつあるように感じています。

とはいえ、会社が認知されなければ営業面でも採用面でも不利になります。このため、例えば広告を出す場合も、毎回のようにデザインの内容を変化させて、できる限り目立つように工夫しています。

本村:ブランディングで大事なことの一つに「潜在顧客との共感作り、自社のファン作り」があるかと思います。運営の合理化や門扉の機能ばかりに注目が集まると、ブランディングも難しくなります。

西川:当社はファン作りを重視し、目標に掲げています。例えば、学校の門の修理を頼まれた場合には、当社の社員はただ修理するだけでなく、門をピカピカに磨いて帰ります。門磨きは当社の業務ではありませんが、そこまで丁寧に対応することで学校の校長先生や職員、学生たちが喜んでくれます。これは私たちにとっても嬉しいことですし、結果的に当社のブランディングにつながると思います。

本村:顧客に喜んでもらう丁寧なサービスが、ファン作り・ブランド作りにつながるというわけですね。自社のブランディングが成功した具体例を挙げてもらえますか。

西川:例えば、採用におけるブランディングです。ハローワークや民間企業など複数の採用展示会に出展しています。例えば、ブース内を当社のカラーである水色一色にしたり、工場の大きな写真で壁を埋め尽くしたりしたところ、多くの人たちの目を引き、認知度が向上しました。

  • 展示会ブースの色を統一するなどの工夫も

    展示会ブースの色を統一するなどの工夫も

これに加えて、当社のブースでは「学生ファースト」を掲げ、当社に興味がある学生もそうでない学生も、就職に関する相談に乗るようにしています。社員の一部は相談に来た学生と食事に行って悩みや不満を聞いたことがあるそうです。まずは「楽しい場作り」をすることで学生が本音を言ってくれるようになり、口コミで当社のブースの認知度が上がっていきました。

この他に、PowerPointのアニメーションで分かりやすく自社の状況を説明するようにもしました。ホームページやフェイスブックでも当社の採用ブースの画像や動画を流し、認知度向上を図っています。こうした努力の結果、学生が当社のブースに50人以上、会社にも20人近く訪問してくれるようになりました。もともとは採用展示会に出展してもブースに来る学生が5人で会社訪問はゼロでしたから、大きく改善しました。

本村:採用活動で門扉メーカーに関心を持ってもらうのは容易ではないと想像します。しかし、顧客サービスと同様、学生の就職相談に丁寧に応じており、それが企業イメージの向上につながっているように思います。一方でブランディングの失敗事例もあるでしょうか。

西川:ホームページの内容には苦労をしてきました。これまで7回ほど更新していますが、なかなかうまくいきませんでした。PV(ページビュー)数も伸びず、コンバージョン率(成約率)も非常に低い状況でした。地元の中小企業に更新を依頼していましたが、依頼先の企業のサービス自体がなくなってしまったこともありました。PV数が多少増えても製品の注文が増えず、営業面でのプラスもありませんでした。

本村:全研本社のサイトに御社の記事が掲載されています。どのような効果がありましたか。

西川:2022年8月から当社の記事を掲載してもらっています。潜在顧客の方々が、全研本社のサイトから当社のホームページに流入してくれたり、商品を注文してくれたりするようになってきています。

全研本社のサイトから流入してくるお客様は、商品内容をよく調べた上で問い合わせしてくるので、商談が成功しやすいという特徴があります。全研本社のサイトに掲載されてからは商品などの問い合わせの電話が2倍以上に増え、コンバージョン率も数倍に高まっています。

(編集協力 P&Rコンサルティング)

本村 丹努琉(もとむら・たつる)

全研本社株式会社 eマーケティング事業本部 バリューイノベーション事業部長 バリューイノベーション事業部

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部」の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸としたWEBブランディングを提唱し、13年間で約7000社のインサイドセールスを構築した。