高度にインターネットが発達した現代では、知りたい情報をすぐに検索して調べることができる。一方で、本を読むことで得られる想像力やインスピレーションも重要だ。"本でしか得られない情報"もあるだろう。そこで本連載では、経営者たちが愛読する書籍を紹介するとともに、その選書の背景やビジネスへの影響を探る。
第11回に登場いただくのは、楽楽精算や楽楽請求をはじめとする楽楽クラウドシリーズを手掛けるラクスの代表取締役社長を務める中村崇則氏。同氏は駄犬氏のライトノベル『誰が勇者を殺したか』(角川スニーカー文庫)を選んだ。
小説投稿サイト「小説家になろう」で連載されていた同作は、角川スニーカー文庫より書籍化されている。剣や魔法で魔物と戦う中世ヨーロッパ風の王道ファンタジーな世界観を舞台とし、魔王討伐後の世界を描く。
話の軸となるのは、魔王討伐を志す旅で帰らぬ人となった勇者の真相に迫る物語だ。なぜ勇者は死んだのか、そして誰が勇者を殺したのか。かつて勇者の仲間として旅をした騎士、僧侶、賢者を含め、登場人物のさまざまな思惑が入り混じる群像劇としてストーリーが進む。
かつての仲間に対するインタビュー形式と、各登場人物の視点で語られるミステリーな物語の展開も非常にユニークだ。なお、本稿では物語の重要な内容について触れているので、ネタバレが気になる方はぜひ同作を読んでから中村氏の感想に戻っていただきたい。
毎月2冊ずつビジネス書を読み経営者の視点を学ぶ
--普段の読書の様子や頻度について教えてください
中村氏:ビジネス書は基本的に紙の本を読むようにしています。ビジネス書は読み応えのある本が多いので、自分で「ここまで読んだ」という実感や達成感を得るために、あえて紙を選んでいます。
漫画やライトノベルも読むのですが、それらは娯楽として余暇の時間を使って気軽に読むので、持ち運びに便利な電子書籍を使うことが多いです。
読書は寝る前や週末の空き時間を見つけて、意識的に行うようにしています。人間ですからつい簡単な本に流れてしまいがちですが、月に2冊は勉強のためにビジネス書を読もうと決めて継続しています。
読む本については、XなどSNSで紹介されたものの他、エコノミスト(毎日新聞出版)、東洋経済(東洋経済新報社)などの雑誌で紹介された本の中から、気になったものを買う機会が多いです。
--どのようなジャンルの本が好きなのでしょうか
中村氏:ビジネス書では、最近は特に経営者に関する本を読んでいます。先日はイーロン・マスク氏の本を読みましたし、今日(取材当日)の昼休みも本屋でサム・アルトマン氏の本を買ってきました。
私は大学で経営学を学んできたので、組織論やファイナンス、マーケティング、経営戦略などについては一通り読んできましたが、著名な経営者に関する本を読むことで「何が、彼らを著名な経営者たらしめているのか」を学びたいと思っています。その中で、自分でも真似できること、自分は真似すべきでないことが見えてくる気がします。
漫画やライトノベルは流行のものから、マニアックなジャンルまで、幅広く読みます。『葬送のフリーレン』(小学館)も、アニメ化でこれほど人気になる前から気になって読んでいました。
勇者は誰が殺したのか?そして、なぜ死んだのか?
--『誰が勇者を殺したか』を読もうと思ったきっかけを教えてください
中村氏:SNSで他の経営者の方が「これは面白いよ」と紹介していたのがきっかけです。ライトノベルなので、それほど肩肘を張らずに気軽に読み始めました。
--印象に残っているエピソードを教えてください
中村氏:ネタバレになってしまいますが、主人公である勇者アレスは実はアレスではなく、いとこのザックという少年です。剣術や魔法の才能があったアレスとは違い、ザックは特にこれといった能力を持たず、主人公というキャラではありません。
あらすじとしては、アレスという少年が預言者により「勇者になる」とされていたのですが、アレスはザックと王都を目指す旅の途中で魔人に襲われて死んでしまいます。その後、ザックはアレスを名乗って勇者の名に恥じないよう努力をして、最終的には勇者として認められ、パーティを組んで魔王を倒します。
しかし、勇者アレスの正体がザックであると知られたら故郷の親や国中が混乱してしまうため、ザックは「アレスが魔王を倒して死んだ」ということにして、自分は遠い町へ身を隠します。
ザックはアレスと違って戦いの才能がありません。そのため、魔王を討伐する前に、勇者の育成機関で剣術や魔法の修行に打ち込みます。それこそ、起きている時間はすべて血のにじむような努力のために使うのですが、このときの、彼が努力をする姿が気に入っています。
魔王討伐後のパーティメンバーへのインタビューでは、誰もがザックは剣術や魔法の才能がない代わりに、異常に努力する人物であったことを回想しています。
「努力」するための仕組みこそが重要
--この本を読んで、ビジネスに生かせるポイントはありますか
中村氏:ザックと比べて、自分はちゃんと努力できているのかを見つめ直すきっかけになりました。結論から言うと、まだまだ彼のレベルまでは至れていないので、もっと努力しなければいけないと感じています。
ビジネスでも努力をしないことには成果を上げられませんので、いかに努力をするのか、あるいは努力する仕組みをどう作るのかが大事だと感じました。
--中村社長が今努力していることは何ですか
中村氏:経営はもちろんですが、その他にも、世の中の流れや情報をどれだけインプットできるのかに挑戦しています。経営者は不確定な未来に向かって何を選択してどのように進むのかを決めることが重要ですので、成果を出したり成功したりするまでの確率を高められるようにしています。
--努力を継続するのは難しいですよね
中村氏:そうですね。だからこそ、仕組み化・習慣化することが大切だと思っています。私は最近、朝起きたら懸垂をしているのですが、日常の中にルーチンとして組み込むようにしています。
寝る前に本を読むこともその一例ですが、「○○をしたら××をする」のように行動を決めてしまうのが良いでしょう。そういう意味で、オフィスに出社することも重要だと思っています。在宅ワークでは仕事をするためのスイッチを入れる必要がありますが、オフィスに出社すれば自然に仕事のスイッチが入ります。
場所や行動にひも付いてスイッチが入る仕組みがあれば、モチベーションにかかわらず努力を継続できるのかなと思います。
--努力の先にある中村社長のビジョンを教えてください
中村氏:当社は「日本を代表する企業になる」を長期ビジョンに掲げています。より多くの企業や人々の役に立つためには、もっと会社の規模を拡大して世の中に貢献できる企業にならなければいけないと思っています。
個人的な目標としては、サム・アルトマン氏について書かれた本の中で「自分が到達したい目標に、どうすれば0(桁)を増やせるか考える」ということが書かれており、印象的でした。今後は、そういった脳の使い方もできるようになりたいと思っています。



