地球温暖化の改善に向けて企業は今何をするべきか。また、世界規模で経済のルール変更が活発に議論される中、遅れをとらないためには何に取り組まなければならないのか。

本連載では各方面の有識者にさまざまな観点からお話を伺っている。

前回は気候変動の実態について、気象予報士の森田正光氏に聞いた。続く第2回は、環境省にて脱炭素ビジネスを推進する 地球環境局地球温暖化対策課 脱炭素ビジネス推進室 室長の杉井威夫氏に、GX(Green Transformation : 脱炭素)経営の進め方や世界の動向、さらには5~10年後を見据えて今意識すべきことについて解説いただいた。

  • 環境省 地球環境局地球温暖化対策課 脱炭素ビジネス推進室 室長 杉井威夫氏

日本は目標達成に向けて順調に推移

――環境省としての地球温暖化対策の方針をお聞かせください。

2015年、気候変動問題に全世界で対処するべく、COP(気候変動枠組条約締約国会議)21にてパリ協定が採択されました。パリ協定では、平均気温上昇を産業革命以前に比べて少なくとも2度以内に収める、できれば1.5度以内を目指すということが明言されています。

実現には、2050年までのカーボンニュートラル(最近はネットゼロと呼んでいます)が必要だというのが、世界の共通意識になっています。

国内では、2020年に当時の菅総理が、「日本も2050年までのカーボンニュートラルを目指す」ことを表明しました。翌年、短期の目標として2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度から46%削減、可能であれば50%削減を政府目標として定めましたので、この目標に向けて着実に歩みを進めるというのが環境省としての方針です。

――2050年のネットゼロという削減目標に向けて日本の進捗状況はいかがですか。

2021年は、コロナ禍に沈んだ経済が反動した年であったことから、温室効果ガス排出量が前年比で若干増えましたが、長期の傾向としては着実に削減しており、2050年にネットゼロを達成できるラインに乗っています。

諸外国がそこまで削減できていない中、2030年度に46%、50%削減という非常に野心的な目標に向けて成果を出せているのは良い傾向と言えるとでしょう。ただ、徐々に厳しくなってきているので一層頑張らないといけない状況です。

環境省の重点領域は「地域・暮らし」

――目標に向け、環境省ではどういった活動をしていますか。

環境省は、「地域・暮らし」といわれる分野を中心に推進しています。

最大の排出元がエネルギーや製鉄などの産業部門であることは事実ですが、2050年のネットゼロを実現するには、大きな排出量の分野だけを削減するのではなく、すべての地域、すべての国民が削減に取り組まなければなりません。皆が今から始めないと間に合わないと言えます。

一方でさまざまな調査を実施した結果、国内では、脱炭素の取り組みについて、つらい、お金がかかる、大変だという印象が強いことがわかっています。そこを変えていきたいというのが私たちの想いです。

例えば、ガソリン車を電気自動車に切り替えることで、自動車を移動手段だけではなく、オフィスとしても活用できるかもしれません。電気自動車には、ITの活用に必要なものが揃っていますし、自動運転が進化すれば移動中にも業務ができるでしょう。

また、住宅に関しては、CO2排出量が少ない家を作ろうとすると必然的に機密性が高く、エネルギーロスが少ないものになります。断熱材を入れたり、二重窓にしたりするためにかかるお金が要らなくなりますし、太陽光発電を導入すれば、災害時を含めて自律的で快適な暮らしを営むことができます。

こうした例を紹介しながら、脱炭素の生活に転換することで快適性が高まったり、豊かになったりすることをアピールしています。

――「地域・暮らし」のCO2排出量削減を進めていく上で、重要な点は何でしょうか。

地域で生み出し、地域で消費するかたちが効果的だと考えています。

例えば電力に関しては、これまでは遠い国から石炭や石油を輸入し、大規模な発電所で燃焼して電力を生み出し、広く一帯に供給する方式でした。今後は、太陽光や風力、バイオマスなどを活用することで、地域の資源で電力が生み出され、地域の技術者がメンテナンスすることができます。地域の雇用が生まれ、地域で資金が循環する流れになります。

また、仕事もテレワーク主体にすれば、住居付近でお昼をとることになりますし、いろいろなものが地域で生まれます。移動を減らすことでガソリンなどのエネルギー使用量が減りますし、地域にお金を還元できます。

少子高齢化、一極集中が進んでいる現代は、地域が疲弊しています。バス路線が廃止されるなど、地域の公共機関もだいぶ傷んでいますが、脱炭素の取り組みはこうした状況を脱却するきっかけにもなりうるでしょう。

環境省では、地域を核として、中小企業における脱炭素の取り組みも後押ししています。金融機関や商工会議所など、地域の中小企業と深いつながりのある企業や団体から将来の経営に対する影響等を説明してもらうことや温室効果ガスの排出量算定を支援してもらうことで、脱炭素に積極的に取り組んでもらえる状況を作っています。

GX経営は何からはじめるべきか

――何から手を付けてよいかわからないという企業も多いかと思います

おっしゃるとおり、特に中小企業の皆様においては、まだまだこれから検討という状況かと思います。

先に述べたメリットに加えてもう一つ意識しなければならないのは、サプライチェーン全体でCO2排出量の削減が求められるという点です。将来的には、元請け企業は、Scope3(※)と呼ばれる、製品に関わる全工程のCO2排出量を報告・削減することが求められる可能性が高いです。ここには下請け企業の活動も含まれますので、GX経営に対応できない企業は取引が停止されることも考えられます。

(※)
Scope1 : 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3 : Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
( 出典 : 環境省)

何をやったらいいのかわからないとならないよう、環境省としてもさまざまなかたちで支援しています。皆様にお伝えしているのは、まずCO2排出量を測っていただくことですね。

CO2排出量の測定方法

――CO2排出量は、どう測定するのでしょうか。

基本的に、皆さんが使用する機械や機器は動力を得るために、電気やガス、あるいは熱供給を受けているので、まず、それらをどれくらい使っているのか、またどのタイミングで使っているのかを調べます。CO2が出る要素はいくつかに限定されるので、そこをしっかりモニターしましょう。

さらに、機器ごと、照明ごと、オフィスの部屋ごとの使用量がわかると、改善すべきポイントが見えてきます。市場で提供されている機器の消費電力等を調べて比較すれば、どこに改善の余地があるのかわかるはずです。いわゆる省エネ診断ですね。

エネルギー効率の悪い機器があった場合、交換できるなら交換することおすすめしたいですが、大きな機器や高額な機器は何年か先まで刷新できないものもあるはずです。そのような場合も、例えば出力や稼働時間を調整することで改善できるケースがあるかもしれません。

また、資金計画を立てる際にもCO2排出量の観点をぜひ取り入れていただきたいです。設備投資のタイミングを逃してしまうと、数年間エネルギー効率の悪い機器を使い続けることになりかねません。規制が大きく変わっていく可能性が高いので、ビジネスの継続性も考えつつ、着実に排出量を下げてもらうことが重要です。

――エネルギー消費量や原材料はCO2排出量に直結するわかりやすい項目ですが、ほかに考慮するものはありますか。

これまでお話したのは主に製造工程でしたが、さきほどお話したScope3の中に下流という概念もあり、その製品の使用段階や、廃棄プロセスなどのCO2排出量も考える必要があります。

使用段階のエネルギー消費量は開発時の検討に入ることが多いですが、実は廃棄プロセスも重要です。燃やすのであれば当然その際にCO2 が発生しますし、砕いたりするのにもエネルギーを使うことになります。したがって、より解体しやすく、再利用しやすいものを作ることが重要です。

また、原材料の仕入れや、完成した製品が卸業者、小売店、消費者へ渡っていく過程での輸送でもCO2が排出されることになります。

このように将来的には製品のライフサイクル全般のCO2排出量を管理することが求められるでしょうから、今から頭に入れておくとよいでしょう。

――何をどれくらい使うとCO2排出量がどれくらいになるのか、算定するツールなどはあるのでしょうか。

単純に電力などの使用金額でCO2排出量を計算できるような簡易ツールもありますし、より精緻に検討するためのツールもあります。

環境省日本商工会議所のサイト、企業の取り組みという部分ではグリーン バリューチェーン プラットフォームのサイトで紹介しているので参考にしてください。

GX経営の世界標準

――GX経営関連で注視している規格、標準などはありますか。

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