EC業界には企業が次々と参入し、競争が激化しています。この連載の第3回までは、EC業界のトレンドや、多くのユーザーが集まるECモールに出店する際に押さえておくべきポイントを紹介しました。
最終回となる今回はこれまでの内容を踏まえて、大手企業でECモールを担当するマーケターが陥りがちな「商品が売れない」「ECモールをうまく活用できない」といった問題に隠された「罠」と、その回避策についてお伝えします。
罠1:ECモールへの理解が浅く広告代理店の提案を鵜呑みにしている
第2回でお伝えした通り、ECモールに対する理解が浅くて戦略の構築ができなかったり、効果的な施策がわからなかったりと、担当者が広告代理店へECを完全委託してしまっている状況が多く見受けられます。
しかし、「電子商取引に関する市場調査 (経済産業省 商務情報政策局 情報経済課)」によると、消費者の購買行動においてEC化率はいまだに全体の8.8%程度です。つまり、ほとんどの物がリアルの店舗で購入されているのが現状です。
さらに、企業のマーケターから見ると、ECは数ある販路の中の一つです。そうすると必然的に注力度も低くなり、「出品して広告も出稿してはいるが、それ以上のリソースはさけない」という状況を生み出しています。
広告代理店に完全委託してしまう大きなデメリットは「自社内にECモールで成長させるためのノウハウが蓄積されないこと」です。例えば、ターゲットに対してどのような広告を打てば流入が増え、どのような商品ページを作ればコンバージョン率が高くなるのか……。このような運用ノウハウやデータを蓄積して、さらに新しい戦略を立案する力をつける機会が得られないのも、マーケターにとって大きな損失だといえるでしょう。
また、広告代理店は広告運用のプロではありますが、ECモールの運用に特化したプロではありません。それゆえに、メーカー側に出される提案も「追加の広告出稿」などに限定されてしまいがちです。
「どのターゲットに対してどのような広告を出すか」を重視する方も多いかもしれませんが、ECモールはユーザーの流入施策(広告やSEO)だけでなく、商品の魅力をいかに伝えるか、物流システムはどうするか、販売コストをどう考えるか……などの合わせ技です。広告に費用を投下する前に、商品の魅力が伝わって購入を促す商品ページを作成することが必須です。
運用にリソースを割いてまでECモールに注力すべき理由は、直接顧客との接点を持ち購買データなどを蓄積できるからです。小売店をメイン販路とするメーカーは、商品を小売店へ卸すので、購入チャネルにおける消費者との接点を持っていません。そのため、そのようなメーカーは顧客の属性や消費行動をデータで把握することができませんが、ECであれば取得可能なのです。
罠2:ECを活用するメリットを実感できていない
そもそも、ECを活用するメリットを実感できていないこともマーケターの足かせになる罠です。上記でも述べたように、ECを活用する主なメリットは顧客のデータを社内で管理しマーケティングに生かせることですが、このメリットをうまく活用できていない例が少なくないようです。
その具体的な原因は、社内体制の問題と、取得した顧客のデータ資産を活用できていない問題の2つだと考えています。
1つ目の社内体制の問題とは、どの部署の担当者がECモールの売上の責任を負うかという問題です。ECモールは複数の販路の中の一つとして位置付けられることから、営業部にひも付いている場面が多いようです。しかし、顧客の購買データをマーケティングに活用するためには、ECはマーケティング部によって運用されるのが望ましいでしょう。
2つ目は顧客のデータ資産を活用できていない問題です。ECモールによって取得できるデータは異なりますが、通常ECモールでは商品を購入した顧客の属性や購買行動などのデータを取得できます。これを活用しない手はありません。
ここで取得できるデータは、販路が小売店中心の場合のマーケティング戦略を考えるときにも非常に貴重なデータです、どんな属性の人が、いつ、何を買ったのかや、リピート率やその頻度も分かります。レビューを見れば、商品の何に魅力や不満を感じているのかも把握できるので、まさに宝の山です。
罠3:ECモールの仕様に沿った商品ページを作れていない
この連載の中では、「ECモールは単に広告を出稿するのみで売上が増えるわけではない」とお伝えしてきました。その理由は、検索結果画面(SERP)と商品ページにあります。
ECモールでは、消費者は欲しい商品を検索した際に検索結果画面にランディングした後、商品ページを見て購入するかどうかを判断します。つまり、検索結果画面で欲しい商品がすぐに見つかり、「買いたい」と思わせる商品ページでなければ離脱してしまうのです。
ところが、ありもののクリエイティブを商品ページに反映しているだけで、「買いたい」と思わせる商品ページになっていない商品が多く見受けられます。広告経由でユーザーを商品ページにランディングさせたとしても同様です。
「予算はあまりないけど、すぐに商品ページを改善したい」という方は、まずはベンチマークにしたい商品ページを検索してみてください。よく売れている商品や、デザインが好きだと感じるブランドの検索結果画面や商品ページを見て、自社とどう違うのかを研究してみるのもおすすめです。
まとめ:ECモールで売れるために
ECモールで「売れない」理由がわかれば、反対に「売れる」工夫の仕方も見えてきます。ECモールに特化したコンサルティングや運用サービスを利用するのもその工夫の一つですが、何よりも大切にしていただきたいのはブランドとして「戦略」を立てることです。
つまり、自社のブランドを誰にどのように売りたいのかを考えて、ECモールの位置付けを定義することです。そして、ECモールで得た顧客データを活用して戦略をブラッシュアップし、新たな施策を実行する。このサイクルを大切にしながら、ECモールと向き合っていただけたらと思います。