初回の記事では仮想化管理ツールとセルフサービスポータルを活用した「簡易プライベートクラウド」、二回目は「仮想化を超えた自動化」について解説してきた。そして今回は、まとめとして、真のプライベートクラウドとは何かを一緒に考えたい。

クラウドの条件

そもそもクラウドとは何か?

それは、利用者に選択権があり、使いたい時に使え、使わなくなれば止められるITサービスのことである。利用されなければ意味が無いので、サービスは常に利用者を意識する必要があり、安く提供することも利用してもらう工夫の1つとなる。企業内、もしくは国内の既存の顧客を対象にITを提供する方々にはイメージしにくいかもしれないが、オープンなサービスを展開しているクラウドベンダーでは、これらは当然であり、そのために日々創意工夫がなされ、自動化と運用の標準化が進められている。簡単にまとめるとこうなる。

  • サービスポータルによる、サービス可能なITの明示と申請の受付
  • サービスのパターン化 ~ある程度制約を課すことで、例外なき標準化を推進
  • 運用コストを意識したサービスの開発 ~自動で管理できるものからサービス化
  • SLAを意識した運用 ~サービス管理と稼働監視

図1 : 徹底的に自動化された Windows Azure (パブリッククラウド)の利用者側の管理画面

「理想はわかるが、うちでは無理」と思わないでいただきたい。プライベートクラウド実現のためにすべきことは簡単で、先を行くパブリックなクラウドをうまく真似すればよいのだ。

ただし、クラウドベンダーが自分の得意とする部分をサービス化すればよいのに比べて、社内のプライベートクラウドでは、ありとあらゆる要求をITでサービス化していかなければならない。標準化したくても出来ず、柔軟に対応しなければならない場面も少なくはないだろう。お金をもたらすサービスのために開発コストを捻出できるパブリックなクラウドとも違う。だからこそ、その都度開発をすることなく、柔軟に対応していく必要がある。

そこで出てくるのがSystem Center 2012 Orchestrator (SC2012Orchestrator)だ。前の記事でも書いたとおり、SC2012Orchestratorの特徴は"管理者の手によって、コードを書かずに、柔軟に自動化を進められること"である。SC2012Orchestrator からアクセスする先が仮想化なら仮想化の管理が自動化でき、Active Directoryならユーザやグループの管理が自動化できる。もちろん、リモートから自動管理ができるITであれば、物理サーバもストレージもネットワークも、ファイルサーバやSharePoint であっても、サービスの1つに加えることができる。要は、「SC2012Orchestratorから自動管理ができるIT = サービス化できるもの」と考えることが、運用コストを意識したサービス開発につながるというわけだ。

さて、今回の記事は、個々の機能を自動化するという話ではなく、自動化できそうなITをどうやって社内にサービスとして提供するか、それらのサービスをどうやって運用管理するかという話である。マイクロソフトは、System Center 2012 をプライベートクラウド用のツールであると明言をしているが、その理由は、自動化の先を見据えた製品開発をしたことにある。たとえば、ITIL実現のために無くてはならないCMDBだが、単にインシデントを登録するだけで終わっていては、現場の担当者の負荷を増やすだけのツールになりかねない。しかし、 System Center 2012 Service Manager (Service Manager) というサービス管理用のコンポーネントは、プライベートクラウドにおけるセルフサービスと、正しい運用をもたらすRunbookやCMDBを結びつけることに成功したのだ。

プライベートクラウド自動管理ツールの具体的機能

具体的に解説しよう。

Service Managerでは、社内IT部門のポータルを作れるようになっている。そのポータルにはサービスカタログと呼ばれる、利用者が使えるサービスのリストを表示することができる。

図2 : System Center 2012 Service Manager が提供するIT部門のポータル画面

図2はプライベートクラウドの申請画面で、仮想マシンだけを申請するのに加えて、ファイルサーバやパブリッククラウドの契約代行、さらにはIT部門の中でスキルの高いエンジニアが活かせる社内コンサルティングサービスなども、リスト化(サービスカタログ)できるようになっている。また、この画面そのものがIT部門のポータルにもなる。シングルサインオンでログオンしているユーザを認識でき、社内向けのアナウンスなどを表示することも可能だ。また、この画面はSharePoint ベースで作られているので、利用方法などが書かれたドキュメントの共有、検索にも適している。

利用者はこの画面から自分に必要なサービス名をクリックし、そこから必要事項を入力して申請をする。そして、これらはCMDBベースのコンポーネントで提供されているので、利用者の申請はそのままCMDBに登録され、サービスリクエスト(SR)番号が発行され、管理されることになる。プライベートクラウドにおける利用申請と、運用のためのCMDBの融合が実現できたというわけだ。

図3 : System Center 2012 によるプライベートクラウドにおける CMDBの位置付け

CMDBにはテンプレートが事前に登録されているので、ポータルを経由せずに、電話受付や受信したメールからサービスデスク担当者が入力処理をすることもできる。そう、プライベートクラウドのように見えてITILの運用であり、ITILのように見えて利用者はプライベートクラウド基盤として利用できるのだ。さらに、ID化された申請は、事前に定義されたテンプレートによって承認ワークフローの適用が可能だ。

さて、既にITILを実現している企業の方にもお伝えしておきたいことがある。自動化されていないITILでは、各IDに対して担当者をアサインするというのが一般的な運用の姿だろう。しかし、Service Manager には新しい仕掛けが用意されている。人をアサインする代わりに SC2012Orchestratorで定義されたRunbookを割り当てることができるようになっている。

図4 : Service Manager で、申請を受け付けた際の自動処理フローを定義しているところ。(1)承認ワークフローの後、(2)Runbookを自動的に呼び出す設定

Runbook を使うことでプロセスを自動化できることは既にご理解いただけたと思うので、ポータルで申請を受け、CMDBに登録されたら、そのままRunbookが自動実行されるところを想像してもらえればよい。もちろん、仮想マシン名といったその都度必要となる情報は、利用申請ポータルからCMDB、そしてRunbookへと適切に引き継がれる。さらに、手で作ったスクリプトで自動化を実現するのとは違って、Runbookが終了するとCMDB側に完了が伝えられ、SR番号は自動的に完了フラグが付けられる。このように、System Center 2012によるプライベートクラウドでは、ほぼすべての作業が自動化されたにもかかわらず、ちゃんとCMDB上に履歴が残るようになっているわけだ。Service Manager が提供するデータウェアハウスを利用すれば、上層部は、社内のシステムで今何が起き、これまでに何が起きたかを容易に知ることもできる。

また、System Center 2012では、Operations Manager という稼働監視ツールも用意している。さまざまなベンダーのご協力もあって、最近では、ネットワークやストレージ、物理サーバの稼働監視から、OSやOSが提供する機能、更にはその上で動くアプリケーションの監視まで実現できるようになった。Windows や.NET だけでなく、UnixやLinux、J2EEのアプリケーションの監視も可能である。SLAを意識した運用を実現するならば、Runbookと連携可能な Operations Manager による稼働監視が、様々な処理のトリガーとして大きな役割を果たしてくれるだろう。System Center 2012ならば、アラートから自動的にインシデントを立ち上げることも可能であるため、アラートの内容次第では、そのままトラブル対応のためのRunbookを呼び出すといったことも自動化できる。不具合を起こすのがITなら、そのITを処置するのもITというわけだ。

*  *  *

正しい運用無くして良いサービスはあり得ない、しかし、運用の効率化を意識するがあまりに、社内向けのサービスが硬直化してしまうのは更に良くない。これまで3回にわたって、ITのサービス化と正しい運用は相反するものではなく、それらを突き詰めていった結果として実現できる自動化基盤がプライベートクラウドになり得るということを解説してきた。マイクロソフトが考える真のプライベートクラウド像をどう感じていただけただろうか? 今すぐに既存のシステムを置き換えるのは難しいかもしれないが、学ぶべきことがあったと感じていただければ幸いである。

Orchestrator や Service Manager、Operations Managerを含む、SC2012シリーズの評価版 (現在RC版)
http://technet.microsoft.com/ja-jp/evalcenter/hh505660.aspx

執筆者紹介

高添 修(TAKAZOE Osamu)


日本マイクロソフトにおいて、情報インフラ基盤、運用管理基盤、仮想化を含むDynamic IT戦略などを担当するエバンジェリストとして活動している。難しい技術を分かりやすく噛み砕き説明することが得意。普段から、個々のマイクロソフト製品/サービスに閉じた話しではなく、もう一段階上の大きな視点から技術を解説している。

TechNet Blog「高添はここにいます」を好評執筆中。

System Center 2012、無償ハンズオン開催!!


今年前半のリリースが発表されている「System Center 2012」。そのSystem Center 2012(RC版)にいち早く触れられるハンズオンセミナーが2月28日、29日に開催される。

セミナー名は「1時間で理解する、System Center 2012によるプライベートクラウド体験」。その名のとおり、運用の自動化機能をふんだんに取り込んだ「System Center 2012」を使って、プライベートクラウドを体験してみようという内容だ。

具体的には、「System Center Virtual Machine Manager 2012」によるサービスの作成と更新、クラウドの作成と展開、「System Center App Controller 2012」によるサービスの展開と仮想マシンの操作、「System Center Orchestrator 2012」によるランブックの実行といった項目が用意されている。

本連載で解説してきた内容を、実際に体感できる貴重なチャンス。興味のある方は、マイクロソフトのWebサイトから応募してほしい。

<開催概要>

■日時 : 2012年2月28日(火) 12:00 - 17:40 (1回40分、3回開催)
         2月29日(水) 11:10 - 17:40 (1回40分、4回開催)
■場所 : 東京国際フォーラム Cloud Days Tokyo 2012 展示会場(「Cloud Days Tokyo 2012」の展示会場内)
■参加費 : 無料(要事前予約)
■主催 : 日本マイクロソフト


セミナー詳細、Webサイトはこちら >> http://technet.microsoft.com/ja-jp/cloud/hh828789