外回りをする営業職の社員の業務効率化として、外出先からのメール閲覧や日報入力のほか、最近では彼らの位置情報を携帯電話のGPS機能によって把握し、容易にステータス報告できるソリューションも普及し始めている。こういった現場把握のソリューションは、営業だけでなく保守メンテナンスの現場でも効果を発揮する。
店舗や施設からの依頼による現地調査や定期巡回点検を行い、外構や空調設備、給排水などの保守メンテナンスを行うJMは、積極的なIT活用により現場報告や紙の帳票の運用効率化に成功している。
全国に14ある同社のサービスセンター管轄のもと、地域に密着した全国の工務店、約60拠点をフランチャイズとして展開しているJM。このネットワークを活かして業界最大手コンビエンスストアチェーンの店舗など、全国展開する大手企業が有する建物設備の保守メンテナンスも手掛ける。
本社のノウハウが工務店でも共有され、質の高いサービス提供が実現しているが、IT活用もその例に漏れない。各地の保守現場からは携帯電話やスマートフォンを使っての現場報告が実施されている。本社では距離を感じさせないリアルタイムな進捗管理が可能となり、集まった現場からのデータを分析して保守コスト削減などの提案につなげている。
例えば、コンビニエンスストアでは最近、自動ドアが増えていることにお気づきだろうか。同社の全国各店舗で実施している保守データを分析したところ、24時間休みなく開閉を繰り返す出入り口の扉では、手動式ドアのヒンジ部分が劣化しやすく、自動ドアに比べて修繕の頻度が高いことが判明した。そこで新規に建設する店舗だけでなく、既存店も自動ドアに替える提案を行ったのだ。
建設から保守メンテナンスまでトータルのコスト削減効果を算出できたのは、同社が早くから「Matabee-Reporter(仮称)」と称するITツールを導入して、保守メンテナンス業務のデータ化を進めてきたからに他ならない。
帳票そのまままのレイアウトをiPadで再現
工事の受付と完了時の確認書類「受付着信票・工事完了確認書」、修復箇所などの工事内容を平面図と共に記載する「現地調査シート」、工事の際の注意点を記載した「KY(危険予知)シート」の3つは、現場管理をするうえでの三種の神器ともいえる。これらをiPadで記入できるようにしたのが、システム開発会社のシムトップスと提携し、JMおよび建設業の業務にフィットするよう構築したiPad向けアプリ「Matabee-Reporter」だ。
紙と同じレイアウトであることの重要性を、株式会社JM常務執行役員 FC・SC室管掌 斎藤彰氏は次のように話す。
「見慣れた帳票と違ったものでは、どこに何を書けばいいか確認し直す面倒が発生するので、現場の職人さんはすぐに『使いにくい』と判断します。操作性も同様です。今までと同じ場所に同じように記載できなければ受け入れられず、使ってはもらえません」
2008年7月にiPhone、 2010年5月にはiPadが発売され、それ以降急激に普及したこれらの端末は、直感的な操作性が1つの特長だ。
「大きな画面に2本指をつけて広げたり閉じたりすると拡大や縮小ができる、スライドすると表示されているものが動かせる。見聞きした経験でストレスなく操作できる端末はiPad以外にありませんでした」(斎藤氏)
紙の帳票と同じ見た目の帳票がiPadに表示されることで、違和感なく年配の職人にも受け入れられている。
実際の導入効果は、以下の動画ようなものだ。
抜け漏れゼロ、帳票の情報は即データ化
全国にフランチャイズとして連携する工務店のほか、同社の直轄となるサービスセンターの社員も「Matabee-Reporter」を活用している。
「抜けのない帳票作成が可能になりました。紙の帳票と違って、『Matabee-Reporter』がガイドしてくれるんです」と、アプリの利便性を評価するのは同社東京サービスセンターの福地美樹氏だ。
自分の担当する保守メンテナンスの現場に足を運び、帳票を作成する福地氏は入社して1年に満たない。しかし、iPadで帳票を作成するようになってからは抜け漏れがゼロになったという。必須項目は赤字で記載され、記入漏れや画像添付漏れがあると先に進めない仕組みになっているのだ。
「1日に2、3カ所の現場をまわり、以前は事務所に戻ってからそれぞれの帳票を1時間~1時間半程かけて作成していました。今では電車などの移動時間で作成が完了します」(福地氏)
多い時は1日で5、6店舗をまわる社員もおり、帳票作成業務において残業の必要がなくなったのは大きい。
紙の帳票と比較してもう1つ大きな違いがある。入力した内容が即、分析可能なデータとなる点だ。紙の書類はいくらファイリングしても、傾向を見るにはExcelファイルなどへの打ち込みが必要だ。Excelファイルをサーバ上で保管、共有しても、データベース化しないと分析するに至らない。ところが、「Matabee-Reporter」では入力された内容がデータベースに即時反映されるので、リアルタイムで分析対象となる。帳票作成がスピーディーになったことで、帳票の内容を見てメンテナンスの傾向などを分析するレポート業務も迅速化された。
簡単操作の現場報告を追求
スマートフォンが普及する前の2000年頃から、携帯電話向けに現場報告アプリの開発もスタートしていた。「どこで誰が何を」の報告を目的に作られた作業証明アプリ「HandyBUZ」は、緯度経度情報付きの画像が時刻と共に送信される。今ではiPhoneでも使える同アプリでは、先に撮影を行った画像を報告書のフォーマット上へ配置できる。時刻は自動的に付与されるので、あとは「レポート」をタップするだけだ。
「工務店の方々の持っている携帯電話の機種はさまざまです。どのキャリアでも使えるよう試行錯誤しましたが、共通して心がけたのは年配の職人さんであっても手間を取らずに操作できることです」と、斎藤氏はこだわりを明かす。
HandyBUZにより現場では携帯電話やiPhoneから容易な操作での現場報告が可能になり、本社ではリアルタイムな進捗管理が実現した。同社現場担当の社員にはiPhoneが配付され、同アプリを利用したメンテナンス状況などの現場報告が実施されている。
パノラマ撮影を実現するツールでさらに利便性向上
リコーが昨年11月に発売したパノラマカメラは、一度シャッターを切るだけで360度のパノラマ撮影ができる。Wi-Fi接続することでiPhoneでの操作も可能なため、遠隔でシャッターを切ることも可能だ。高い場所を撮影したければ、三脚にカメラを取り付けて高い場所まで上げることで、地上にいながらiPhoneでシャッターを切って頭上をパノラマ撮影できる。この方法で同社は設備点検の手間を軽減している。屋根の上や、各フロアの点検が必要な場所を撮影する。
「例えば1階から4階までまわり、設備をチェックします。そのあと店舗オーナーに『4階のこの部分はメンテナンスが必要です』とお伝えする際、以前は平面図を広げて、廊下の先のこの部屋の隅にある…と説明してもなかなか伝わらず、お客様に4階まで昇るご面倒をおかけすることもありました。360度の写真が取れれば場所は一目瞭然で、メンテナンス箇所も画像を拡大してお見せできるので、すぐに納得していただけます」(福地氏)
このほか建築前の企画段階で3次元空間シミュレーションなどを使った提案も行う同社。図面や帳票など紙のファイリングが絶えないイメージの建設業界で、iPhone・iPadをはじめとしたさまざまなIT活用が進化を続けている。