英政府は8月はじめ、著作権改正を含む新しい知的所有権(IP)方針を打ち出した。なんと、初めて、自己が所有する音楽CDをデジタル音楽プレイヤーにコピー(リッピング)することが合法となる。これらの緩和により、2020年までに最大80億ポンドの経済効果を期待するという。同時に、違法コンテンツ遮断問題についても、態度を軟化させた。

これらの方針は、8月3日にビジネス・イノベーション・技能省が発表したもの。これは、Ian Hargreaves教授が首相の依頼を受けて作成した、デジタル時代の知的所有権に関するレビューに対する回答となる。Hargreaves教授は10項目の推奨を行っており、政府もこれをすべて是認した形のようだ。今後、この回答を基に法改正などに着手することになる。

晴れて堂々とiPodの利用が可能に

注目を集めたのが、1)著作権の例外規定の拡大、2)著作権ライセンスの簡素化、の2項目だ。1)では、私的使用のためのコピーを限定的に認めるほか、パロディー、研究目的でのテキスト・データマイニングなどが例外扱いとなる。晴れて自分のCDを「iPod」などの端末に移せる(「フォーマットシフティング」と称している)ようになった・・・といっても、すでに多くの消費者(90%ともいわれる)が知ってか知らずか行っており、著作権保有者側も権利を主張してこなかったようなので、何かが急に変わるわけではなさそうだ。それでも、合法となればクラウド音楽など、新しいサービスが前進するかもしれない。

だが、著作権所有者に還元する目的で、録音可能なメディアなどに課す税金(私的使用複製の例外規定とセットで導入されることが多い)については、回避の方向ですすめる。欧州ではベルギーやフランスなど多数の国で私的録音録画補償金制度といわれる税金が課されており、対象も税率も異なる。ここからは余談だが、ベルギーでは、MP3/MP4プレイヤー、ブランクCDやDVDはもちろん、STB、DVDレコーダー/リーダー/ライターなどさまざまなものを対象としている。スマートフォンもMP3/MP4再生機能があれば該当するようだ。だいたいの品目で税率が高く、同制度のないルクセンブルグで購入したものをベルギーで販売する業者もあるようだ。ベルギーに住むビデオ関係の仕事をする知人は、このようなサービスを利用してDVD-Rを調達していたが、この会社が閉鎖、1時間かけてルクセンブルグまでいくか税率の安いドイツの友人に頼んで送ってもらうしかないと嘆いていた。50枚組の場合、価格は3倍ちかく違うという

例外規定となるパロディもあなどれない。というのも、2010年にウェールズのラッパーがAlicia KeysとJay Zの「Empire State of Mind」をパロディにしてビデオ「Newport State of Mind」を作成、You Tubeで人気ビデオとなったが、苦情を受けて削除された。この話はBBCで取り上げられるなど話題となったようだが、このようなパロディの製作が可能になりそうだ。総じて、クリエイテビティが奨励されると政府は期待を寄せている。

2)の著作権ライセンスの簡素化では、「Digital Copyright Exchange」(仮称)という著作権のマーケットプレイスのような機関を立ち上げ、ライセンスの売買を容易にする。まずは英国独自の著作権であるCrown Copyrightを利用する素材をここで提供する計画も明らかにしている。

「Google Books」で大きく取り上げられた孤児作品(著作権所有者が不明の作品)についても、商用および文化利用を認める方向性で取り組みを進めるとしている。

このように、英政府はデジタル時代に即した知的所有権フレームワーク作りを目指しており、ビジネス・イノベーション・技能省では、これら改正の結果、2020年までに同国経済の0.3%~0.6%に相当する50億ポンド~80億ポンド(約6358億円~1兆172億円)規模の経済効果が期待できると見積もっている。

違法コンコンテンツ対策は迷走中

ビジネス・イノベーション・技能大臣のVince Cable氏は同時期、もう1つの重要な方向性も示した。英国で「Digital Economy Act」の一部となっている違法コンテンツ対策に関するものだ。

2010年に可決した同法では、違法コンテンツをホスティングや掲載するWebサイトを遮断する規定を設けており、著作権保有者はISPに対し自分たちの権利を侵害するWebサイトの閉鎖を命じることができる。これに対し、情報通信庁(Ofcom)はWebサイトの遮断は効果がないとする見解を示しており、Cable氏の見解もこれを反映する形となる。だがOfcomは違法コンテンツ対策の必要性については肯定しており、テクニックとしてディープパケットインスペクションを検討したいと記している。

Cable氏はBBCに対し、「法律の当初の草案は正しい方向性とはいえなかった」と認めている。すでに7月、映画業界団体が海賊版サイトNewzbin2を遮断するようBTに求め、高等法院が訴えを認めた。ここで原告側はDigital Economy Actではなく、著作権法を根拠としており、Digital Economy Actで規定する必要はないという議論が起こっていた。

政府の回答に対し、当然、音楽業界団体など著作権保有者側は難色を示している。一方、ISP業界団体は、コンテンツ業界は既存のモデルの再生産ではなく、新しい魅力的なビジネスモデルが必要と主張している。