単価の高い商品を販売するB to B営業では、特定の戦略アカウント(顧客)を設定して、じっくりと攻略していくことが多いです。大きな売り上げを上げ、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を最大化することが目的です。

しかし、対象が大物の顧客になるため、そう簡単に思ったように物事は進みません。そこで大事になるのが攻略プランです。今回は、その攻略プランであるアカウントプランの作成についてのヒントを説明します。

アカウントプランの目的

アカウントプランの目的は、最優先の戦略アカウントに対する案件のクローズ戦略を作成することです。対象企業について可能な限りの情報(中期経営計画、組織図、業界マップなど)を入手して、それをもとに営業戦略を練り上げます。

このプランはセールスだけで作成するのではなく、近年はマーケティングやBDR(Business Development Representative)、インサイドセールス、プリセールスなどを巻き込み、チームとして作成します。これがチーム作戦のための青写真になります。

また、最近はSalesforceのアドインの専用ソフトウェアを利用してプランを作成し、社内コラボレーションを促進するようになってきました。プランは作るだけでなく、変わりゆく状況に合わせて更新していく必要があるため、ソフトウェアで作成するとなにかと便利です。グローバルでの代表的なソフトウェアにAltifyがあります。筆者も過去に所属した2社でAltifyを使っていました。

アカウントプランのターゲット企業は、既存と新規の顧客の両方があり、さらにアップ セルなのか新規獲得なのかで目的が変わります。
・既存顧客へのアップセル
・新規顧客の開拓
・休眠顧客の掘り起こし

そして、ある特定期間でのゴールを決めます。案件クローズまで行くのか、案件を作成するのか、リレーションシップを深めるのか、などです。それに応じて、数字のゴールを決めて活用します。

それを実現するための先行指標を定義しておくと、日々の活動を活性化できます。先行指標とは努力によって数字が上げられる指標で、訪問回数、マーケティング活動件数、コンタクト数などです。

  • エンタープライズIT新潮流36-1

アカウントプランの内容

このアカウントプランは様式美みたいなもので、おおよそカバーすべき内容が決まっています。以下が代表的なプランの内容になります。各項目を見ると、中身が想像できると思います。

1.アカウント戦略概要
2.チーム構成
3.アカウント企業プロファイル
4.アカウント業界動向
5.ビジネス課題
6.組織図
7.意思決定プロセス
8.IT投資プロファイル
9.現在および過去の取引
10.現在のパイプライン状況
11.営業活動を実施する上での課題や問題点
12.キーマイルストーン
13.アカウント戦術

このアカウントプランを作成するための2つのポイントを説明します。
・顧客を取り巻く環境から対象部門までの現状や動向を分析する
・リレーションシップマップを作成する

顧客を取り巻く環境から対象部門までの現状や動向を分析する

販売対象とするIT部門などの部門レベルでの現状や動向だけでなく、その対象企業が属する業界の現状や動向からスタートして、その企業のビジネス環境や動向、中期経営計画を見て、それから対象部門の動向を探ります。

業界からスタートするのが大事です。業界には独特のトレンドや規制があり、それが顧客のビジネス課題に結び付く場合が多いからです。そして、その次のレイヤーである企業の分析では4C分析の実施をお勧めします。

4Cとは、Company(自社)、Competitor(競合)、Customer(顧客)、Co-Operator(協力者)の頭文字から来ており、もはや古典の部類の企業分析のフレームワークです。ターゲット顧客をCompanyとして、その顧客、競合、サプライヤーなどの協力者の状況を分析します。

また、上場企業であればほとんどが中期経営計画を公表していますので、かならずチェックしましょう。そこには現在の経営課題、成長戦略、業界環境を読み解く材料があります。可能であれば株主になり、株主総会に参加して計画の詳細を聞くのも良いと思います。

これらの分析の結果から、ターゲット顧客の視点でSWOT分析をすることもお勧めします。SWOT分析も4Cと同じく古典的な分析方法ですが、とても有効です。顧客の内部環境であるStrength(強み)とWeakness(弱み)、そして外部環境であるOpportunity(機会)とThreat(脅威)を分析します。

その結果から、"強み×機会 = 成長機会"、"強み×興味 = 脅威を乗り切る"、"弱み×機会 = 弱みを改善"、"弱み×脅威 = 避ける"の組み合わせで、顧客になったつもりで顧客の戦略を勝手に描くのです。

それをもとに提案の仮説を作成します。筆者が最近読んだ書籍『成果に直結する「仮説提案営業」実践講座』(日本実業出版社 著者:城野えん)は、営業における仮説を立てる上でとても参考になります。

特に、Why×4W+2Hの考え方は参考になりました。4Wは「Who」「When」「Where」「What」の頭文字で、これらを掛け合わせて以下の質問で仮説を作っていくのです。2Hは「How」と「How much」です。

Why×Who:なぜこの会社は当社の製品が必要か?
Why×Where:なぜ今この会社は当社の製品の導入が必要か?
Why×When:他社のどこが当社や類似の製品を導入したか?
Why×What:なぜ当社の製品なのか?どのような価値が提供できるか?

余談ですが、筆者が富士通に最初に入社したころ、5W2Hを徹底的に叩き込まれた記憶があります。

リレーションシップマップを作成する

リレーションシップマップでは、単なる対象顧客の組織図ではなく自社とのリレーションシップを描きます。一般的には以下のような関係者がいます。
・決裁権限者:製品導入の際の最終の承認者
・チャンピオン:自社に代わって顧客社内で売り込んでくれる人
・コーチ:決済の権限はないが社内事情を教えてくれるおしゃべりな人
・抵抗者:いわゆる敵になる人
・情報収集者:指示されて情報を集めている人
・利用者 / エンドユーザー:実際に製品を利用する人

この中でも特にチャンピオンを探すことがとても大事です。セールスプロセスとはある意味でチャンピオンを探す旅です。チャンピオンは企業内の意思決定プロセスや組織の政治的な動きをよく理解しており、自社製品の強力な支持者となります。

筆者も過去に何度かチャンピオンを見てきましたが、面白い特性をもっていました。小難しい製品を導入する意欲の高い人なので、出世を熱望しているような、ちょっと変態チックな人が多かったように思えます。

意思決定プロセスの各ステップにおいて、それぞれの関係者がどういう役割を果たすかも理解する必要があります。決裁権限者は大事ですが、最初と最後しか登場しないことも多いですからね。

このように、該当アカウントについての営業戦略をチームで作成して、売上の最大化と次年度の成長のためのパイプラインを作成し、案件を成約させる下地を作ります。インターネットで検索すればアカウントプランのテンプレートを入手することが可能ですので、そこから始めるのがよいかと思います。筆者LinkedInアカウントでもテンプレートを公開しています。(https://www.linkedin.com/in/hiroyasu-kitagawa-71596311/