企業の中でなにか課題が見つかった場合、その解決方法についてブレインストーミング形式でディスカッションする場面が多いかと思います。ただ、過去を振り返ってみてください。そのディスカッションの結果、有効なアクションができて、課題を解決できたことがありますか?
ほとんどの場合は、“いいえ”ではないかと想像します。今回は、ブレインストーミングが効果的なディスカッションの方式ではない理由を探ります。そして、どのようにディスカッションをすると効果的なのかを解説します。
ブレインストーミングがうまくいかない理由とは
ブレインストーミングは1950年代に誕生した、グループでディスカッションをする手法です。複数のメンバーが議題に対して自由に意見を出し、新しい発想やアイデアを膨らませ、それらを昇華させる目的で行われています。日本では省略して「ブレスト」と呼ぶこともあります。「ブレストしようぜー」みたいな言葉があるくらい普及していると思います。
以前、イノベーションについて、それは「新結合(neue Kombination)」、つまりNew Combinationであり、自分の知識と、遠くにある自分に無い知識の新しいコンビネーションだという話を書きました。ブレーンストーミングはこのNew Combinationにピッタリで、何かイノベーションが起こせるのではないかと想像してしまいますよね。でも、そこには落とし穴があります。
その落とし穴とは、バイアスです。人間の集団における心理作用です。集団でディスカッションする場合に起こる代表的なバイアスとして、社会的手抜き、社会的圧力による同調、聴衆抑制があります。
社会的手抜きはリンゲルマン効果とも呼ばれ、集団でいるときは自分が行動や発言しなくても、ばれないという心理が働くことです。集団では、ついついさぼっちゃうのです。特定の人しかディスカションを真剣にやらないということが起きるのです。筆者にも思い当たる節があります。
社会的圧力による同調とは、集団の中で少数意見を持つ人に対し、他の大多数の人と同じような考えや行動を取るよう、暗黙のうちに強制されることです。長いものに巻かれるということです。ディスカッションにおいては、強い意見を持つ人や力関係が上の人が主導権を持ち、それに巻かれていくことが多いと思います。「この人と熱い議論をするのは面倒だ」という場面もありますが、意見に同調していくことも多いのです。
聴衆抑制とは、周りの人々の目や評価を意識し、失敗を恐れたり不安になったりすることから、援助の実行をためらってしまうことです。これが議論の場でも働き、自分が意見を持っていても自信がないため、それを口に出すことをちゅうちょしてしまうのです。筆者はこれはあまりないです。逆にしゃべり過ぎるきらいがあり、喋り抑制をしないといけないです。
そして、そもそも、ブレインストーミングにおいて全員がいろいろなアイデアを持っているという前提がおかしな話です。アイデアは普段から興味を持って色々なことを調べたり勉強したりしない限り、そんなに簡単には出ません。ある意味、アイデアは脳の引き出しですから、そこにアイデアのもとを入れておく必要があります。そのため、ディスカッションの場では、普通の人は一般的な考えしか出せないのです。それは知っていることであり、アイデアではないですよね。
この結果、ブレインストーミングは特定の人の意見が色濃く反映されたディスカッションになり、しかも、自責ではなく他責の一派的な結論になる例が多いのです。
ここで、筆者が経験した悪いブレインストーミングの例を一つ。会社の課題を全員でディスカッションするという場で、日ごろからマーケティング活動に不満をもつ営業が、一番の優先事項はブランド認知でありそれを上げなければいけないと主張して、そちらに全員が巻かれていったことがありました。
結局は、マーケティング部門が広告や事例創出などをもっとがんばれという他責の結論で終わりました。今時、ブランド認知はマーケティングだけで作ることが難しく、市場に接している社員がブランドアンバサダーとして会話を促進する必要があるにもかかわらずです。自分はどうするという視点がまったく欠けてしまっていました。
このような理由から、賛否はあるものの、海外ではブレインストーミングはアイデア出しとしては、効果的でないと言われることが多くなっています。
ブレインストーミングを進めるポイントは?
では、ブレインストーミングというか、グループのディスカションはどのように進めればよいのでしょうか?何点かポイントかあります。
まずは、ディスカッションを「アイデアをひねり出す」場にはしないで、特定の分野に対して「課題を生み出す」場にするということです。前述の通り、アイデアはそうそう全員から出るものではありません。しかし課題ならば自分たちが直面していることなので、課題を出す場としては価値があります。
ただ、ディスカッションに参加する人は、共通する課題を持つグループに限定するのがいいです。そうすれば、自分ごととしてディスカッションを行い、出てきた課題に対してのアクションを自責としてつなげることができます。この場合でも、事前に自分の意見をまとめてきてもらい、特定の強い人の意見に巻き込まれることなく公平に課題出しができるように工夫をすべきです。
ディスカッションを課題解決の場として利用する場合は、特定の課題に対して、その場で解決するのではなく、自分が持つ悩みや解決方法の案について経験豊富な参加者からヒントをもらう場にするといいと思います。解決するのは、その役割を持った人の責務であるからです。
参加者が課題についてディスカッションする場にも、工夫が必要です。筆者はなるべく、その場でぼやっとしたディスカッションはしないようにしています。そのためには、事前の準備と、ディスカッション後のNext Actionを明確にすることが大切です。
具体的には「テーマを決める」「それに対して、自分または自分の部門でどのように取り組むかを事前に考えてきてもらう」など、共通のフォーマットで宿題を出すとよいかと思います。そして、ディスカションの場では、事前に準備した内容を発表してもらい、それに対して、アドバイスをもらいます。同じテーマでディスカッションすることで、他者の取り組みからヒントを得ることもできます。
ディスカッションが終わると、30日後、60日後、90日後などを締め切りしたNext Actionを洗い出します。その締め切り日あたりに、進捗を確認する場を設けるとよいかもしれません。場合によっては、上司にNext Actionを提出して、上司とだけ進捗確認することもあります。お分かりいただけるように、自責としてディスカッションを進める工夫をしているのです。
このように、ディスカッションを効果的に行うためには、エネルギーも必要なのです。エネルギーをかけない場合は、それなりの結果しか出ません。