3月1日、米Microsoftは欧州委員会(EC)との独占禁止法訴訟の和解合意に基づき、欧州ユーザーに対しブラウザ選択画面の配信を開始した。開始から1週間、各ブラウザベンダや業界の反応をまとめてみる。

ブラウザ選択画面は、OSとWebブラウザ「Internet Explorer(IE)」の抱き合わせに対してECが持ち上げた独占禁止法訴訟の和解条件となる。ノルウェーOpera Softwareの苦情を受け調査を開始したECは2009年1月、EU競争法(独占禁止法)の疑いがあるとしてMicrosoftに異議告知書を送った。Microsoftは訴訟の長期化を回避するため2009年12月にECと和解、その際、ブラウザ投票画面をWindowsユーザーに配布することで合意した。Microsoftは当初、IEを搭載しない"e"バージョンの「Windows 7」作成も検討していたがECがこれを不十分としたため、最終的に合意したのがこのブラウザ選択画面となる。

このブラウザ選択画面は、「Windows Update」を使って、IEをデフォルトのWebブラウザに設定しているWindowsユーザー向けに自動配信される(新規にWindows PCを購入したユーザーも含む)。この画面は最初に5種類のWebブラウザ - IE、Mozilla Firefox Google Chrome、Apple Safari、Opera - が表示され、横にスクロールすると7種類のWebブラウザ(「Maxthon」「K-Meleon」「Flock」「Avant」「Sleipnir」「Slim」「GreenBrowser」)が表示されるというものだ。それぞれのアイコンとともに説明文、それにダウンロードや詳細情報にアクセスできるリンクがはられている。

投票画面のスクリーンショット。左は最初に表示される5種類のメインブラウザ。右はスクロール中の7種類のブラウザ(7種類同時に表示されることはない)

喜びを最も声高に表明しているのはOperaだ。この選択画面がスタートして以来、ダウンロードは3倍増加したと報告している。Operaは3月2日に最新版「Opera 10.50」をリリース、タイミングが奏功し、過去のリリースを大きく上回るダウンロード数だったという。選択画面が欧州でしか提供されていないことを考えると、消費者への通知が選択に一定の効果(変化)を与えたと評価できるだろう。もともと欧州で強いFirefoxは、同画面経由でのダウンロード数を5万件と報告している。OperaもFirefoxも、Web上でキャンペーンサイトを設けている(Operaは「あなたの選ぶWebブラウザは?」、Firefoxは「Open to Choice」)。

Operaのキャンペーンサイト

一方、上位に表示されていない7社のうち、6社は状況の改善に一定の満足を示しつつ、不満もあらわにしている。Flockなど6社は3月4日、欧州連合に対し選択画面での露出を公平にすることを求める陳述を申し立てた。選択画面で選択できる12種類のWebブラウザのうち、画面を開いたときに表示されるのは5種類だ。残り7種類を表示するためには水平方向にスクロールする必要があるが、これはユーザーが気がつきにくく、最初に表示されるトップ5にアドバンテージがある、としている。上下ではなく水平に並べることで平等な選択につながると判断した末のデザインだと察するが、全員に不満のない形というのは簡単なことではないようだ(いっそのことアイコンを小さくして、12種類を一気にランダムに横並べするしかない?)。

なお、12種類のブラウザは5種類と7種類に区切ってランダムに配置が変わることになっているが、これについてもChromeに有利だとか偏りがあるとか、何かと精査されているようだ。

それ以外にも、BBCは12種類のWebブラウザのブラウザエンジンの点から議論している。Operaの共同設立者 Jon von Tetzchner氏が指摘しているように、ブラウザエンジンのコアは4種類に大別できる。選択できる12種類のWebブラウザのうち、IEを含む6種類は「Trident」(IE、Avant、Maxthon、Slim、Sleipnir、GreenBrowser)、4種類は「Gecko」(Firefox、Flock、K-meleon、Sleipnir)、2種類は「WebKit」(Safari、Chrome)、それにOperaの「Presto」となる(SleipnirはTridentとGeckoの2つを利用できる)。種類は増えても、かなりの割合でIE/IEに似たブラウザが選ばれる可能性があるという指摘だ。

このように不満はあれど重要な一歩を踏み出したとして、European Commitee for Interoperable Systems(ECIS)は3月2日、欧州外にも同じような選択画面が提供されるよう、他の市場の規制当局に対する呼びかけを開始した。ECISはOperaをはじめ米IBM、米OracleらMicrosoftのライバル企業が中心となった業界団体だ。

Webブラウザ市場はFirefoxの躍進やChromeの参入により、活発に動いている市場だ。一時は90%を占めたといわれるIEはこのところシェアを減少させており、1月に明らかになったIEの脆弱性では政府が代替ブラウザの利用を促すなど、信頼性も失っている。仏AT Internet Instituteの調査では、IEのシェアは2009年12月に58.6%に落ち込んでいた上、政府が警告を出したドイツとフランスの1月のシェアはそれぞれ、2.2ポイント、0.7ポイント減少し、43 - 44%台、56%台に下がったという。

OperaがECに苦情を提出したのが2007年末 -- すでに2年以上の月日が経過している。EC側は、Microsoftの独占に厳しい目を光らせた競争担当委員Neelie Kroes氏からJoaquin Almunia氏にバトンタッチしている。そして、ハイテク業界の独占といえばここ数カ月、Googleのポジションにフォーカスは移りつつある。