英国の高等法院が11月2日、スウェーデン司法から強姦などの容疑をかけられているJulian Assange氏の身柄引き渡しについて、送還を認める判決を下した。Assange氏は内部告発サイト、WikiLeaksの創始者。Assange氏に残された選択肢が少なくなったとともに、資金難に陥ったWikiLeaksの活動も危ぶまれている。

WikiLeaksの創設から逮捕まで

WikiLeaksの創設は2006年と決して新しくはないが、世界的に一般の人に注目されるようになったのは2010年からだ。米外交公電のリーク公開などで、単に情報を開示するだけでなく、米国ではNew York Times、英国ではThe Guardian、と特定のメディアと組み(日本では朝日新聞が情報提供を受けたことがある)、メディア側がリーク情報を精査して記事にするという手法をとった。これにより、幅広い人の関心を得るようになった。

2010年4月、WikiLeaksは2007年に行われた米軍によるイラク・バグダッド空爆のビデオを公開、Reutersのレポーターを含む民間人への攻撃の様子が写されており、話題となった。その後、このビデオを含む米軍機密情報を流出したとして米兵Bradley Manning氏が逮捕された(Manning氏は現在も拘留されている)。以降、WikiLeaksは爆弾を落とすかのように段階的に情報を公開した。中でも10月には2004年から2009年のイラク戦争に関する米軍の機密情報を公開、40万件という数も目を引いた。

スウェーデン警察がAssange氏に逮捕状を出したのは、その後だ。Assange氏はこの年の夏、スウェーデンでスピーチを行っており、その時に関係を持った女性2人に強姦を行ったという容疑がかけられ、身柄の拘留を求めて欧州逮捕状を発行した(スウェーデン当局は同じ容疑で8月に一度逮捕状を出したが、すぐに撤回していた)。

WikiLeaksが公開するリーク情報が記事となって見出しを飾り、WikiLeaksに大きなスポットが当たる中、12月はじめにAssange氏は滞在中の英国ロンドンで出頭逮捕となった。その後治安判事裁判所がスウェーデンへの送還を認める判断を下し、Assange氏はこの決定を不服として上訴していた。

この間も事態は急速に展開していた。11月に日本でも大きく報じられた外交公電のリーク公開があり、PayPal、MasterCard、Visa、Bank of Americaなどの金融機関がWikiLeaksへの送金を停止、そしてこれに抗議するAnonymousのサイバー攻撃(抗議)活動などだ。また映画監督のMichael Moore氏などの著名人がAssange氏支持を公にしたことも話題となった。Assange氏はこの年のTime誌の「Person of the year(今年の顔)」の候補となった(最終的に選ばれたのはFacebookのCEO、Mark Zuckerberg氏)。

Assange氏がスウェーデン移送を拒否する理由

なぜAssange氏はスウェーデンへの移送を拒否するのか? Assange氏側の主張は、「スウェーデンに渡ると、そこから米国に送還される」というものだ。以前、自分の電子メールをWikiLeaksでリークされたSarah Palin氏はじめ、米国の多数の政治家が軍や外交の機密情報がリークしたことへの立腹を公にしており、Assange氏の引渡しを求めるだろう、という。スウェーデンは過去にも容疑者をほかの国に強制送還したことがあるとも指摘している。なお、スウェーデンの検察官は、容疑はAssange氏個人の行為に対するものであって、WikiLeaksが米国の機密情報を公開したこととは無関係だと述べている。

今回、高等法院はこれらの主張を退け、スウェーデン当局の逮捕状の発行とその後の処置は適当であるとして、一審にあたる治安判事が下した移送を認める決定を支持した。

Assange氏に残された道は、上訴かスウェーデンに行き身の潔癖を証明するか、どちらかとなる。2日、Assange氏は「次のステップを考える」と述べるにとどまった。多くが上訴を予想していただけに、この発言は驚きとなった。背景には、膨大な訴訟コストを負担できない実情があるようだ。上訴に要するコストは1万9000ポンド(約238万円)ともいわれており、軟禁の状態で非営利団体を運営する身には大きな額といえる。

Assange氏は14日以内に、上訴するかどうかを決定しなければならない。

懐具合が厳しいのはWikiLeaksも同じだ。Assange氏は10月末、複数の金融機関がWikiLeaksへの送金を停止(「財務封鎖」とAssange氏は形容している)した結果、2011年の寄付は前年と比較して95%も減少したという。情報公開を一時停止するとともに、このままでは年内にもサイト閉鎖の可能性もあると訴えた。

容疑の詳細

ところで強姦とはどのようなものだったのか。本人たちにしか知りようがないが、スウェーデンでAssange氏と関係を持った2人の女性(頭文字"A"と"W"で引用されている)は、ともにAssange氏の支持者だったようだ。1人はAssange氏のスウェーデンでのスピーチを調整した人で、もう1人はスピーチの聴講者だったといわれている。両方とも誘ったのは女性からのようで、合意の上ではあったがコンドーム装着を拒否するなどのことが容疑につながっている。

2人は、ともにAssange氏と関係を持っていたことがわかった後に警察に行き、性病の検査などのアドバイスを求めた。これがきっかけで調査が進み、容疑が持ち上がった(最初から苦情を申し立てたのではない)というのがAssange氏側の主張である。

少なくともスウェーデンでは女性に人気だったようだが、確かにAssange氏には人をひきつける魅力があると彼を取材したレポーターが書いていた。また、保釈中に住まいを提供しているVaughan Smith氏も、会話が上手で、Smith氏の子供からも好かれている魅力的な人物だと評している。

Assange氏やWikiLeaksが今後どうなるにせよ、WikiLeaksがもたらした影響は大きい。2010年末から始まったアラブの春、ウォール街で始まり世界に飛び火している「Occupy」運動など、インターネットという手段を手にした途上国、成長国の人々が透明性を求め、政治、体制、制度に抗議している。これらは、WikiLeaksが2010年に活発化したリーク活動と関連しているように、わたしには見える。