春は、北斗七星がよく見える季節です。という書き出しで2016年にもとりあげているのですが、もうちょっと北斗七星な話をしてみたくなったので書きますよ!

えー、宇宙系を仕事にすると、星空の解説も必要になることがございます。いま、見えている星はね、ってやつですな。プラネタリウムや星空観察会などで需要があるんですよー。本職の研究者は物理学から入ってきているので、そういうことはほどんどの人はできない(たまにできる人いる)のですが、わたしどもはできないわけにはいけません。まあ、大切な入り口でございます。いえ、ワタクシは星空語るの、結構好きでございますよ。

で、そのとき定番で解説するのが季節を代表する星です。これ、セオリーとして、だれでも、どこでもカンタンに見つけられるものをとりあげます。

  • だれでも、には、子供たちも入るので夜8時くらいをめどにします。
  • どこでもカンタンというと都会で見えるこれは明るい星の1等星と2等星+形が分かりやすいとしぼります。
  • さらに空高く見えるのがポイントですな。低いところはビルや山に隠れます。

で、春夏秋冬1月、4月、7月、10月の各15日、夜8時の都会での星図をつくると、こんな感じ。周囲が地平線。真ん中が頭の真上です。なお、以下の図はすべてアストロアーツ社のステラナビゲータで作成しています。

  • 北斗七星

冬はオリオン座+冬の大三角形(シリウス)。

夏は夏の大三角形(織り姫・彦星)で、まあそれにつきますな。

秋は実は目立つのがなくて困るのですが、夏の大三角形が見え続けるので、それでお話ができます。

今年は木星と土星という特大ボーナスもついております。

じゃあ、春はどうするの? でございます。冬の残りをといっても、オリオン座はかなり低空で見にくい。アルクトゥールスという耳慣れない星が輝いております(夏の空にもありますな)。まあこれでもよいのですが、みんなが知らないのでスタート地点にならない。

そこで、東の空高いところをて見ると……おおっ、北斗七星があるじゃないですか。これはバッチリでございます。

そう春は北斗七星なんですな。この連載の第74回でもお話した通りでございます。

  • 北斗七星

え? 七つない? そうですなー。そうなんです。なんというか、都会では真ん中の星が暗くてかなーり見えにくく、北斗七星にならんのです。まして、春は黄砂だ春霞だと空がぼんやり見えにくい時期。よけいに条件が悪いのですな。

上の図は、南を正面にみると、北斗七星が横むきに見えていますが、これをあらためて、東を正面にして見てみますと、立ち上がるような感じに見えます。真ん中の星メグレズ3.3等星が見えると設定すると図の通りです。

  • 北斗七星

アルクトゥールスという星に近い、3つの星がけっこう目立ちます。あとはがんばって、その上の4つを探すって感じですな。都会で星空観察すると、まさかの北斗七星で苦労するのでございます。泰山北斗とかいうのに、見上げられないのでございますな。

さて、そんな北斗七星ですが、ちょっと調べるとなかなか面白いのです。

かつて、北斗七星は妙見信仰の対象になっているって書いたことがあります。北極星と同一に考えられているなんて話もあります。「北斗七星から北極星を探しましょう」って教育を受けた身からすると「なんだそりゃ?」 という感じですな。が、三国志(魏呉蜀で西暦250年くらいですな)の諸葛亮孔明も言及していることから、まあ1800年前にしてみます。

  • 北斗七星

1800年前は、北極星が「天の北極からだいぶはずれ、北斗七星が『天の北極』にかなり近いことがわかります。北極星単独というより、北極星+北斗七星で「天の北極あたり」という感じですな。なるほど北極星と同格扱いがわかる感じです。あと、1800年前では「天の北極」の「の」の字のあたりに隠れているのですが、コカブという星の方が北極星にふさわしい感じです。

ただ、まあ北斗七星は北斗七星って感じですな。1800年たってもそこは変わりません。変わったのは地球の地軸が指す方向でございます。これ26000年で元にもどるんですけどね(歳差運動といっています)。

さてステラナビゲータというソフトでは数千年までしか時間を変えられないので、このあとはもっと変化がでかくできるソフト。数万年前の星空や数百光年離れたところの星空を再現できる Hipplinerというフリーソフトを使って遊んでみましょう。

まず、ちょっと旅行をしてみます。500光年ほど飛ぶ感じですな。すると、北斗七星の星は「たまたま方向が同じ」なだけでなく、実際に同じようなところにあることがわかります。

  • 北斗七星

さらに、30万年くらい未来までをシミュレートしてみると。まあ、北斗七星の星はそれぞれ動いているので変形するのですが、よく見ると真ん中の5つの星は一体で動いています。

星座というのは「たまたまその方向にある星が見えている」ものではあるんですが、北斗七星の星たち、特に真ん中の5つの星はもともと兄弟だという証拠でございます。こういうのを運動星団とか、アソシエーションとかいうのでございます。北斗七星は結構奥が深いのです。

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