連載第1回では、イスラエルが「サイバー先進国」と呼ばれるようになった歴史と背景をお伝えしました。しかし、歴史や背景だけでは、サイバー先進国たり得ません。

イスラエルがサイバー先進国と呼ばれる理由は、国が教育レベル、軍事レベルで技術研究や人材育成に投資をしていることにあります。建国後、周囲の国からの攻撃を防ぐ必要があったイスラエルには、諜報活動に端を発した“仕組み”が整えられており、ITやサイバーセキュリティ分野にも生かされています。

今回はサイバー先進国を作るうえでイスラエルが導入している、さまざまな仕組みを紹介します。

徴兵制度と「8200部隊」

イスラエルでは、男女ともに徴兵制度があり、高校を卒業すると兵役に就く義務があります。また、ITやテクノロジーにおいて優秀な人材は、諜報活動や暗号の復号を主な任務とするイスラエル国防軍の諜報部門「8200部隊」に配属され、そこで実際に利用されているサイバー攻撃を学びます。

8200部隊には、イスラエル軍の中でも一握りの優秀な人材のみ所属することができ、兵役が始まる前の高校在学時に、数学や技術、言語といった分野での成績優秀上位者が選抜されます。

入隊後は、訓練を通じて情報収集や対策などを学び、兵士としての活動を行います。サイバーセキュリティの前線に立ちながら、攻撃と防御の先端技術を学んだ人材が輩出される仕組みがあるのは強みと言えるでしょう。

イスラエルで盛んな軍事技術の民生転用

また同国では軍事技術の民生転用がよく起こり、石油などの天然資源が豊富でないイスラエルにとって先端技術や優秀な人材は、国益を生む資源です。そのため、兵役を終えた8200部隊出身者がスタートアップを設立し、軍事における先端技術を活用するのです。

弊社のイスラエルでのパートナー企業をはじめ、イスラエル発のサイバーセキュリティスタートアップでは、CEOあるいはCTOが8200部隊の出身、ということが珍しくありません。

イスラエルでは多い時で、年間1000社を超えるスタートアップが設立されていると言われています。設立されるスタートアップはコンピュータやITを前提としたサービスを提供している企業が多く、セキュリティをより重要視しています。

HealthTech(医療)、InsurTech(保険)、PayTech(決済)、EnergyTech(エネルギ―)、ConTech(建設)、EdTech(教育)、AgriTech(農業)など、業種も多岐にわたります。

技術活用を推進するエコシステム

同国では、技術活用を推進するためのエコシステムも整っています。例えば、産学官での連携がなされており、政府はシーズを生み出すための企業支援やビジネス環境の整備(弁護士事務所の支援やコワーキングスペースの整備といった物理環境支援)に積極的です。

また、優秀な人材を産業へ排出するための軍隊や大学への支援や、投資を促進するためのVC(ベンチャーキャピタル)をはじめとする投資家の支援も推進しています。

このほか、個人投資家を優遇する税制を設けたり、企業に対して優遇税率を適用したりするだけでなく、政府系機関のIIA(Israel Innovation Authority)が認めた場合は、企業のR&D費用が控除されます。

優秀な人材の起用、先端技術の活用、それらを支える国の投資推進といった1つ1つの仕組みが相互に影響し合い、スタートアップを中心にエコシステムとして機能している点がイスラエルの特徴と言えるでしょう。

  • イスラエルの位置(筆者がGoogleマップより作成)

    イスラエルの位置(筆者がGoogleマップより作成)

加えて、個人的には「失敗は良いこと」と考えるイスラエルの国民性に注目します。イスラエルの友人の話では、イスラエルのビジネスパーソンは新規事業や新規領域へ挑戦する際に、未開拓の領域でもとにかくやってみるそうです。

「失敗したとしても、同じ失敗は繰り返さないであろう。その失敗は次の挑戦の成功確率を上げるための必要なステップである」という意識の下、次々にチャレンジが行われています。そうした、挑戦を許容し推奨する文化は、スタートアップをはじめとしたエコシステム全体を支える重要な要素のように思います。