未経験者のAIエンジニア、インフラエンジニア教育で知られる京セラグループのKCCSキャリアテックの協力の下、日本にも分校があるチャンドラ・セカール・アカデミー学校の学校長であるクンナ・ダッシュ氏に話を聞きました。
チャンドラ・セカール・アカデミー学校は東インド・オディシャ州にある郊外の学校です。インドと言えば、カースト制で知られる身分制度があり、自由に職業も選べない文化がありますが、ITエンジニアはカースト制に関係がなく就職できるため、人気がある職業として知られています。
しかも、プログラマーは土木技師や機械技師の2倍の初任給であり、経験者になると3倍から4倍の給与になることから、インドの郊外でも注目を集めている分野です。チャンドラ・セカール・アカデミー学校は外国語に強い学校として知られていますが、今後はIT系も展開していくそうです。
以下、ダッシュ氏のインタビューを紹介しましょう。
--インドにはパブリックスクールもある中、どうしてプライベートスクールを作られたのですか?--
ダッシュ氏: 政府の学校はヒンディー語と州の言葉のオリヤ語ばかり教えますが、自分は幼少時から親が経営する日本人向けロッジを手伝っていたので日本と日本人が大好きになり、日本語を独学で自然に学ぶようになりました。
この辺りの子供たちは貧しく、そしてまだカースト制の名残があり、頭の良い子でも親の職業と同じ職業に就くことが第一の選択です。しかし、貧しい子の中にも頭の良い子がいて、その子たちに学習の機会を与えるなら学校が必要です。貧しい子も行ける学校(公立学校)もありますが、英語や日本語を教えようと思ったら、私立学校を自分で作るしかないのです。そこで、父が2004年にチャンドラ・セカール・アカデミーをオディシャ州プリーに設立しました。
--私もインド出身の留学生と話すことがありますが、意識が高く、優秀で勤勉な人が多い印象があります。日本語を話す人口は1億3000万人ほど、言語人口ランキングでも9位です。ほかにも言語がある中、なぜ日本語に注目されたのですか?--
ダッシュ氏: 実は、チャンドラ・セカール・アカデミー学校があるブリーは日本からの旅行者が多いです。日本人は遊びながら1週間、1カ月と長く滞在します。そして、この辺りに宿泊している人は私や従業員だけでなく、近隣の人とも交流を持とうとしてくれます。日本人が多いのはインドの大都市・観光地を除けばここプリーくらいです。せっかく日本人と交流できる環境があるのであれば、日本語を学ぶ最高の環境を個々に作りたいと思いました。
--日本人と交流させるメリットは何でしょうか?--
ダッシュ氏: 自分は小さい時から日本語を話せたから、日本に行ってビジネスをすることができました。この学校に通っている子供たちも小さな頃から日本語を話すことができたら、日本人と出会い、交流できるチャンスがきっとあると思います。私の場合、ロッジに泊まっていたバックパッカーが日本に連れていってくれました。同じように、誰かが子供を1人でも日本に連れて行って、新しい世界を見せてくれるかもしれない。だから、小さいうちから学習しておけば、チャンスを早くつかめると思っています。
--とはいえ、誰もがダッシュさんのように日本で成功するとは限らないと思います。日本に子供たちを連れていくことで、どのようなメリットがあるのでしょうか?--
ダッシュ氏: 生徒に日本で知ってもらいたいことは、日本人の「性格の良さ」「時間の正確さ」、そして、心の中がイライラしても笑顔で「どうも、どうも」と言える姿です。今のインド人に足りないことは、イライラしている時に「どうも、どうも」と話しながら笑顔でいることです。
インド人は思ったことを直球で言ってしまうことが多いです。でも、日本は何でもかんでも言ってしまうわけじゃない。そこがすごいと思うのです。そのサービス精神をインド人が持てたら、インド人も素晴らしい人間になれる。それ以外はインド人も持っています。日本のまず相手を思いやり、そのあとに自分のことを考えるサービス精神や清潔さを覚えてほしいと思っています。
日常生活でもビジネスでも時間通りに物事を進めるのは大事です。時間や約束を守らない人がいると、余計なことで相手を攻めたり、無駄な時間を費やしたりすることになります。日本人は仕事を時間通り、求められたとおりにきちんとしますよね。インドではちゃんとする人もいるけど、しない人は本当にしないです。
例えば、「来客の食事をつくるため、野菜を買ってきてほしい」とインド人にお願いしたうえで、「ナスとジャガイモを買ってきてください。特にナスは必要です」と言ったとします。日本人であれば一番大切な野菜は「ナス」と認識して先に「ナス」を探しますよね。でも、インド人はほとんどの八百屋さんに売られているジャガイモを最初に買う。
理由を尋ねると、ジャガイモよりナスが先にカバンに入っていると、ナスがつぶれてしまうからと答えるのです。しかし、インドの八百屋にはナスが必ずあるわけではないので、先にジャガイモを買うと、重いジャガイモを抱えて何軒もの八百屋でなすを探さなければいけなくなる可能性があります。効率を考えると、ナスを売っている八百屋でジャガイモも買えばいいのに、それがわからないことがあるのです。
そして、帰って来た時に「全部買ってきた?」と聞いてみると、ナスは買ってきていないにもかかわらず、それを最初に報告しません。まずは、「あの店に行ったけどなかった。あの店にも行ったけどなかった」と自分がナスのために「自分は努力した」とアピールします。ジャガイモしか買っていないという報告は、言い訳の後に出てくるのです。実は、ナスを探していなかったなんてこともあります。その理由は、探してもきっとナスはないだろう、と勝手に考えるのです。そこに悪気はなく、だますつもりもありません。
ここが大きく違います。怒られたくないから、いろいろな所に行ったというアピールをすることはインド人らしいのですが、よくないことです。この点を日本人と交流したり、日本に留学したり、日本で働いたりすることで、日本人から学ばせたいと思っています。
--確かに、その点は日本人の美点ですね--
ダッシュ氏: すべての人間に欠点がある通り、インド人も日本人も1人1人では何かしらできないことがあります。それぞれの欠点を補うようなマッチングをして、将来、成長したインド人や日本人が企業の経営層になれば、世界平和につながると考えています。」
--素晴らしいですね。ぜひ実現してほしいです。今後、ITにも力を入れていくと聞きましたが--
ダッシュ氏: インドでもITエンジニアは人気があります。カーストに載っていない仕事ですし、頭の良さとパソコンがあれば稼げる仕事ですから。しかし、ある程度の収入がある家庭の子供でないと自宅にPCはないので、プリーのような田舎ではITエンジニアは高嶺の花、憧れの仕事ですね。
--そうなんですね。ちなみに、インドではITエンジニアの給与は高いほうですか?--
ダッシュ氏: はい、ここブリーでも給料は比較的高いと思います。初任給でも8万から10万円になります。これに対し、一般的な事務職の月収が5万円です。優秀なエンジニアには年収で1000万円以上稼ぐ人もいます。
--インド人にとってIT業界で働く魅力は何でしょうか?--
ダッシュ氏: カーストに縛られず、腕?アタマ1本で勝負ができることが大きいです。また、その勝負の舞台がインド国内だけでなく、世界までつながっていることもあります。加えて、外資系が多いので、自由な雰囲気や綺麗なオフィスで仕事ができるのも魅力の1つでしょう。
--最後に、インド人から見た日本のIT業界はどういう印象でしょうか--
ダッシュ氏: インド人はハードウェア、日本人がソフトウェアに強いと言われることがありますが、今後もIT業界でインド人と日本人のこの関係はずっと続くと思っています。
日本は魅力があるけど、日本語を話せないと日本で働くことや生活することはまだまだ難しいと感じています。また、日本の教育は素晴らしいと思うけれど、将来インドに帰る可能性があるインド人にとっては、インド教育(CBSE)を施す学校が日本にあるともっと良いです。なぜなら、帰国後も子どもがスムーズに教育を受けることができるからです。
そこで、今まではインド式教育の学校は東京にしかなかったため、京都でチャンドラ・セカール・アカデミーの分校をつくりました。この学校があることで、インド人技術者が家族と離れて寂しく暮らすことがなくなればいいなと思っています。