B2Cビジネスを展開する企業は、販売経路を拡大するために広告やコマーシャルを発信するなど多角的なマーケティング活動を行っているが、この10年で大きな影響力を持つことを確認したのが、インフルエンサー(影響者)の存在である。インフルエンサーはブログと呼ばれる個人が思いの丈や意見を発信するウェブサイトを通じて、実際に利用した商品の感想も述べるようになった。そこからクチコミ効果のロジックで拡販につながりだしたことがきっかけだという。

歴史をたどるとPaul Lazarsfeld氏、Bernard Berelson氏、Hazel Gaudet氏共著の「People's Choice」でインフルエンサーに関する概念が論じられ、後のLazarsfeld氏、Elihu Katz氏共著の「Personal Influence」で一定の理論が確立する。この手法を用いたのが「インフルエンサーマーケティング」だ。

インフルエンサーの存在は潜在的な購入者を浮き彫りにし、前述の広告手法と比較しても高い顧客獲得単価となることから注目を集めてきたが、法人が個人のコントロールするのは難しい。ASEAN地区を中心にインフルエンサーマーケティングを行うCastingAsiaの関係者は「若者はプロ意識が高くないため、我々のような企業が間に入ることでリスクコントロールが可能になる」と説明する。

同社はフォロアー数が1,000人以上から最大10万人までユーザーをマイクロインフルエンサーと定義し、企業が求めるキャンペーンの支援活動を行う。「インフルエンサーとのマッチングを行い、コンテンツ管理から価格設定などすべてを請け負っている。効率性や効果性を社内ロジックで蓄積し、適切な形で企業に提案することも可能」(AnyMind Group CastingAsia事業統括 林信吾氏)だと事業内容を説明する。

  • CastingAsiaなど複数の企業を傘下に持つAnyMind Group 共同創業者兼CEO 十河宏輔氏

他方でインフルエンサーマーケティングは、消費者が広告と認識させない活動を意味するステルスマーケティング(俗称ステマ)になりかねない。そのため、米国ではFTC(連邦取引委員会)が2009年に「Guides Concerning the Use of Endorsements and Testimonials in Advertising」を改定し、一定の規制を設けている。

日本は2年遅れる形で、消費者庁が2011年に景品表示法ガイドライン「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」を公表したが、あくまでも"留意"であり"規制"ではない。同庁は「景品表示法に違反するか否かは、ここの事案ごとに判断する」と述べるにとどまる。そのため日本国内は今なお、個人の意見なのかステルスマーケティングなのか区別しにくい状況が続いているのが現状だ。

企業から見れば安価で効果的なインフルエンサーマーケティングだが、安易に用いると軽率のそしりを免れない。まさに諸刃の剣である。

阿久津良和(Cactus)