NTTドコモビジネスは2026年3月26日、法人向けモバイル通信サービス「5Gスライシング」の提供を開始しました。これはスタンドアローン(SA)運用の5Gネットワークで実現するネットワークスライシング技術を用い、企業に一部の帯域を占有して提供するサービスとなりますが、技術を考慮すると提供されるサービスの内容はかなり限定的な印象を受けます。一体なぜでしょうか。→「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の過去回はこちらを参照。

「5Gワイド」と「ローカル5G」のいいとこ取り

2025年ごろから国内携帯各社が、5Gのネットワークを4Gと一体で運用するノンスタンドアローン(NSA)から、5G単独で動作するSA運用へと移行する動きを加速していますが、サービス面でも、そのSA運用を前提としたものが出てきているようです。

実際、NTTドコモ傘下のNTTドコモビジネスは2026年3月26日に、5G SAを活用した法人向けのモバイル通信サービスとして5Gスライシングの提供開始を発表しています。

法人向け、とりわけロボットや監視カメラなどに用いられるモバイル通信のニーズは、一般ユーザーが利用するスマートフォンのような高速大容量通信とは限りません。中でもニーズが大きいのが、有線のネットワークのように安定的に、変わらない速度で通信し続けられることです。

そのため、NTTドコモビジネスも従来から5Gで安定したモバイル通信を提供する法人向けのサービスをいくつか提供してきてきました。その1つが「5Gワイド」で、これはNTTドコモの商用ネットワークの中で、契約した企業の通信を一般ユーザーの通信より優先することにより、安定通信を実現するものです。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第35回

    NTTドコモビジネスが2024年4月より提供している「5Gワイド」は、商用ネットワークの中で契約する企業の通信を一般ユーザーより優先することで、可能な限り安定した通信を実現する仕組みだ

5Gワイドは、あくまで一部の通信を優先するだけですので、NSA運用の5Gだけでなく、4G回線でも利用可能であるなど、ネットワークの種別や場所を問わず利用できるメリットがあります。しかし、ネットワーク全体が混雑してしまうと、それに伴って通信品質が落ちてしまうことから安定性の面では課題があります。

そしてもう1つが「ローカル5Gサービス TypeD」です。こちらは文字通り、自営網であるローカル5Gのネットワークを整備するものですが、基地局の一部やコアネットワークの設備をNTTドコモと共用することで、ローカル5Gとしては比較的低コストで利用できる点が特徴となります。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第35回

    2025年3月から提供している「ローカル5Gサービス TypeD」は、基地局やコアネットワークなど多くの設備をNTTドコモと共用することで、ローカル5Gを低コストで利用できるサービスとなる

こちらは自営のネットワークだけあって、通信の安定性という意味では大きな効果を発揮しますが、商用のネットワークを用いる5Gワイドなどと比べると、利用できる場所が限られるうえに整備や運用にもコストがかかり、高くついてしまうといった弱点も抱えています。

そこで、NTTドコモビジネスが新たに導入したのが5Gスライシングとなります。これはSA運用の5Gで利用できる、ネットワークの帯域を仮想的に分割し、用途に応じた専用線のような形で提供できる「ネットワークスライシング」という技術を用いたサービスです。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第35回

    2026年3月26日より新たに提供開始した「5Gスライシング」。5G SAで利用可能となった「ネットワークスライシング」を用い、企業に専用の帯域を割り当て商用網での安定通信を実現するサービスとなる

それゆえ5Gスライシングを契約した企業には、商用ネットワークの中に「スライス」と呼ばれる専用の帯域が割り当てられるため、5Gワイドのように他の帯域の混雑具合に影響されることなく、常に安定した通信ができるようになります。

自営網ではないので広域での利用も可能なことから、5Gワイドとローカル5Gサービス TypeDのいいとこ取りをしたサービスといえるでしょう。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第35回

    5Gスライシングと5Gワイドのストリーミング映像による比較。ネットワークに高い負荷をかけた状態でも、5Gスライシングでは映像の画質が落ちないのに対し、5Gワイドでは一部ブロックノイズが生じるなど、画質の低下が見られた

サービスはあくまで初期段階、ユースケース開拓に期待

ただ、5Gスライシングの内容を確認しますと、スライスで対応するのはあくまで専用の帯域を確保するのみとなっています。

ネットワークスライシングでは、個々のスライスに対して高速通信や低遅延など、さまざまなカスタマイズを施して提供できるメリットがあるのですが、今回のサービスではあくまで専用の帯域を確保し、安定した通信を提供するのみにとどまっています。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第35回

    ソフトバンクが「2026 FIA F1世界選手権シリーズ Aramco 日本グランプリレース」で実施した実証実験では、ネットワークスライシングでXRや決済など、さまざまな用途に応じたスライスを用意していた

同社の説明によると、これまで5Gワイドやローカル5Gサービス TypeDを導入した企業は放送や製造業などが多く、それら企業からは周辺環境に左右されない、安定した通信に対するニーズが多く寄せられているとのこと。それゆえ5Gスライシングでもニーズの大きい通信の安定に重きを置いたといいます。

また、提供する場所も基地局単位となり、基地局数と利用する帯域で料金が決まる仕組みとのこと。汎用的なサービスというよりも、かなりオーダーメードに近い形でのサービス提供となるようです。

国内の商用ネットワークで、ネットワークスライシングを活用したサービスを提供すること自体、まだ初期段階にあることから、同社としても慎重にサービス展開を進めていきたいのでしょう。

それに加えて、同社が用いるNTTドコモのネットワークは、競合のKDDIやソフトバンクと比べ5GのSA運用への移行が遅れている状況にあります。それゆえ現時点では、公共交通向けなど面的なエリア展開が求められるシーンに向けて、5Gスライシングを提供することは考えていないとのことでした。

このように、5Gスライシングはまだかなり初期段階で提供されるサービスという印象も受けます。ただそのニーズが高まれば、NTTドコモの5G SAエリア拡大、そしてかねて開拓が進まないと言われてきた、5Gの法人活用に向けたユースケースを広げることにもつながってくるだけに、今後の展開が期待される所です。

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https://news.mynavi.jp/techplus/article/20260325-4258567/

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