EUが米OracleによるSun買収に懸念、メリットを受けるのはMySQLのユーザーか?

積極的な買収戦略で、数々の企業を傘下におさめてきたOracleのLarry Ellison CEOだが、思わぬEU側からの反発にどう対抗するのか?

欧州連合の欧州委員会(EC)は9月3日(ベルギー時間)、米Oracleによる米Sun Microsystemsの買収計画について、追加調査を開始すると発表した。EU競争法(独占禁止法)に抵触する可能性があるという。この買収計画は8月、本拠地米国の司法省(DOJ)の承認を受けており、EUと米国の見解のずれを示す例となった。

Oracleが約74億ドルでSunを買収する計画を発表したのは今年4月のこと。7月にSunの株主の承認を得ており、8月にDOJの承認も獲得している。

残るはECの承認だった。だが3日、ECの競争担当委員のNeelie Kroes氏は初期調査の結果、赤信号と判定したことを発表した。報道資料によると、プロプライエタリのデータベースベンダであるOracleが、オープンソースのデータベース「MySQL」を持つSunを取得することが顧客の選択肢の縮小や価格上昇につながらないかを慎重に調べる必要性がある、としている。ECは、データベースは企業のITシステムにおいて重要な要素であるとした上で、企業がオープンソースソフトウェアを選択する傾向は強く、2社の合体はデータベース市場の競争に「深刻な懸念をもたらす」としている。今後、OracleがMySQL開発を継続する意志などを調べるとしている。

Oracle側はこれに対し、DOJ側は無条件で取引を承認したこと、Sunの株主の賛同も得たことなどを強調する声明文を発表している。

EC(というより、Kroes氏というべきか)の赤信号は、多少の驚きをもって受け止められた。驚きの背景には、すでに米国で承認されていたことと、懸念の対象が「MySQL」となっていることがある。

OracleとSunの合体について、米国司法当局の最大の懸念は「(Sunが管理している)Javaのライセンスがどうなるのか」にあった。だが、EC側はJavaライセンスについては触れず、MySQLを最大の懸念としている。データベース市場は、Oracleのほか米IBMと米Microsoftの3社で約85%のシェアを占めるなど統合が進んでおり、Oracleとオープンソースの雄 MySQLは多くのセクターで直接競合しているという。今後、MySQLのプロジェクトが発展し、機能が強化されれば、オーバーラップはさらに拡大する -- これがECの見解だ。

プロプライエタリ企業がオープンソースプロジェクトを買い取る動きは、米Novell/SUSE、米Citrix/XenSourceなど過去にもあった。それに、オープンソースではコードは公開されており、Oracleがその発展をコントロールすることは難しいはずだ。

なぜOracleにはゴーサインが出ないのか? EUはオープンソースの性質を理解していないのかもしれないし、ひょっとするとOracleのライバル 独SAPなどが政治的な動きに出たのかもしれない。Kroes氏はこれまで、MicrosoftIntelなど米国の大企業に厳しい姿勢を見せており、その延長(つまり、心理的な作用が大きい)と見ることもできるかもしれない。

だが、ライセンスについてMichael "Monty" Widenius氏(MySQLの設立者でオリジナルコードを書いた人物、今年2月にSunを退社した)がブログで8月に指摘していたように、著作権を所有する企業はある程度のコントロールが可能だ。コードのライセンスや商用利用をコントロールできるとなれば、濫用の余地があると見ることができる。MySQLはデュアルライセンス方式を採る。コードは公開されており、無償版を利用できるが、商用ライセンスと組み合わせ、商用ライセンスのソフトウェアをGPL v2下で配布しない場合は、MySQLの商用ライセンスを取得する必要がある。実際、コンサルタントやユーザー企業からはECの判断に歓迎の意も出ている。

ECの"待った"が、MySQLのプロジェクトとしての未来を確証する効果については、見解が分かれる。すでに、 Widenius氏はOracleがSun買収計画を発表した後に「Open Database Alliance」という業界団体を立ち上げ、自身が開発したストレージエンジン「Maria DB」とMySQL関連のワンストップショップを目指す、と述べている。Widenius氏の動きが示しているように、MySQLはすでに求心力を失いつつあるという指摘もある。

そういったことから、取引の成立が遅れることは、ECが目指す「MySQLの未来を保証する」という効果よりも、サーバでSunと競合するIBMや米Hewlett-Packardらにメリットを与えるに過ぎないと見る向きが多い。すでにIBMやHPは、Sunの顧客を狙った乗り換え促進キャンペーンを展開している。

ECによると、追加調査期間は90営業日で、最終判断は2010年1月19日に下す予定という。OracleのSun買収は少なくとも2010年1月19日以降になりそうだ。

追加調査の後にゴーサインが出る可能性もあるし、条件付で承認となるかもしれない。米国の規制当局が承認したのに、EU側が承認しなかったために実現しなかった企業合併として、2001年の米General Electronicsと米Honeywellのケースがある。