前回は米国では「ああしてほしい、こうしてほしい」と、何につけはっきりと要求しないといけないという話をしましたが、読者の中には米国を訪れたときにそう感じた方がいるかもしれません。米国旅行中に、お世話になりたくないけれど、もしかするとお世話になってしまうかもしれないのが、病院と警察です。そんなとき、突発的な出来事に頭の中は真っ白…。パニックになってしまって何をしてほしいのか、うまく言えなかった経験はないでしょうか。私の場合、米国生活が3年近くなり、英語はさほど上達しないものの、病院と警察の2つには慣れてきました。今回は、米国滞在中にこの2つにいかに対処するかの話をしましょう。
病院の英語 - 病院には電子辞書持参で
まず病院ですが、こちらは警察ほど緊急性もなく苦労はないのですが、医療用語という壁が立ちふさがります。最初にやらねばならないペーパーワーク(paper work)では、びっしりと書き込まれている英語の病名を見て、アンケートに答える作業をしないといけません。ただ、これは電子辞書さえあれば問題ないので、病院には必ず電子辞書を持っていきましょう。自分の発音が悪くて相手に伝わらないときは電子辞書の画面を見せればいいですし、口頭で病気の名前を言われてわからなかったら、"This is a translator. Would you type it?"とお願いして電子辞書にタイプしてもらうこともできます。
ペーパワークが終わっていざ診察という段階になったら、どうしても会話をしなくてはなりません。診察まで待っている時間は長いので、その間にでも、あらかじめwhat,why, howなどのWH questionsに答えられるように準備しておくと、聞かれたときに慌てなくてすみます。というよりも、聞かれなくても自分からいろいろ言えるようにしておくといいのです。日本には「一を聞いて十を知る」ということわざがありますが、米国は「一を聞いて十をしゃべる」ではないかと思うほど、よく話す人たちの国です。また、多民族、多宗教国家でもあり、どうやら"言わない=話したくないかもしれない→あえて聞かない"と考えるようです。「聞かれなかったから言わなかった」は決して得ではありませんので、なんとか話をする気構えだけでも持つといいでしょう。
病状や怪我の状況を説明では、難しい英語は必要ありません。"I have diarrhea(下痢)/vomit(嘔吐)/headache/stomachache/fever."や"I feel pain right here(指さす)."といった程度で十分です。ただ、病気を表現する代表的な名詞は憶えておかないと意図が伝わらないことがあります。旅行保険の説明書きに付いていることがあるので、保険の手続きをしたら目を通しておくといいかもしれません。また、病名ではありませんが、米国では鎮痛剤のことをTylenol(タイルノール。本来は商品名)と呼んでいたりと、辞書にはない生活上の呼び名や省略語があったりします。わからなかったら必ず質問しましょう。
さて、その質問です。前回、良い聞き手になるためにはどうすればいいかを解説しているWebサイトを紹介しましたが、病院で医師あるいは看護士の話を聞くときも同じことが言えます。まだ慣れていなかったころは、説明を聞いただけで帰ってしまい、後になって「わからないなぁ…」と思うことがよくありました。ある程度の説明はしてくれるのですが、ほとんど最低限の説明だけなのです。そこで、"質問は?"と聞かれたら、まず、自分が理解した内容を言って"Am I correct?"と確認からはじめるといいでしょう。自分の情報を提供することから始めるのです。自分の理解の程度を見直しているうちに、本当の質問を思いついたり、相手が間違いを正してくれたりします。
英語がヘタだから、などど気にする必要はありません。米国は移民の国ですし、私のように数年の期間暮らしているだけの外国人も大勢いる国です。英語があまりうまくない人たちが病院を訪れるケースはめずらしくありません。医療関係者は英語のヘタな人に慣れているので、ゆっくり丁寧に言葉をつないで説明してくれます。そして、ヘタな英語でも聞く耳をもってくれる人たちです。だまってうなずくだけで終わりにしないで、積極的に話してみると気分的にもすっきりして帰ってこれるのではないでしょうか。ちなみに、私は難しい説明や名称などは「紙に書いてください」とお願いするようにしています。
警察には発音はっきり、そして「とにかく来い!」を伝えよう
もう1つの警察は外国人旅行者には難関かもしれません。米国は警察も消防も911をダイヤルしますから、電話口ではまず「何が起きたか」「何をしてほしいか」を伝えなければなりません。文章で言う必要はなく単語だけでいいのですが、電話越しなので発音が重要です。はっきりと、おおげさなくらい口を動かして発音しないと相手はわかりづらいようです。
911に電話をする場合はたいてい来てもらいたいときなのですが、ストリート名(住所)を正しく発音するのがまた大変です。せいぜい2つくらいの単語しかないのですが、正しい母音、子音、そしてアクセントで発音しないと何度も聞き返されてしまいます。たとえば、よく目にするストリート名"Lincoln"は「リンカーン」ではなく「れぇんくん」です。やむをえない場合は、考えられるかぎりの付加情報を追加します。さらに、同じ名前でもCir(circle)やLn(lane), Ct(court),St(street),Rd(road)のように違う略称が付いてたら別の住所です。気を付けましょう。
そして、「何をしてほしいのか」を伝えるときは"I need ..."や"I want ..."のようにはっきりと要求を言うようにします。交通事故なら"Please, come over here. I need(want to have) a police report."くらい言えば、十分ではないでしょうか。何をしてほしいのかがうまく伝われば、その後の対応もスムーズです。
なお、米国では州によって法律が違い、保険会社側もすべてを把握してはいないので、小さな事故だとしてもレポートは持っていたいものです。たとえば、ミシガン州の場合、相手に100%責任がある事故だから相手に修理代を出してもらいたいとすると、被害者がみずから相手の保険会社に請求しなければならない法律があります。つまり、自分の保険会社が相手の保険会社と交渉してはくれないのです。相手の保険の情報を持っていなければ、相手の責任であってもdeductible(免責)を払うことになってしまいます。
要求をはっきりと口に出して言うのは日本語ではなかなか難しいところですが、文化の違う英語なら逆に言いやすいかもしれません。毎日の生活の中で、自分は何をしたいと思っているか、してほしいと思っているかを英語でつぶやいてみるトレーニングをしてみてはいかがでしょうか。