ファイル共有について、取り締まりで先行したフランスがなんとか根を絶とうと必死になる一方で、同じ欧州でもスイス政府は私的利用であればOKとする見解を示した。それどころか、エンターテインメント業界に対し、「古いモデルにしがみついていると勝ち組になれない」と一喝している。今回、P2Pについて欧州3カ国の動きを紹介したい。

[フランス] Hadopiをさらに強化、ストリーミングも対象に

まずはファイル共有に対して強硬な姿勢で挑むフランスから。11月、債務問題が深刻化する中でG20の議長国という立場で開催した文化サミットで、フランスの大統領、Nicolas Sarkozy氏はインターネット時代の著作権を取り上げた。ここでSarkozy大統領は、フランスが2010年に導入した"Hadopi"ことLoi Creation et Internet(LCI)法(違法ダウンロードを3回するとネット接続を切断することから、スリーストライク法とも呼ばれている)の成果として、「違法ダウンロードが35%減った」と報告した。また、音楽産業の支援として、CNM(仮名称)という新組織を立ち上げて経済的に支援していくことも明らかにした。

フランスにはTVから映画産業を守るという目的を持つCNC(国立映画・映像センター)という組織があるが、CNMはその音楽版ともいえる。CNCがTV局の売り上げの一部を映画業界に回すのと同様、CNMではISPやインターネット広告に課税し、それを音楽産業の助成金とする。これは以前このコラムで紹介したPatrick Zelnik氏のレポートで提示されていた案に似たものだ。もちろん、ISPやGoogleらの反対は必至だろう。2012年春までに立ち上げたいとしているが、果たしてどうなるかが注目される。

Hadopiではもう1つ話題がある。ストリーミングにも取締りの手を広げるというSarkozy大統領の(来年の大統領選を前にした)狙いだ。

LCIでは独立機関HadopiがISPの協力を得て、違法ダウンロードを行ったインターネットユーザーに警告を送ることになっている。3回の警告の後でも違反が認められた場合は裁判所で審議し、最大1500ユーロの罰金、またはインターネット接続の切断が言い渡されることになる。初回は電子メール、2回目以降は書簡にて警告を送るが、Hadopi側が公開したデータによると2011年9月末までに1回目の警告を送ったユーザーは約65万人、2回目は4万4000人いるという。3回目の警告を受け取った人は60人いるとのことだ。

だがユーザー側も対策を研究しているようで、VPNなどの回避策を講じる人もいる。もう1つ、Hadopi導入と同時に利用が増えたのがストリーミングだが、Sarkozy氏は今回、"Hadopi 3"として、違法コンテンツのストリーミングにも拡大する方向性を示した。ストリーミングを監視するには、現在のフィルタリングでは難しく、技術的課題も指摘されている。産業・エネルギー・デジタル経財大臣のEric Besson氏も「技術的に可能かどうかわからない」とし、まずは方法を調べたいと述べている。これについては、今後ISPなどを含んだコンサルテーション期間を設け、2012年第1四半期に報告書をまとめることになっている。

なお、日本で児童ポルノブロッキングの対象サイトを選定する一般社団法人インターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)と三菱総合研究所が11月末にHadopiの事務所を訪問したようだ。Hadopiによると、訪問の目的はネット上の違法コンテンツ対策について議論することだったという。

[スイス] 3分の1が違法ダウンロード常習、だが取締法は「必要なし」

このように、著作権を侵害したコンテンツのダウンロードを徹底的にやめさせようとするフランスとは対照的に、お隣スイスでは異なる見解を示した。

スイス政府は11月30日、インターネットと著作権侵害についての報告書を発表、そこで15歳以上のインターネットユーザーの3分の1が、映画や音楽などのコンテンツを無料でダウンロードしていると報告した。一方で、ユーザーの多くが合法的な方法を知らないうえ、エンターテイメントが支出に占める比率は変わっておらず、CDを買わなくなった分、コンサート、映画などほかのエンターテイメント手段に費やしているという。

このようなことから、現在スイスでは私的な利用であれば(インターネットを含め)複製を認めているが、今後もこの方針は変わらないとした。

そうした上で、ユーザーの振る舞いが変わっており、この影響を受ける企業は時代の変化に適応する必要がある、変化を恐れることは逆効果をもたらす、などと提言している。

[ベルギー/EU] ISPへのフィルタリング義務付けは違法

ベルギーでも1つの進展があった。ベルギーの著作権管理団体Sabamが同国の大手ISP、Scarletを訴えていた件で、ISPにトラフィックのフィルタリングを強要することはできないという判断を欧州司法裁判所(ECJ)が示したのだ。

この問題は2004年にさかのぼる。当時、Sabamはユーザーがファイル共有サイトを利用しているとしてScarletを提訴、ベルギー司法は初審でSabamの訴えを認め、Scarletに対しフィルタリングの導入を命じた。だが控訴審では欧州プライバシー法に反すると主張したScarletが逆転勝訴、そこでECJに判断を求めていた。

拡大戦略を発表したSpotifyとDeezer

spotify 創設者のDaniel Ek氏

欧州のデジタル音楽サービス側も動きがあった。Spotifyはスウェーデン、Deezerはフランスの音楽ストリーミングサービスで、フランス・パリで12月に開催された「Le Web 2012」でそれぞれ発表した。

Spotifyはその前の週に、プラットフォーム戦略を発表していたが、Le Webではインターネットラジオサービスの「Spotify Radio」を発表した。知っているアーティストや楽曲を探して聴くだけではなく、新しい音楽を発見したいというユーザーのニーズに応じるもの、と共同設立者のDaniel Ek氏は説明している。

フランスで人気のDeezerは、提供市場の拡大を発表した。それも、約200カ国でローンチするという。すでに成熟市場である北米、一部の欧州国、豪州、日本は世界の音楽市場の20%程度を占めるに過ぎず、ロシア、インドネシアなど大きな成長が期待できる市場がたくさんあると見ているようだ。

オンライン音楽は少しずつ進展しているが、その速度は速いとはいえない。一方で、ファイル共有に対しては取り締まり一辺倒ではなく、新しいディストリビューション方法が登場し、産業構造が変わると展望したスイスなどさまざまな見方が出てきたことは歓迎すべきだと思う。いずれにせよ、模索状態は当分続きそうだ。