デジタルハリウッド大学大学院教授、ヒットコンテンツ研究所の吉田就彦です。
このコラム「吉田就彦の『ヒットの裏には「人」がいる』」では、様々なヒットの裏にいるビジネス・プロデューサーなどの「人」に注目して、ビジネスの仕掛け方やアイデア、発想の仕方などを通じて、現代のヒット事例を分析していくコラムです。
第24回目のテーマは、チェッカーズ3 - 時代を造ったプロデューサー・チーム
先日テレビの取材を受けました。火曜日の夜21時からTBS系全国ネットで放送される「解禁!マル秘ストーリー~知られざる真実~」という堺正章さんがストーリーテラーを務めている人物ドキュメンタリー番組です。2月15日の放送で、チェッカーズのデビュー当時の話を取り上げることになったらしく、チェッカーズのディレクターだった私にも出演依頼があったのです。
チェッカーズのプロデュースのことについては、私の1冊目の書籍『ヒット学~コンテンツ・ビジネスに学ぶ6つのヒット法則』でもヒット法則の事例として取り上げましたが、チェッカーズを世に出すときには様々な方の力を貸りることであの大成功を収めることができました。
音楽面では、音楽プロデューサーであり作曲家でもあった芹澤廣明さん、衣装やコンセプトのクリエイティブ・ワークでは秋山道男さん、その他にもたくさんの優秀なクリエイターの皆さんがチェッカーズのプロジェクトに関わっていただきました。
彼らのように有名になった外部のクリエイターの皆さんのことは、これまでもメディアで取り上げられることが多かったのですが、実はその外部の皆さんではない内部のプロデューサー・チームが存在していました。いわば、このチェッカーズというプロジェクトのコアのプロデューサー・チームです。
チェッカーズは7人のメンバーだったので、ボーカルの藤井フミヤだけに人気を集中させずにそのグループとしての個性も際立たせようと、一時期「チェッカーズ7」というコンセプトを打ち出したことがあるのですが、それに倣えば「チェッカーズ3」とでもいうべきプロデューサー・チームです。
その一人は私にとってポニーキャニオンの先輩であった木下忍さんです。残念ながらもうすでに故人となってしまった木下さんは、チェッカーズ・プロジェクトの宣伝プロデューサーでした。営業の経験も豊富であった木下さんは、まさにレコードを売るための全国キャンペーンやサイン会、媒体に対しての取材や社内組織へのコーディネーションなど、宣伝販促の要のコントロールタワーでした。年齢も若い私達より10歳年上で、メンバーにとっても同じ九州出身ということもあり、頼れるお兄ちゃん的存在でした。いわば、チェッカーズ・プロジェクト唯一の大人で、組織対応の窓口でした。
もう一人が、マネージャーの小見山將昭さんです。小見山さんは、くしくも私と同じ年齢、同じ星座で、血液型も同じ。お互い25歳でチェッカーズに関わりました。札幌のヤマハでギターをめちゃくちゃ売った実績を買われて、東京にディレクターとして招聘されたそうですが、なぜかチェッカーズの現場マネージャーにさせられたものの、最終的には正式なマネージャーとなりました。ある意味ではメンバーに最も近く、日々のスケジュール管理やブッキング、コンサートやライブの仕切り、楽器周りのケア、そして、何よりも我々より若かったメンバーの相談にのる8番目のチェッカーズという存在でした。
実はその小見山さんとは30年の時を経て、現在森林や林業の再生のことを一緒にやっています。2月14日には「LIVE DRYAD」というイベントを行ったり、昨年のCOP10でもシンポジウムなどを一緒にやりました。
そんな二人と私とで「チェッカーズ3」を結成して、プロジェクト・チーム化していました。政治の仕切りや大人折衝は木下さん、メンバー周りとスケジュール管理は小見山さん、そして、クリエイティブ全般のプロデュースは私という役割です。
この「チェッカーズ3」はいわゆるトロイカ体制のようなもので、それぞれがそれぞれの持ち場で頑張るとともにお互いを有効に使いあいました。そんな我々が、時代を造ったと言われたほどの大きな嵐のような狂騒の中で、もっとも神経と頭脳を使ったのは、チェッカーズというユニークな存在をなんとか世の中から守り、さらに進化させられないかということでした。
守るということは単純に庇護するというような意味ではありません。芸能界は人気者になると誘惑も多く、メディアやファンのエネルギーにともすると引きずられて消耗してしまいます。そうなると彼らが持っている本来の自由さや素直さが裏目に出て、人気にマイナスの影響を与えてしまうのです。
また、ミュージシャンでもあったチェッカーズは、フミヤのアイドル性もあってアイドル・バンドとして大ブレイクしたわけですが、当然長続きさせるためには音楽的にもしっかりとした実力をつけなければ残りようもなく、音楽性や芸術性を進化させていかなければアッという間に時代のあだ花になってしまいます。
そこで優秀なクリエイターやメディアの力、そして、なによりも一番味方につけたいファンの皆さんの力、そんなエネルギーのバランスを取りながら、我々「チェッカーズ3」は、あのすさまじい状況の中でチェッカーズをプロデュースしていきました。
私もその中で後にヒット法則やヒット要因としてまとめられるようなヒットのノウハウを実践してきたというわけです。このように、プロデューサーは、場合によってはチームという複数でファンクションを分け相互補完することで、大きな成功を勝ち取ることができます。当時経験も少なく若かった我々でしたが、成功の要因にはこのようなチームとしてのプロデュース機能があったように思います。「チェッカーズ3」、それは私にとっての初めてのヒット実践プラットホームでした。
執筆者プロフィール
吉田就彦 YOSHIDA Narihiko
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ヒットコンテンツ研究所 代表取締役社長。ポニーキャニオンにて、音楽、映画、ビデオ、ゲーム、マルチメディアなどの制作、宣伝業務に20年間従事。「チェッカーズ」や「だんご3兄弟」のヒットを生む。退職後ネットベンチャーのデジタルガレージ 取締役副社長に転職。現在はデジタル関連のコンサルティングを行なっているかたわら、デジタルハリウッド大学大学院教授として人材教育にも携わっている。ヒットコンテンツブログ更新中。著書に『ヒット学─コンテンツ・ビジネスに学ぶ6つのヒット法則
』(ダイヤモンド社)、『アイデアをカタチにする仕事術 - ビジネス・プロデューサーの7つの能力
』(東洋経済新報社)など。テレビ東京の経済ドキュメント番組「時創人」では番組ナビゲーターを務めた。
「ビジネス・プロデューサーの7つの能力」とは…
アイデアをカタチにする仕事術として、「デジタル化」「フラット化」「ブローバル化」の時代のビジネス・スタイルでは、ビジョンを「0-1創造」し、自らが個として自立して、周りを巻き込んで様々なビジネス要素を「融合」し、そのビジョンを「1-100実現」する「プロデュース力」が求められる。その「プロデュース力」は、「発見力」「理解力」「目標力」「組織力」「働きかけ力」「柔軟力」「完結力」の7つの能力により構成される。
「ヒット学」とは…
「ヒット学」では、ヒットの要因を「時代のニーズ」「企画」「マーケティング」「製作」「デリバリー」の5要因とそれを構成する「必然性」「欲求充足」「タイミング」「サービス度」などの20の要因キーワードで分析。その要因を基に「ミスマッチのコラボレーション」など、6つのヒット法則によりヒットのメカニズムを説明している。プロデューサーが「人」と「ヒットの芽(ヒット・シグナル)」を「ビジネス・プロデューサーの7つの能力」によりマネージして、上記要因や法則を組み合わせてヒットを生み出す。