自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。国内外の競争激化や物価の上昇などが背景にある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B(企業間取引)企業も出始めている。この連載では、ITなどを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。
第13回は、フィットネスジムなどの予約・決済・管理システムを手掛けるhacomono(東京都・渋谷)を取り上げる。同社は年間50回以上のウェビナー開催や口コミを通じて、自社のブランドを向上させている。同社の入江康平インサイドセールスグループマネジャーは「ウェビナーなどを通じて、『hacomonoに関われば自社の事業が成功する』というイメージを与えたい」と話す。聞き手は全研本社の本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。
新卒で大手通信教育会社に入社し、B to C通販の商品開発やECを担当。その後B to B領域に軸足を移し、製造業向け通販、SaaS企業でマーケティングやインサイドセールスのマネジャーを経験。2023年2月からhacomonoに入社し、事業目標達成に向けて中堅・中小企業における商談創出を牽引中。
ポイント
①企業ブランディングは他社との差別化、自社のイメージ作りに貢献②自社のシステムを導入してもらってからのサービスこそが勝負。口コミで企業イメージを向上
③年50回以上のウェビナーは双方向で実施。「お役立ち情報」提供で企業ブランドを確立
④ITマーケティングは中長期で一定の成果を出す施策で、継続が重要
本村:御社はフィットネスジムなどの予約・管理システムを手掛けています。御社の特徴や強みを教えてください。
入江:当社はフィットネスジムやインドアゴルフ、テニス教室をはじめスクールなどのウェルネス産業に携わる企業の会員管理、予約、入会、決済関連のシステムを構築しています。2013年に創業しました。システムは自社で開発しており、クライアント企業の導入店舗は全国で約3000店に上ります。
従業員は約200名ですが、半分以上がエンジニアです。多くのエンジニアがいる特徴を生かし、機能のアップデートのスピードの速さやしっかりしたメンテナンス対応が当社の強みです。ウェルネス業界に特化してきたこともあり、専門的な知識も豊富です。
本村:御社の場合、エンジニアの多さや技術力の高さ、迅速なアップデートなどが強みということですね。ブランディングはそうした企業の強みや特徴を内外に知ってもらえるものだと思います。企業ブランディングが経営に与える影響について教えてください。
入江:ブランディングは、企業が他社と差別化したり、イメージ作りをしたりするのに役立つと考えています。当社はウェルネス産業を中心としたクライアントの経営をより高い次元に引き上げていくことを目指しています。例えば、当社のシステムを使うことで、クライアントの顧客獲得単価が下がったり、業務が効率化されたりします。ジムの会員も会員登録や決済などの利便性が高まります。
当社はエンジニアの多さや技術力の高さという強みを生かして、クライアントの声を迅速に取り入れ、かゆいところに手が届くサービスを心がけています。これらがSNSの広告や口コミで伝った結果、例えばインドアゴルフのシステム構築では「hacomonoのシステムを使うのが最も利便性が高い」というイメージができているようです。こうしたイメージもあり、毎月20~30件の問い合わせを紹介経由でいただいています。
本村:顧客の口コミまで意識した経営方針や営業スタイルを貫いていることが、良いイメージの浸透につながっているように感じます。
入江:当社はクライアントにシステムを導入してもらった時点で勝負が始まると考えています。ボウリングでは真正面の先頭に立っているピンを適切な強さと角度でボールを当てれば、後ろのピンが波状的に倒れてストライクになります。「センターピン」理論とも呼ばれますが、これは私たちの仕事でも同じです。クライアントに良いサービスを提供し、伴走していけば、それが口コミとなって当社のブランド向上につながると考えています。
本村:口コミで企業ブランディングできるのは理想的だと思います。ほかにブランディングの成功事例はありますか。
入江:当社は、年間50回以上開催しているウェビナーを通じてブランディングをしています。特に成功した施策の一つは、開業コンサルタントに登壇してもらい、事例を交えながら「お役立ち情報」を提供したことです。「これから開業する予定なのに、具体的な方法がわからない」という方にプラスになったと思います。当社のサービスを導入する前の段階から「hacomonoに関われば事業が成功する」というイメージを与えることもでき、来場者との10%近い商談化率を達成しました。
もう一つは、たった1回のセミナーで450名を超える集客を獲得できた事例です。「チラシ集客を科学する」というテーマで、実際にチラシを制作している企業の担当者に具体的なノウハウを話してもらいました。顧客のビジネスに直接つながるテーマだったことが集客の成功につながりました。
本村:ウェビナーを開催している企業は多いですが、ブランディングにつなげられている企業は多くないと思います。ウェビナーもやり方次第ということでしょうか。
入江:ウェビナーでは事業に役立つテーマ設定や登壇者も大事ですが、登壇者側だけが発信するのではなく、参加者と双方向でコミュニケーションを取れるようにすることも重要です。当社のウェビナーでは参加者の半分程度が発言します。例えば、主催者側から「どの地域から参加していますか」などと簡単な質問をすることで、参加者は発言をしやすくなります。自分がウェビナーで発言することで参加した人たちの満足度は高くなります。
本村:ブランディングの失敗例はありますか。
入江:事務作業の効率化のように、企業の事業拡大に直接関与しないテーマのウェビナーは集客数が少なく、ブランディングにも役立ちませんでした。ターゲットを絞れていなかったことや、ウェビナーの目的が参加者のニーズに合っていなかったことが原因だと考えています。こうした反省を生かして、日々改善しより良いウェビナーを開催するよう努めています。
本村:ウェビナーも顧客満足度を意識して開催しないと、ブランディングにつながらないということですね。
入江:ウェビナーも日々のサービスも、顧客に満足してもらえないと永続的なブランドをつくることはできません。一方で、企業として領域を広げ、ブランドを拡大していくことも大事です。今後は公共運動施設や街づくりなど新たな分野の効率化や利便性向上にも貢献したいと考えています。
本村:全研本社のサイトに御社の情報が掲載されています。
入江:当社は昨年7月から掲載してもらっており、月に3件程度のリード(見込み客)を獲得できています。当社のシステム導入を決めてくれる企業も出てきています。ITを通じたマーケティングは短期的に爆発的な結果を求めるものではなく、長く継続することで一定の成果を期待するものです。中長期の企業ブランディングの手段の一つにもなると考えています。
(編集協力 P&Rコンサルティング)